第二章 1話 新人女神 スプラウト
奈美の件が終わって帰ると女神や天使達が待っていた。
僕達が天空に戻ると女神達が待っていた。
「彩夢様、ご活躍見ていました。これなら、本当になんとかなるかもしれません。」
「今日はお祝いですよ! 新しい1歩の始まりを見れましたし、ゆっくり休んでくださいね!」
「ありがとうございます」
休みか。ずっと動いていたしリフレッシュも必要か。ありがたく休ませてもらおう。
ウィストリアも皆と親しそうに話していた。前のように張り付いた表情が柔らかくなったような気がする。争いも落ち着いたようだ。
「あの。ウィストリア様例のものが出来ました」
「ありがとうサウド。 じゃあ早速彩夢に渡してくれ」
「分かりました。」
そういうと、前に会った槍の女神が箱を渡してくれた。
「開けてみてください」
「っ?……これ!」
箱の中には手の平サイズの小さな銃が入っていた。
「これは魔弾銃といって、彩夢用に作って貰った特別品だ」
「本物ですか、これ」
打ってみたいが、もしもの事があるしな。撃ってみたい衝動をグッと我慢した。
「彩夢は魔力がないといっても多少はあるはずだ。これは少ない魔力でも、まあまあな火力をだせるようにしている」
なるほど。魔力が少しでもこれなら使いこなせるかもしれない。
「ありがとうございます!」
「ここでは普通に使えるが、現実は相手の魔力に反応しない限り弾はでない。天空や現実で護身用にでも使ってくれ」
現実でも大丈夫なようにしているのか。だが、持っているだけでも捕まるしあまり持っていけないよな。
「ちなみに使わない限りは人間に見えないようにしている。音もだ」
「それはすごい」
まさかちゃんと対策をしているとは。これなら持っていけるだろう。銃とか異世界って感じがする。
「今から祝いを始めるが少しかかるらしいんだ。彩夢には悪いが、弥生を起こしてきてくれないか?」
「分かりました!」
という事で僕はウィストリアの家まで向かっていた。大きな問題も無事に解決した。今は鼻歌を歌うくらい気分が良い。
「弥生ー!!」
僕は大声を出しながら中に入った。
ん?
なんか騒がしいような?
「うわーん!!」
「なんでこうなるのー! うわーん」
弥生ともう1人、見たことのない女の人がいる。何故か2人とも泣いているようだ。
「なに……してるんですか?」
「たすけて、ふしんしゃ!!」
弥生は僕の袖を引っ張り女の人を指差した。
「誰が不審者ですか! 私は女神だと言っているじゃないですか!!!」
赤くて短い髪の彼女は、パッチリと目を見開きながら怒っている。
「やっと事務の手伝いから卒業したのに!」
事務?という事はウィストリアと関係があるのだろうか。
「あの、ウィストリア様に用ですか?」
「違う! 私は弥生くんに用があるの! ん?君……彩夢くん?」
「そうですけど」
僕がそういうと、急に面食らった顔をし始めた。
「ああああああ!! ごめんなさい!! 師匠がお世話になってます!!!!」
師匠?
急に僕に向かって走り出し、ペコペコとお辞儀をし始めた。
「あっ、私はスプラウトと申します! 弥生くんに付く予定の女神です!! よろしくお願いします」
「あっどうも……」
僕はサラッとした手を握った。スプラウトは握った手を感動しているように振り回している。
(「1人につき1女神」)
そういえば、なんかそんな事を言っていたな。彼女は僕にとってのウィストリア的立ち位置か。
「かってにつくな!」
しかし、彼女とは裏腹に弥生は不満を見せ怒っている。
「サポートをしてくれるらしいよ?」
「いやだ! さいむがいい!」
どうしよう。僕はスプラウトに助けの目を向けた。何か対応マニュアルとかないのか?
「お願いしますよ。せっかく女神になれたのに」
「えーと、その女神ってなるものなんですか?」
「最初は皆、見習いですから! 私はウィストリアさんに色々教えて貰ったんです!」
弟子とかそういうの天空にもあるんだな。
「なるほど」
「で! 弥生君につくように言われたんです!!」
「ふ ざ け る な い や だ」
弥生を折るの中々難しいぞ。これ。頷かせるには何か弥生が気に入るような事を言わないとなあ。あっそうだ。
「うわーん!! 見習いに戻りたくなーい!」
「なあ弥生。あの人何でも願い叶えてくれる凄い人らしいよ?」
僕は小声でささやいた。
「叶えます! 叶えます! なんでもドンと来いです!」
スプラウトは必死そう首を振る。聞こえないように話していたんだが聞かれているとは。
「えっ」
適当に放った言葉が純粋な弥生を動かした。その瞬間目を輝かせる。
「ほんと!? じゃあ! さくらをずっーとみたいんだ!!」
「さくらー?」
桜をずっと見たい。か。そして、やはり天空の人には現実の事は分からないらしい。ウィストリア以外も変わらないか。
「えっーとですね」
その時、
きゃぅかぁーん!ガー!
