第三章 2話 声
遅くなりました!すいません!
全員倒れて後は僕だけが立っている。
銃を持つ手は震えているが、それでも何とかしなければならない。僕は力をいれながら銃を構えた。
「ふふっ」
フォルナは杖を振ると、炎が現れ無造作に襲いかかってくる。
避けるしかっ
「………っ!」
魔力のない僕には、炎を数ミリの間隔で避けるのが精一杯だ。
もしかしたら、わざとなのかもしれないと思うくらいに運良く避けられる。彼女の杖は軽快でもてあそばれている気分だ。
どうすればいい?3人を抱えて逃げるなんて絶対に無理だ。
バン!バン!
僕は右手に今ある力を込めて撃つが全く効いていなかった。彼女はただ見下すようにニヤッてする。
「……っ」
狙いが分からない今、ウィストリア達と距離を置くわけにはいかない。彼女は、また魔法を展開し始める。
さっきより速い。避けれっ――
「ぅあああっ!」
避けようとかわしたが炎を避けきれず右のふくらはぎに直撃する。僕は転がるように地面に叩きつけられた。
「――っ!」
まだ右足首がやられていないだけマシだ。
僕は血が流れ麻痺した足を無理やりに動かしていく。
まだ終われない
「っああああああ!」
僕の銃に全てを託すように引き金を引いた。
カチャカチャ
「――――っ!」
魔力切れ。なら、殴るしかない。
「あれ、もう終わりなの?ウィストリアが選んだから少しは見直そうとしたのに。あぁ、あの人の頭はもう駄目って事ね」
「馬鹿にするなっ!」
僕は必死に距離を詰める。力が無くとも、今の僕に諦める選択はない。
「はあああああ!」
距離をつめた瞬間、僕とフォルナの間に風が吹きあれた。
風?ウィストリア?
僕が振り向くと、スプラウトが血だらけの手で付与器を破壊していた。
「はぁ………は…頼み…ましたよ!! ……セイ…ちゃん!」
スプラウトは声を張り上げるように叫ぶと、後を託すようにバタリと倒れ込んだ。
セイファ?
「……っ」
揺らぐ視界に耐えるように唇を噛みながらに目を凝らすと、小さな精霊が羽ばたいている。
「堕ちたものね、フォルナ」
「あら。またあなたなの?」
セイファはフォルナが答える前に魔法陣を展開していた。
「ウィスルド!」
その声を共に魔法陣から光を放った。目を開けると、いつの間にかフォルナの距離が離れ、傷が癒えている。
「スプラウトに頼まれたもの。この行為、天空全体を敵に回すのと変わらないわよ?」
「うるさい!!」
バッ
フォルナの魔法を受けてもセイファの身体には傷1つ無い。
「このクソ精霊!」
と言った矢先にクスッと彼女は笑った。
「なーんてね。あぁーはっはは!」
「何のつもり?」
フォルナは嘲笑いながら下から時空を開き魔法書を取りだした。さっきのとは雰囲気が全く違う、黒い魔法書だ。
「計算済みなのよねぇ。あの新人のことなんて知っているもの」
字は読めないのはウィストリアがいないからだろうか?いや、みんなの声は聞こえているんだ。ウィストリアさんはまだっ
「それは……本当に敵に回すのね」
「そうよ! あんな生活やってられないもの。私は人間を使って現実世界もこの憎たらしい天空すらも壊すのよ!」
人間を使うだと?
「そう、だったら容赦しないわ」
「……力をセイちゃんに」
セイファが手をあげるとスプラウトの魔力が向かい、徐々に光りを包んでいく。気づくと、大人びた女の人がそこに立っていた。
この鳥肌がゾワッとたつ感じ。これなら何とかなるかもしれない。
「ハリウィド!」
セイファは10の魔法陣をフォルナの周りに一斉に展開し風をおこす。
「はぁ。だから言ったじゃない?こっちにはこれがあるって」
嵐に巻き込まれながらもフォルナの顔は歪まず笑みがあった。
「ダクテルリド!!」
黒い魔法書が光った途端に、セイファの周りが黒い壁に阻まれる。そして、影が彼女の手元から現れる。
「これっ」
セイファが振り向き「さいむ!」と叫び指さしながら魔法陣を出した。その方角に目を配ると黒い影が獣のように動き僕に襲いかかる。
「ガハッ」
瞬時に現れた影は腹部を貫いた。簡単に血が流れていく。
「――っ」
「セイファさん!!」
気を失いそうになりながらもセイファを見ると、傷1つ受けていないのに倒れている。
「びっくりしたでしょう?」
「……」
「無知な貴方に説明してあげる。それは魔法を無効化してその魔力の分だけ身体そのものに反射させるものなの。妖精は魔力が強いけど、魔法には耐性はないのよね? ……あっははは!」
「彩夢っ………スプラウト…」
「セイファっさん!」
しばらくもしないうちに、姿は元に戻り黒焦げのように力を失っている。無理やり力をいれセイファの元に向かった。
ガンッ
「くそっ!!」
セイファに触れようとしてもバリアが破れない。
「さっ話は終わりかしら。ねぇ、最後にチャンスをあげるわ。私と来ない?」
「何度言われようが行く気はない!」
この人達には返しきれない恩がある。この世界で親切にしてくれて色々と教えてくれたんだ。こんな僕が言う事を信じて、手伝ってくれた。
絶対に失うものか!! でも。どうやって守ればいい??
