第二章 11話 偽善者
太っていた牙陪蘭をダイエットさせて痩せた
教室でもいい感じに馴染めているな
そう思った矢先、いじめっ子らしき3人が現れた
「お前調子乗んなよ」
「――!」
3人の男が牙陪蘭の前を塞いでいた。
「ど、ど、どうしますか!?」
「いかなきゃ!」
「待ってください。暫くは様子を見ましょう。」
僕は2人を抑え見守る事にした。助けて倒しても僕達が居なくなれば意味が無い。
「デブだ豚だと馬鹿にしてきたけど、そんな自分を変える為に自信を付けるために頑張ったんです。もう馬鹿にされる理由はありません、ほっといてください!」
「うるせぇよ。お前!」
「お前の存在が目障りなんだよぉぉ」
「……!?」
3人の影から黒いモヤが大きくなっていく。
心がざわつくような、こんな感覚は初めてだ。
「だいじょうぶかな?」
「変わりなくピンチですね」
やはり春歌も光希にも見えていないか。
「そんなのひどすぎません?」
牙陪蘭は怖気付く事なく目を強く見開いた。
「俺はしたい事を、自分にできる事を見つけたいんです。これ以上、邪魔をしないでください!」
「うるせぇ!くたばれよ。お前らやっちまおうぜ」
牙陪蘭の言葉に答える事なく、3人がかりで殴りかかる。
「…っ!!」
所詮暴力で解決しか出来ないのか。猿以下だな。勢いよく牙陪蘭を殴りつけていく。
「……ガッ!」
牙陪蘭は抵抗しきれず地面に叩きつけられ倒れ込んだ。
下には血がついていて鼻血が出ている。
「…もう逃げるものか!」
牙陪蘭は必死に真ん中に立っている1人にしがみついた。
そして噛み付いた。
「こいつ!」
殴りかかった2人を見てその子を叩きつけ必死にかわす。いや、違う。2人の動きが遅くなっている。
「おにいさん、もうみたくない!」
僕に訴えながら光希が力を使っていた。そうだな。今は考えるより動くべきか。
もう十分立ち向かえている。これ以上みても意味はない。これ以上は身体的にも危険だ。牙陪蘭の姿勢に手を貸すのが僕だ。ただそれだけ考えればいい。
「春歌さん、行かせてください!」
「っ……! はい!!」
僕は透過を消してもらうと、すぐに飛び出した。
「くたばれっ!!……っ」
ガッ
牙陪蘭の前へ立ち1人の拳を受け蹴飛ばす。
「なんだよ、お前!!!」
「……師匠!」
牙陪蘭はボロボロになっているが。この状況、もし相手が1人だけなら勝てていただろう。
「牙陪蘭、これ以上は見ていられないから止めさせてもらうが、この勝負はお前の勝ちだと思っていい。」
「お前、勝手に出てきて何なんだよ!」
「僕はただ君達と話をしたいと思ってきただけだ。」
僕は牙陪蘭の肩を叩き前を歩いた。
「もうやめろ。相手が気に入らないからと、何でもかんでも理由をつけてよって集って何がしたいんだ?」
「うざいんだよ! デブの癖に………!…ぁ」
「彼、痩せてるんけど」
「ただ君達は下を作りたいだけだろ。優劣感を得るために。無理やり自分より駄目な所を掘り返し、いじめの理由になる定理を無理やり付けているだけだ」
デブだから、いじめて馬鹿にしていい。
そんな訳ないだろう。
「うるさい!」
「皆同じだ。下も上もある社会だが、人を傷つけて優位になるのは間違っている」
「うるせぇんだよ!偉そうに説教しやがって!」
「偽善者が!」
「お前もくたばれよ!」
「………っ」
偽善者、その言葉に何故か衝撃が走った。
僕の瞳孔が大きく見開いたのが分かる。
――確かにお前はただの偽善者かもしれない。お前は自分を中心に考えてはいるが、それだけではないだろ?