変な鳴き声と共に地面が揺れだしていく。
「なんですかこれ!」
「これは………死呪霊ですね」
どんどん圧のようなものが近づいている気がする。
「死呪霊?」
「死に対する怒りや恨み。現実世界から聞こえる悲鳴などなど、負の感情の色んな物が形になったものです!」
僕達はスプラウトに続いてすぐに外に出た。
「なんだこれ」
獣じゃない何かがユラユラしている。形の由来は分からないが見た事がない。身体から手が生えていたり、尻尾がはえてたりと様々だし異型だ。
「色んなものが混じってますから、生物と言っていいのかすらわかりません。とりあえず戦います」
スプラウトは僕達の前に立ち胸を張った。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫です! 新人と言えども! 私は女神! 実力をお見せしましょう!」
彼女は、片手に注射器らしき物をポケットから取り出した。
「ぼくもやる!」
弥生も彼女の横に並んだ。
「僕だって力にはなれます。」
「では、大きい一撃を放ちますので時間稼ぎをお願いします。」
2人に便乗し銃を構えた。とりあえず試し打ちとさせてもらおう。
「ギャーアアア!!」
僕が銃を向けた途端一目散に向かってくる。その動きに反射するように咄嗟に引き金をひいた。
バン!
「……ッ。キャウ?」
少ししか効いていない。何発か撃てばいけるか?そう思い何発打っても獣は毛に何かついたかのような反応しかしない。
なんだよそれ。もっと盛大にぶっ飛んでくれよ。大体主人公の試し打ちで爆発するのがオチだろ。
まだ諦めるわけにはいかない。もう1発!
バンッ
「てつだうよ! 」
弥生もあまり削れなかったのか僕に加勢してくれるようだ。放った銃弾に力を込めるようにすると、銃弾に魔力が帯び回転が上がっていく。
――弥生の指先について行くかのように
バァン!!!!
先程までとは桁違いな音を出して、弾は額を貫き弾け飛んだ。これで1匹!
「準備出来ました!よけてください!!」
「わかりました!」
ぼくは弥生を抱き抱え、彼女の邪魔にならない所まで走った。
「いきます! 防御魔法展開! 防城壁!!」
そう言い放つと死呪霊の周りを高い壁が一瞬で建ち上がる。
「なにあれ!」
「まだまだ!」
彼女は思いっきり手に持っている注射器を左腕に打ちこんだ。
「あれ、せいれい?」
「精霊?」
確かに言われてみれば、注射器の中が光り何かが動いている。
「反魔法を付与します!!!」
注射器を刺した途端にスプラウトと城壁がオレンジのオーラを纏い始めた。城壁から様々な音が出ている。
「キャーウン!?」 「アアー!」
叫びがこもって聞こえるが彼女は何をしたんだろうか?
「よしこれで大丈夫です!!! 行きましょう!!!」
「ちょっ、ちょっと待ってください。あれに何したんですか?」
そう言うと、スプラウトは首を傾げながら
「なにって。そりゃあもちろん、壁に反魔法をつけたんですよ! あれは壊そうとしても壊れることはなく自分に跳ね返ってくるんです。」
スプラウトはドヤっと語り始めている。
――しかし、城は瞬時にぶっ飛んでいた。
「へ?」
「何回言えば分かるんだ。スプラウト」
その声はウィストリアか。彼女は腕を組みながらスプラウトを睨んだ。
「あああ! 私の壁があああ」
そして、崩れた城壁のショックを抑えきれず、彼女は頭を抱えながら泣きわめいていた。
「ほっといて、もし壊されたらどうするんだ? ちゃんと最後まで見守れとだな。いつもあんなに気を抜くなと」
「酷いですよ、ウィストリアさん!!! 私の壁がぁ!! あんなに頑張って作ったのに!」
2人は言い合いは止まらない。おそらく話はかみ合ってない。
――数分後
スプラウトは頭を下げて固まっていた。
「遅いと思ってきてみれば………弟子がすまない」
「大丈夫ですよ。守ってくれなかったらどうなっていたか。ありがとうございました!」
「いえーそれほどでも!」
スプラウトはその声に反応してすぐに飛び上がり頭をかいていた。正直、彼女がいなかったら大変だっただろう。
「しかし、死呪霊なんて久しぶりだな」
「ですねー最近は居ませんでしたし」
死呪霊って珍しいのか。
というか、この銃の威力って護身用にもならない気がするが生きていけるだろうか?