――なら、我に賭けてみないか?
その時、どこかで聞いたあの声が僕に響いた。
(お前なら出来るのか?助けてくれるのか?)
「そう残念。」
フォルナはすぐに魔法を容赦なく打ち込んでくる。僕は、向かってくる攻撃を必死に滑るように避ける。
――お前がやるんだ。自分の力で
「……どうやってだ」
火花が熱いっ
――お前が望むものはなんだ?地味に生きる事か?全て、抑え込んで我慢の日々を送る事か?
「違う!」
僕はただ変わりたかった。違う世界で。この世界でもう一度
結局僕に力はないし。周りが変わっても自分自身はなにも変われなかった。
そんな僕と違って、変わらない世界で頑張る人がいる。この世界で願いのために日々を捧げる人がいる。
居場所をくれる人がいる。待っている人がいる。
僕がこれから望む事は
「………勝つ事だ!自分の人生にも、このクソみたいな運命にも! 僕はもう負けたくない!!!」
陸上人生に、人間関係。あらゆる場面で望んだのは勝ちだけだった。勝ちは僕の護る唯一の武器だ。
「ね、何をさっきから言ってるの?」
僕は攻撃を避けながら頭に響く声と問答を繰り返す。
――この世界は周りの人間も法律もない分かるな?
この力でやれっていうんだろ!?
(彩夢くん怖くない?)
(関わるのやめよー)
ザワザワ
「……っ」
周りから見たらおかしい事が狭い範囲なら正しくなるような社会。自分を天秤にかければ、僕の信頼なんて簡単に裏切る人間。
僕はフラッシュバックにうなされながらも必死に顔を振った。
――こいつらはお前を信頼していないと思うか?裏切ると思うか?
それは分からないし、でもこの暖かみを信じる価値はある。
「っ…!」
魔法が腕に当たり銃は遠くに弾きとんだっ。まだ!!
皆は僕を大切にしてくれた。
例え裏切られても構わない。だって、もう覚悟は最初から出来ている!
「おに………さん…僕は!! ……信じるよ!!」
弥生は意識を朦朧としながら声を出す。
――だとよ?彩夢
――我はお前を護るために生まれたのではない
そうだ。
「僕はこの世界に、理不尽な世界に抗って生きていく!!
「……もう一度、力を貸してくれ」
――構わない
僕は息を吸って目を見開いた。
「……我らを護れ」
僕から顔を出した影はバリアをかみ砕く。
「なにっ」
「いや違う。――我が身を導け!!!」
その影は弥生の影を喰い尽くし、魔力に変えていく――!
「っ来い!!!!!!」
――我の名は
『「――アラストリア!!」』
「………ゥヴヴヴルアアアアアアアアア!!!」
影は黒い泥沼から突き破るように頭を出した。鎖だらけの獣は上半身だけしか出さず、顔の1部しか見えない化け物は大きく唸りを上げる。
影は竜のような顔へ変わり、化け物はフォルナに向かって牙を向けた。
「……あ…れは、神獣ですか?」
スプラウトは唸りに反応するように顔を上げる。
力が、アラストリアの魔力が僕に流れてくる。暖かみを覚えた心が焼ききれるような怒りを力にする。
「……」
「所詮ただの置ものよっ!!」
グサッ
フォルナは俺の心臓を魔法で貫く。意識は消えることがない。より鮮明になっていく。
「クルアアアアッッ!!!」
「何なのよっっっこの化け物は!」
痛みがあるにも関わらず僕の身体は動き続けていた。魔力を使い遠くに転がる銃を引き寄せる。
「………俺という概念は、ここでお前に破壊されるものじゃない!」
俺は銃口を向けた。
「違うわ、スプラウト。………あれは」
「――死呪霊よ」
「クルウアアアアアアアア!!!」
「さぁ反撃開始だっ」
アラストリアと僕…
これなら何とか出来そうだ
力を貸してくれ
次回
死呪霊 アラストリア