またあの声が頭に響く。そうだな。そうでもしないと生きていられなかった。
何をされてもニコニコ受け流す。
それが、最善で疲れないようにするための自分を守る行動だった。傷つくのも傷つけるのも自分に棘が刺さるようで本当は好きじゃない。
――自分を押しつけてでも偽善を全うする。それは偽善すら怪しいが……
自分がクズだって分かっている。復讐してる時は笑ってるし。でも、ここに来てわかった。僕は誰かに必要とされたかったからこうしているんだと。
誰にも離れて欲しく無かった。例え、本心がバレていても。
「っ違います!」
牙陪蘭の声が自分の暗闇を消すように耳に入ってきた。
光をさすように暖かい気持ちになる。
「師匠は俺を救ってくれました! 偽善者なんかじゃありません………っ俺の大切な恩人です!」
――お前は自分を大切にしているからこそ、相手を自分のように見立ててしまい傷つけられなくなったんだ。全く馬鹿な偽善者だな。
……あぁ、そうかもな。
……………もう、考える必要もない。
「そうだ」
僕はこんな状況をただ笑っていた。
「俺は偽善者だ。でも……人を傷つけるよりはマシだろ?」
僕は3人に迫りかかる。
自分の影に重りを感じながら1歩ずつ1歩ずつ圧をかけるように。
「何で偽善が悪い?言ってみろ」
「……ひぃ!」
その途端、黒いモヤは逃げるように消え3人は尻もちをついたように座りこみ僕を見上げていた。
(本当は一撃くらい何かしてやりたいが)
僕は服をつかみかかったが真っ黒な頭を振り、手を離す。
震える彼らを見た後に、牙陪蘭の方を振り向いた。
「もういい。僕は良いが、牙陪蘭に悪いとは思え。人はストレス発散の道具じゃない」
「「……」」
「まだ今なら引き返せる。このままいけば、どんどん善悪が狂っていずれ犯罪に繋がるぞ。自分の人生をかけて人を陥れようとは思わないだろ」
僕は牙陪蘭の元へ歩いていった。
「牙陪蘭。あとは任せるよ」
「はい……!」
牙陪蘭に後を託し、僕は元の場所に向かった。
「あの、俺も何か悪かったのなら謝ります。」
「違う。俺……お前をバカにして…本当は刺激が欲しかっただけなんだ。」
「痩せたお前をみて…つまらなくなって」
「ちやほやされて悔しかったんだ」
「……もういいですよ。じゃあまたやり直しましょう。」
牙陪蘭の優しく笑う声が背後から聞こえてきた。解決だな。
「もし、良かったら筋トレしませんか?皆ですれば楽しいですよ!」
この後の話は聞こえなかったが、きっと上手くいっただろう。
それにしても、少しおかしくなりかけた。何かスイッチというか、身体が先に動いたというか。
僕はもう何もしたくないんだが。
(「彩夢くん怖い」)
(「本当に彩夢くんなの?」)
「………!!」
不意に、フラッシュバックが僕を襲う。
ザワザワ…ザワザワザワ……
暗い影が僕を指さし話している。
――彩夢
ハッとすると静かに息を吸った。それにしても、あの頭に響く声は………何か忘れている気がする。
「あれ?」
そして、さっきの場所に来たが誰もいなかった。
いや………
微かに光希の声が聞こえる。
「光希!」
「おにい…さん…」
これはアイツらに違いない。僕は急いで眼鏡をかけた。シーレス解除により見えていないなら、付ければいい。
「シーレスを!」
眼鏡が返事するように動くと、僕の視界にボロボロな2人が映りこんだ。僕の前方に黒いモヤがみえた。次第に形がハッキリ見え獣のように見えていく。
(………この姿、まさか死呪霊!?)
視界に写ったのはは、3匹の死呪霊と戦う春歌の姿があった。
光希は魔力が使えない?
春歌は準備がまだ…………
なら、僕が時間を稼ぐしかないか。