「まぁそんなことはいい。速くきてくれないか? 皆、楽しみに待っているんだ。」
「分かりました」
僕達は、二人に案内され急いで城に向かっていった。
前はあんなに酷かったのに、何事もなかったように城は綺麗になっていた。よし。とウィストリアが指を鳴らすと奥に部屋が現れる。
「こんな部屋があるとは。」
「ね、いまからなにするの?」
「多分だけど、ご飯を食べるんだよ。ご馳走ね」
「ほんと!? わーい」
扉を開けると、そこには沢山のご飯に女神や天使が並んで待っていた。
「やっと来ましたね! 今日は楽しんでください!」
「活躍を願って!」
「天空の復興を願って!カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
カンパーイの文化あるのか。はたまた僕のクラス会を見て影響を受けたのか。まぁどうでもいいか。頂きます。
「美味しい!」
見たことないものだらけで少し戸惑ったがどれも美味だ。異界感のあるご飯ほど興味が湧くものだ。
「おいしい! なにこれ!」
弥生も美味しそうに頬張っていた。
「彩夢くん! のどが乾きませんか?これどうぞ!」
「あっありがとうございます。」
喉が渇いたと感じていると、スプラウトはビンとコップを持ってきていた。
「はい、弥生くんも」
「ありがとう…」
スプラウトから受け取ったのは不思議に光るジュース。弥生と不安そうな視線を交わしながらも飲んでみる。
「ん、」
(なんかフルーティーな味!)
ミックスジュースよりさっぱりしているし喉越しがいい。
「さぁ! 宴だあ!! じゃんじゃん持ってこい!!!!!」
ウィストリアはなんか酔っている様子だった。僕を見つけると腕を回してグラス片手に笑っている。
「あー彩夢! 安心しろおーーそのドリンクは大丈夫だああ」
多分、この人酔うと壊れる人タイプか。
「ウィストリア様、ありがとうございます。」
「もー堅苦しいな!! 様なんてつけなくていいだからな!! あっはは!」
これは酔わないと言えないような本音の類いだろうか。確かに、様ってもう堅苦しいな。なんか考えよ。
その後、宴が始まり宴会で踊りを見せてもらった。失礼だが、クラス会より遥かに芸当の技術を感じるな。周りにはご飯を持ってくる女神、天使達があとを絶えず僕達は至れり尽くせりだ。
弥生も踊っていて盛り上がった宴はあっという間に終わってしまった。
「すまん彩夢。なぜか頭が痛いんだ」
「しっかりしてください。」
僕は歩けないウィストリアに肩を貸し引きずるように、家へ帰った。今は静かだし酔いはすぐ無くなるタイプで良かったと思う。
「あの、ウィストリアさん! あの件どうします?」
「あぁ…それがだな…死呪霊が…z…」
「もう、だから飲み過ぎるなって言ったんですよ。寝ちゃいましたし、この話は明日にしましょう」
話しとは何の話だろうか?
「あの弥生くん。何度も聞きますけどついていっちゃ駄目ですか?」
スプラウトは弥生に念を押すように確認した。
弥生は少し考えると
「うーん、まーつよそうだからいいよ!」
「やったー! ありがとう、弥生くん!」
「これで私の女神人生が始まる!!」
スプラウトは弥生の返事にとても喜んでいた。
「でも、ねがいはかなえてね」
「もちろん! さくらが分かったらすぐにします!」
自身満々に何度も頷いた。
――次の日
「スクランブルエッグ美味しいです!」
「良かった良かった」
僕が手伝わなくてもとても美味しく作れるようになっていた。笑っているが頭が痛そうだな。
「あと、現実に行く事なんだが」
「はい」
「死呪霊について調べないと行けないんだ。事務だから」
事務って調べ物全般なのかな。
「という事で、スプラウト!」
「はい!」
その声と同じタイミングでドアを思いっきり開けて登場した。弥生も部屋を借りたようで眠そうに付いてきている。
「お前は新人だし現実に行って人間を学んでこい」
「え!? 本当ですか!?」
急な話に彼女は目を見開いてびっくりしていた。
「私がいけないから頼みたいんだ。それに中々無い機会だろ?彩夢、悪いが彼女に現実について教えて欲しい」
「僕がですか!?」
「油断しなければ力もあるし、もし弥生も手伝ってくれるなら一緒に行ってくれ」
「うん、ぼくもまなぶ!」
弥生は自身いっぱいに返事をした。
「彩夢人間で言うところの新人研修?というやつだ。頼んだぞ」
「はいっ。頑張ります!」
僕が先生か。なんか緊張してきたな。あの世界について教えながら人を助ける。
大変だが、もしこれが出来れば2組で出来るようになるだろう。効率は良いし、多くの人の助けにだってなれるんだ。ちゃんと教えないとな。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます!ウィストリアさん!」
僕達はウィストリアに見届けてもらい、塔を登って天空を旅立った。
現実に来た僕達は自殺しそうな子を止める。
なんか失敗して変な所にきたが……多分、大丈夫だろう
次回
次なる転生前者