第二章 13話 祝杯
牙陪蘭の件は解決した
春歌さんが起きたらパーティを開始しよう。
「……! すいません少し寝すぎちゃいました」
「大丈夫ですよ。元気そうで良かったです」
春歌は暫くして目を覚ました。まだ、少し疲れている顔をしているがグッと身体を伸ばし起き上がった。
「光希くん達は?」
「今からお祝いなので準備してます」
僕が扉を開けると、キッチンから2人が仲良く準備している声が聞こえた。
「なら、良かったです!」
「あの光希は大丈夫なんですか?」
僕が聞くと春歌はうーん。と暫く黙り込んでしまった。
「光希くん。おそらくですが、あの子の中に死呪霊がいます」
「…っ!」
「ほんの僅かですよ。彼は自我を持っていますし」
なら、僕と戦った時は死呪霊に取り憑かれていたのかもしれない。
「死呪霊。ウィストリアさんが調べてくれてはいますが、1つ分かった事は死呪霊は死呪霊どうしでは戦えないようになっているかもしれません。補助のように協力は出来るようですが」
「潰しあって数を減らさないようにとか?」
「おそらく」
なら、光希はどうすればいいんだろうか。これからも襲われれるかもしれない、このままじゃ彼の負担が……。
「私の自論ですが……見た感じ、光希くんの中にいる死呪霊が弱っているのかと。彼らにも力関係があって差があれば戦えると思います。」
確かに光希は死呪霊に攻撃されてたし。そう考えれば噛み合う話になるが、そこまで複雑にする目的は何だろうか。
捕食のため?
弱いもの同士で潰し合うのではなく、あくまで強いものに喰われていくのを想定している?または、力ではなく種族などがあって特性がある?弥生のは特殊だったとか。
「これから考えていきましょう。しかし、いつ来るか分からないし凶暴なやつです。弥生が1人の時に何かあったら……」
「なら、武器とか使ってみるのを考えておきます。光希くんはきっと大丈夫です! ウィストリアさんに頼んだら何とかなります!」
なら、ウィストリアに聞いてから色々と行動してみよう。
「あっ、あと彼には言わないであげてください」
「分かってますよ。」
光希にはずっと笑ってほしいしな。僕も出来る限りはウィストリアさんに協力すると決めている。これからも忙しくなりそうだ。
ガチャ
「おにいさーん!!」
少しドアを開けていた事に気づいたのか2人がやってきていた。
「春歌さん、眠れましたか?」
「はい! 牙陪蘭さん ありがとうございました」
「いえっ、それほどでも」
牙陪蘭は恥ずかしそうに照れていた。
「お祝いの準備出来ましたよ!師匠」
「ありがとう、2人共。」
「春歌さん行きましょう」
「おねえさんも!」
「はい!!」
僕達がキッチンに向かうと、部屋がカラフルに飾られていた。ケーキまであるとは。
「凄いな」
「頑張りましたから! ね、光希!」
「うん! がべらにいさん!」
いつの間にか距離が近づいているな。僕は微笑ましい気分になってしまう。そして、光希の体調は変わらず良さそうで何よりだ。
「じゃあ、色々解決したって訳でカンパーイ!」
「カンパーイ!!!」
牙陪蘭は声を出し、僕達は炭酸をいれたコップを鳴らした。
「これは?!」
「炭酸っていうジュースなんです!」
「炭酸? 分かりませんが刺激的な味ですね!」
牙陪蘭が色々と春歌に教え、炭酸を美味しそうに飲んでいた。僕は皆を見守りながら一足先にピザに手を伸ばした。
伸びる、この感覚! やはりチーズは最高傑作だな。この存在を作り出した人に土下座したいほどだ。
「おにいさん! どうやってのばすの?」
「ゆっくりこう……食べれば出来るぞ」
