第3章 8話 治療法
人間鬱とやらにかかった精霊の元へ
そこにはクロクという人間の生き残りがいた
歴史を教えてもらい精霊に仮を返す為力を貸すことにした
「じゃあ行こうか」
クロクは隣の部屋、おそらくキッチンから食べ物が入った器をどんどん持ってくる。どれも積み上がっていて重そうだ。
「これ全部クロクが?」
何回も往復し机の上に置かれた器は10皿程になっている。しかも、みた事無いものだらけだ。
「そうだよ、さぁ手伝って」
クロクは僕の両手に器を乗せてくれた。バランスが一瞬崩れたが踏ん張って持ち直す。
「急に乗り込むよりは、ご飯を持って行った方が敵対されないでしょ?」
「確かに」
「キャン!」
「ワンワン!」
「――っ!?」
急に鳴き声が聞こえたと思えば、足元に獣が現れていた。クロクが渡したお皿を次々に咥えては走っていく。
なんなんだこれは?
僕の視線に気づきながらも、クロクは説明しないままに扉を引いた。
「さっ! ご飯だよ!」
明るく振る舞う彼について薄暗い部屋に入る。
「…ピロピロ」
「ヘルへ……」
そこには沢山の青白い精霊が横たわり、身体が薄くなっていた。今にも消えそうになっている。
「大丈夫だよ。彼に害は無いからね」
グシャッ
「―!」
気づけば、何かを踏みつけた。ゴミか?
「あー散らかってるから気をつけて」
「ワン!」
獣が僕の前を導くように、ぐにゃぐにゃと歩いていくのでその道に従った。
目を凝らすと床には、何かの抜殻に葉っぱ、ご飯……色んな残骸が散らばっている。
「ごめんね。僕だけじゃ手に追えなくて………」
クロクも限界そうだった。
おそらく、30程はいる。それをクロク1人では、やはり人手が足りなさすぎる。眠るのも出来ないくらいだろう。
「いやっ!何もしないで…」
精霊が急に高い声を出しながら僕を見て震えている。こういう時は刺激を与えない事が1番だ。
僕はご飯を置いて扉に向かい両手をあげた。降伏の意味が精霊に伝わるかは分からないが。
「僕は何もしない。」
それでも状態は騒がしくなり不協和音のように悪化していく。
「大丈夫。彩夢はフェアエスト様が連れてきたから」
ウェディが何処からか精霊の前に現れて説明してくれた。
「キャンキャン!」
「ワン!」
獣も僕のためなのか足に顔を擦り付け、へっへっと舌を出している。精霊達は少し時間が経つと呼吸をしながら静かになっていった。
「大丈夫。」
「…うん。」
セイファが話しているが、身体の薄さは酷くなる一方だった。おそらくストレスという奴だろう。
「大丈夫! もし何かあったら僕が殺すから。」
「キサ…?」
「うん! 皆の前で殺ってあげるよ。」
クロクは精霊達を励ますように、明るい声で笑っていた。
複雑だが仕方ない。
僕は感情を殺して適当に頷いた。
「じゃあ。今日はこれで。これから彩夢くんも手伝うから」
「失礼します」
僕は部活のように挨拶をして部屋を出た。獣達はクロクに撫でられると、すぐに扉をすり抜けて何処かへ走っていく。
「最近は手伝いを頼んでたんだけど、彩夢が来てくれるから、 あの子達はもう休ませてあげないとね。」
「そうか。いや、そんなことより……殺さないでくれ」
「あははっやっぱり気にしてた?分かってるけど、ああでも言わないとね」
