11話 今から
いじめの問題。
少年との和解…
大体は片づいて、あとはパンだけだが……その前にやる事がある
「零ーー!!! 何してたのよ、有彩も!」
僕達が歩いていると、教室の前で奈美が仁王立ちになっている。これは怒っているような気が。
「そうだぜー零!」
「――っ。ビックリしたじゃないか。」
いきなり渚が背後から腕を回し、僕は反射的に飛び上がっていた。
「ずっと待ってたんだからな?」
まぁ、暫く眠っていたし結構時間が経ってしまったようだ。
「すまない。少し色々あったんだ。」
「そういう事だ。」
奈美は、すぐに切り替えるように表情を変えた。
「そっまぁいいわ! これから面白くなるのに零と有彩が居ないとつまらないしね。」
奈美は僕達に1枚の紙切れを見せた。
「これは」
「新しい。私達だけのパンを今から作るのよ!」
そこに描かれたものは花形のパンに5種類の味が花びらごとに違っているパンだ。確かに人手があればこれも可能になりそうだ。
「凄いな!」
有彩も感嘆をもらしながら頷いた。
「ちゃんと味見も出来るわよ! あと、あのパンも一緒にあげる予定。」
「そうか!」
有彩と僕は顔を見合せて微笑んだ。良かった。色々あったが、上手くまとまったようだ。
その後も教室に入って暫く計画を立てていると、
ガラッ
「何なの!? これ………」
ドアが開き先生が悲鳴をあげていた。
顔を青ざめながら無言で立ちすくしている。見てみれば無造作に散らばる椅子にパン、粘土。無茶苦茶だな。
「誰か説明してほしいな。」
「先生。実は、奈美をいじめていたのは私なんです。」
「えっ? 急にどうしたの?」
「ゆうも紅佐飛もこの件も私の問題です。」
未空は取り巻きの分まで自分のせいにして先生に全てを吐き出した。
「でも、もう解決したので大丈夫です! 今、皆で話し合って2人と話すためにパンを作ろうって言ってたんです!」
暗い空気の中、奈美は未空に割り込み補足をした。
「奈美」
「ね?」
「そうね。」
先生はすぐに理解したように頷くと、未空と奈美に近づいた。
「皆さんごめんなさい。私がクラスを見れてなかったから、ううん。ちゃんと見てあげなかった。ゆうさんも紅佐飛さんも私の責任です。」
「先生」
先生は黒板に書かれている今日の時間割を消した。
「よし。今から家庭科室の許可を取ってきます。授業はお休みにして皆でパンを焼きましょう!」
先生は持っていた本をかかえ廊下へ向かっていく。
「本当ですか!?」
「えぇ。いちよう家庭科の先生にも協力をお願いしてきます。」
「ありがとうございます!」
未空と奈美。そして皆は声を上げて喜んでいた。
「なのでそれ。片付けて欲しいな」
先生はすっと教室を指さした。明るい空気の中、粘土やパンは変わらず散らばっている。
「分かりました。」
「よし、やるぞ!」
「おー」
「うん!」
皆が返事しそれぞれが動き出した。動かし方だけは流石先生と言うところか。
僕もべたついた床を新聞紙でこすっていると奈美が走ってきた。
「零!ありがとうね」
奈美は、笑顔でお礼を言った。
「これは奈美が頑張ったからだよ。」
「本当零って控えめよね!! あとこれ、使わなかったわ」
奈美は前に渡していた物を返してくれた。電源を入れてみると最初の時以外に記録は無かった。
「それが一番だ。」
「えぇ!」
奈美は皆を信じている。だからこれは必要ない。僕はすぐにポケットにいれた。
「さっ片付けよ!」
奈美は走っていき、ホウキを手に取って掃除を始めていた。
「……勿体ないな。」
有彩は落ち込みながらボロボロのパンをこっそり消しているのを見てしまった。バレてはないようだ。
(よし)
僕は自分の仕事を終わらせると隙を見て校長室へ向かった。
が
「なんで?」
「こちらも同じ疑問だわ。」
僕が校長室に着くとそこには未空が立っていた。
「私がしたことはまだ終わっていないから。」
(ゆうと紅佐飛の件か)
僕はすぐに察した。
「そっか。実は僕も用事があるんだ。もし、良ければ一緒に行く」
「そう。それは心強いわね。」
未空も緊張しているような声だった。
「失礼します。」
僕達は声を合わせドアに足を踏み出した。校長がニコニコと机に座っている。
「君たち、こんな時間に何か用かい?」
「その、ユウの件覚えてますか?」
「あぁ勿論覚えているよ。大変だったね〜」
校長は軽い声を出しながら同情する。
「それ、嘘です!! 本当は私が全てっ! やりました!」
「えっ?」
校長は急な言葉に目を丸くして驚いていた。
「紅佐飛に押し付けたのはっ校長が父さんにペコペコしてて勝てると思いました! 私は卑怯者です!」
未空は頭を深く下げた。しかし、校長はずっと固まっている。
「未空だけじゃないかと。校長として、人権問題に私情を持ち込むのは良くないと思います。校長にも問題があるのでは?」
「……」
校長は、僕の話を聞く様子はなかった。未空の事だけでいっぱいになっているように見える。
「そんな未空さん。なら、証拠は…証拠はあるのか!?」
校長は驚いてゆっくり首を横に振っていた。
「それは」
未空は何も出来ずに下を向いてしまった。本人が言ってるんだし信じてやればいいのに。
「違うんだろ?誰かに脅されっ」
――このままだと、ペースが崩れてしまう。あまり傷を広げたく無いが仕方ない。
「ありますよ。ここに」
僕はさっきしまい込んだボイスレコーダーを取り出した。
「それっ」
「ごめん。奈美を守るために使っていた。」
「別にいいわ。使いなさい!」
未空は強く頷いた。よし。
「これには全ての証拠が記録されています。」
「ほう。だが君。それは盗聴ではないのかい?そういう行為を校長として見逃しは出来ないな。」
残念だがそう言われるのは読んでいる。
「違いますよ。しっかり調べてから言ってください。盗聴のケースは第三者が録音した場合です。僕は当事者なので問題ありません。」
「……!」
「次にプライバシーの問題ですが未空からの許可は今取りました。不特定多数に晒す場合はアウトですが、これは大丈夫だと思います。」
「ほう。なんでそんなに詳しいのか疑問だ。君みたいな子は見た事がない。」
校長は顔を強ばらせながらも、笑みを見せて僕の話を聞いてくる。まぁ同意するがな。
「僕はただ、そこら辺よりはいじめを憎んでいるだけです。」
ピッ
僕はボタンを押すと奈美が話す声が聞こえてきた。
「それは本当かい?未空」
「えぇ。そうよ」
録音のコツは名前を呼ぶ事。
簡単にいうと、○○くん痛い!と言えば証拠は強くなる。
痛いだけじゃ証拠不足というのが現実だ。覚えて損は無いだろう?