僕は大雑把に話したが光希は僕の真似をするように食べていた。
「ん!出来た!!」
「うまいな、光希!」
ピザにハマったらしく美味しそうに頬張っていた。しばらくするとドアが開き誰かが来ている。
「ただいま何これ?」
気づくと、牙陪蘭の母がパニックになっているような顔で帰ってきていた。こんな夜遅くまではしゃいでいたとは気づかなかったな。
「母さん!お帰り。えーっとね」
牙陪蘭は簡単に事の経緯を話していた。頼んだ通り、死呪霊の事は黙ってもらえて胸をなで下ろす。
母は、事の経緯を知ると鞄を落とすなどのショックを受け焦るように僕に頭をさげてきた。
「零くん、それに皆さん。本当に私の息子がお世話になりました!」
「やめてください! こちらこそ、泊まらして頂いたり色々とお世話になりました」
「もし、良かったら食べませんか? 沢山買ったので是非。」
春歌は場をなだめるようにニコッと笑った。
「で、では。ありがとうございます」
そんなこんなで、牙陪蘭の母も加わってパーティが再開する。その間、僕は牙陪蘭が頑張ってきたのだと色々と説明していた。いつもはあまり話せなかったから、最後に話せて良かったと思う。
「牙陪蘭、頑張ったわね」
「零さん達がいたから頑張れたんだよ!」
「そう。っ本当に……生きてくれて良かった」
「ごめんね。母さん、もう俺は大丈夫だから」
「これからは、もっとあなたに時間を作るわ。寂しかったでしょ?」
「本当!? でも、無理しないでね、俺も手伝うから! 力仕事は得意になった! 」
「よし。じゃあ、もう一度やり直そうか」
牙陪蘭の無邪気な笑顔を見て母は笑っていた。
もし、牙陪蘭が死んだらどうなっていたのか。僕は牙陪蘭だけでなくこの家庭を守れたんだと思う。
「本当っっに師匠!ありがとうございました!」
「こちらこそ。楽しかったよ」
「いつでも来てください! 歓迎しますよ。ね、母さん」
「えぇ。大歓迎よ」
「ありがとうございます。」
僕は去り際に、ポケットから魔鉱石をだした。ウィストリアさんに行く前に持たせてもらっていた。
「おっ…と!」
「ナイスキャッチ」
牙陪蘭は慌てながらも石を持って不思議そうに眺めていた。
「携帯みたいなもんだ。僕達の事を思えば、石が光るから声を入れてくれ。」
軽く説明をすると、すぐに理解したように声をいれていた。流石だな。
「大事にしますね。」
「あぁ。」
「俺、いつでも師匠……零さんの力になりますから!」
「また力を借りるよ。」
お礼を済ませ、僕達は牙陪蘭の家を出ていった。
「ありがとうございました」
「さようなら! 零師匠!!!」
「さようならー」
「ばいばい! がべらにいさん!」
「また、どこかで」
牙陪蘭が居なくなると、ただ暗いだけの暗闇を歩いていた。
明るい気分なのに前は暗いな。
「本当にこの数週間楽しかったです。人間って暖かいですね」
「うん!」
「そう言ってくれて嬉しいです。」
「零くん、最初より楽しそうに笑っていますね!」
そう言えば久しぶりに高校生らしく遊んだ気がする。すこし、いや普通に寂しいな。
「おにいさん…?」
「大丈夫」
僕は顔を振り爽やかな笑顔で前を向いた。
「じゃあ、帰りましょう!」
「はい!」
――ザッー!!
「…!」
不意に風の雰囲気が変わった。この感覚。何か嫌な予感がする。
「どうしました?」
「いえっ帰りましょう」
僕は、不安を振り落としながらも天空に向かっていった。
「スプラウトまでいるとは」
その様子を見守る女性は唇を軽く噛んだ。隣では少年が静かに彩夢をみている。
「もう、行くの?」
「…」
「行っちゃった。俺もこっそり見て来よっかな!」
「彩夢だったよね?」