クロクは明かりをつけてさっきと同じように椅子に座っていた。
「で、鬱?だっけ。あれってどうしたらいいのかな?そもそも鬱ってなんだい?」
クロクは困った顔をして僕を見つめていた。
「知らないのか?」
「あいにく。この世界で長く生きすぎたせいで現世の記憶が無いんだよね」
それにしても何年くらいいるんだろう?クロクも気になるが今はそれどころじゃないな。
「簡単に言うと心の病ってところだ。何もしたくなくなるし。何も喜びを感じない」
僕もおそらくそれで死んだ。ま、何回もなりすぎてその感覚すら曖昧だが。
昔からの好奇心で、自分について調べようとする癖があるのがここで役に立ったなら良かった。
僕の場合、陸上とか身体を動かす時だけは笑えたから何とかなった。最後の方は陸上すら駄目になったがな。
「鬱を治すには周りにあるストレス要因を全て片付けて環境を改善する。」
今回はそのストレスを与えた奴は消したらしいから、問題解決はしなくていい。
「んー?」
「具体的に言うと、まずは生活習慣を治しながら部屋の片付けだ。その後に日光にあてる。唐突な日光だが、日光に当たるのはとても大事なんだ。まぁ少しづつするしかない」
自分の課題としては、僕の存在を許してもらう事、周りの緩和。あとは、運動してくれるところまでいけば良いが
「大変だね」
「正直、時間はかかるが安全第一だし負荷をかけないやり方だ。大事なのは、刺激を与えず少しづつ慣らすのを心がけて地道にやる事だ。」
人間は、鬱なんて心の病気だ。と言うが深刻な問題だし侮れない。軽くみられては尚更傷つくだろうし。
まずは理解する事だ。
「よし、やるか!」
僕は勢いよく立ち上がった。先にお手本を見せなければ。
「あっちょっと待って。もう暗くなるよ」
クロクは指を鳴らし外のドアを開いた。最初に来た時は外が明るかったのに、もう暗くなっている。
「流石にはやすぎないか?」
「ここは時間が経つのがはやいらしいね。人間界の2分の1らしいよ」
つまり、ここでは12時間で回っているのか。なら、今から準備は無理だな。
「なるほど。じゃあ、仕方ない。」
僕はまた椅子に腰掛けてただ暗くなっていく外を眺めていた。
「あっ」
「どうした?」
暫くして、クロクは何かを閃いた顔をして僕に目線を向けていた。
「そうそう! ね、彩夢。なんかお礼させてよ」
「いや、まだ解決もしてないし。」
お礼と言われてもな。
「僕にとっては、色々分かっただけで奇跡みたいなもんだよ。それに、このままじゃ僕も皆も危なかったし」
このままいけばクロクも精霊も共倒れだっただろう。だが……
「さっ。なんでもいいよ!」
クロクは僕に強く微笑みかけた。
「なんでもと言われてもな」
僕は少し考えてみた。今僕がしないといけない事、必要な事。天空に帰ったらフォルナと戦うかもしれない。
彼の魔力を見るに教わることは多いだろう。
そうだ!
「なら僕を鍛えてくれ」
「え?」
日が暮れそうになった紫の空を見上げながら、僕達は外に行き武器を出した。僕はステッキしかないが。
「僕、素手でいいよ。」
「本気か?」
「大丈夫大丈夫。……僕強いから、本気で来なよ彩夢」
クロクは余裕そうな顔を浮かべて手をクイクイと動かしていた。強いなら、本気でいかせてもらおうか!
「来いっアラストリア!」
――数分後
「あっおにいさん!」
「…あぁ……弥生! …………元気……だったか」
「うん!あれ、なんか、おにいさんのこえがつかれてるよ?」
特訓1日目。咄嗟に僕は後悔していた。
「あはは! 彩夢ーー?もっと頑張りなよ?」
「これでも………本気…まだいける!」
僕は雑念を振りステッキを使いながら戦っていくが、全く敵わない。ヒラリと避けられたと思えば、小さいはずの拳がとんでもない威力でぶち当たる。
普通に考えて魔法ステッキというのも相性が悪い。何故かアラストリアは使えないし魔法はまだまだだ。
「いくよっ彩夢!!」
クロクは、流れを落とす事なく凄いスピードでおそいかかってくる。ステッキに軽く手が触れた瞬間、僕は吹き飛んでしまう。
「うああああああああ!」
ドサッと茂みに落ちたから危機一髪で助かった。僕は飛び上がると、すぐに自然は直っている。
「まだ出来るよね?」
「あぁ」
クロクはそうこなくっちゃ。と目を輝かせていた。あぁ、
僕はとんでもない人を選んでしまったようだ。
「傷の一つくらいはつけてくれないと」
ギリギリの僕とは違い、クロクは嬉しそうに空を見あげている。
「さ。あと……3試合くらいだね」
その後、もちろん完敗した。
「えい」
「うぐっ」
彼は険しい顔1つせずに、笑いを崩さないままで終わってしまった。骨が数本折れた気がする。
「あはは! 久しぶりに動いたよ」
「強すぎないか?」
「そう?明日もやろうね」
僕は、さっきの映像が何度も頭を回っては寒気を覚えていた。
「はは、大丈夫だ。」
「そう?ならいいけど。」
弥生は僕を気遣ってくれているような口ぶりだった。
「で、どうした?」
「ねぇ、おにいさん」
「ぼくきめた!」
弥生の声は急にハキハキとしていて、何かは分からないがやる気を感じる。
「おにいさんのかわりに、ぼくがげんじつにいくよ! 」
「それは、本当か?」
――その頃
「ピーヨッピ!」
「はぁ…はぁ………」
ある少女は、つるを払いながらヒヨコと一緒に山の中を登っていた。
「あそこに明かりが、もしかしたら!!」
近づくにつれ、明かりと共に家が見えてきていた。家からはパーティのような曲が流れ笑い声が聞こえてくる。
「へぇ………精霊界にも人間っているのね」
「ピヨッピヨッ」
少女が門の前に立ち、門を叩くと1つの人影が見えてくる。女が少女を見つけると人がぞろぞろと出てきた。
「ねぇ。あんた達、この子知らない?」
彼女の紙を見るも皆頭を捻っていた。
「何?それに貴方誰よ」
「知らないわよ。こんなの」
「そ、ありがとう。」
(収穫なしか)
彼女はしょんぼりしながら彼らに背を向けた。
――その時
「っヤン!!! ワン!!」
「んっ?」
彼女が振り返り、鳴き声の方へ目を向けるとボロボロの犬に似た獣が決死の表情で叫んでいた。
まるで、助けを求めるように。
「おい、うるせぇぞ!」
バチッ
「……っ」
しかし、すぐさまムチ打たれ、犬は動かなくなってしまった。
彼女は眉を寄せながらヒヨコと目を合わせる。
「ピロピロ!」
「シュ!シュ!」
ザーっと他の精霊達も家から一斉に出てきて声を上げ始める。まるで、これが最後の望みというように。
「ピヨッピヨッ」
(あの人間……おそらく)
「分かったわ。」
黒いヒヨコに合図をだし、靴を地面にトントンと音を出すと、すぐに葉っぱをちぎって入れ始めた。
「少し手間だけどやるか。貸しだからね、後で手伝ってもらうわよ?」
「フェン!」
獣は少女に感謝するように泣き始めている。
「はぁ?何をする気?」
「あんた達はちょっと締めないとってだけ」
影から長い鎌が2つ現れる。彼女は鎌を掴むとまた影に鎌を突っ込んだ。
「叩きのめしてあげる」
「ガアアアア!」
「キュラー!」
鎌を上げると、2匹の獣のような魔力を纏う。少女はそのまま人間へと迫っていった。
片方の鎌には稲妻が走り片方には炎が舞う。
「――!」
「何よ。これ!」
「あんた達を返す場所に返してあげるわ。冥界の姫の推薦状ならきっと未来は安泰よ?ま、未来なんてないけどね!?」
「……ピィ」
次回
弥生編へ
次は2週間以内には出します
9話らへんが引っかかるので訂正予定です