「零!」
僕が殴られてから風がうるさくて何も聞こえなくなった。これでその後の展開。つまりやり返した事も分かるはずが無い。
ザーゴロゴロ…ザー!!
ピッ
雑音しかしなくなったボイスレコーダーを止めた。
「これが証拠です。僕がいるのも含めて」
「…」
しかし、校長はただ呆然としていた。
「私がやりました。どんな罰もうけます! だから校長からも、ユウと紅佐飛に!」
未空は頭を何度も下げている。
しばらくして、僕達をゆっくりと見つめた校長はなにかを決めたように口を開いた。
「君は反省しているように見える。確かに権力を利用するのは悪い事だ。」
校長は申し訳なさそうに机から立ち上がった。
「しかし、それにしがみつき判断を謝った。彼らの若き人生を踏みにじったのは紛れまない私だ。」
「……」
「2人に私から謝罪しよう。そして、汚い世界を見せてしまった君にも」
校長は認め、僕達に頭を下げてくれた。
「ありがとうございます!!」
僕と未空は頷きあった後にもう一度頭を下げた。これで彼女の件は解決だな。
「すみません、あともう1つ、お聞きしたいことが」
「じゃあ、私は用が済んだのでこれで、失礼します」
未空は僕の言葉を聞くとすぐに出て行ってしまった。
彼女、何かと察しがいいんだよな。
「……で、なんだい?」
校長は、安心しきったように首を傾げていた。
「あの、桜 弥生。彼を知っていますか?」
「何故それを」
校長は明らかにその名前に反応していた。
「3年前、3月29日に学校の屋上から自殺した。小2の男の子です。僕はその子の意志を持ってここにいます」
僕は話を続けた。
「貴方は、その件をただの事故と片付けた。本当は」
「そうだ。………いじめだった」
校長は頭を抱えて机にうづくまった。
「分かっていたが、私は何も出来なかった」
「彼は未練があってまだこの世にいます。信じて貰えないとは思いますが。これを認めて周りに訂正して頂きたい。」
「そんな事をしたら、私は」
「辞める事になるかもしれませんね。けど、この件は人が死んでいるんです。僕としても手段は選ぶ気はありません。」
ガサッ
「なっ」
僕はまたボイスレコーダーを取り出した。
そこには「録音中」と赤く光っている。
「例え僕が捕まろうと何をされようが、貴方が認めない限り僕はこれを公開します。教育委員会でもSNSでも」
「それが彼の無念を晴らす方法です。」
「………やめてくれ!!」
校長は土下座しながら僕を見上げた。こいつ利権しか考えてないのか?
僕はプルプルと拳を握りしめていた。お前の利益の為に弥生を、あんな小さな子どもを犠牲にしてたまるものか。
「……っそんなに自分の立場が大事か? お前は校長なんだろ!? 生徒を守らないで何が校長だ!!!」
僕は校長の前で思いっきり机を叩きつけた。
「このままいけば、また何人もの生徒が! 自殺していたのかもしれないんだぞ!!?? 逃げるなそして向き合え。校長なら手を打てよ!! 助けてやれよ!!!」
気がつけば僕は校長を睨みつけながら怒鳴っていた。
「…!」
気づけば校長は気絶寸前になっていた。不味い。落ち着かなければ。僕は軽く息を吸った。
「ちゃんと認めて、すぐにでも訂正してください。弥生やその家族のためにも」
「……彼はここにいるのか?」
振り絞るような掠れた声で僕を見上げていた。
「ありがとうおにいさん。」
隣をみるといつの間にか弥生がいる。僕にしがみついているし、爪がくい込むほど握っている。
「いますよ。少し怒ってるようですが」
僕は隣を指差した。
「――!」
校長はすぐに指先の方に頭を向けた。少しずれているが、まぁ仕方ない。
「零くんの言う通りだ。守れなかっただけでなく隠そうとらしていた。何が校長だ。弥生くん、すぐに訂正しよう。本当に、本当に申し訳無かった!!」
弥生はその言葉を聞いた途端、後ろに隠れてこんでしまった。恥ずかしいかは分からないが、これで弥生の未練はなくなったかな。
「僕は校長を信じますからね。」
校長の目の前で僕はボイスレコーダーの記録を消した。奈美のように人を信じてみるのも大事だと僕自身考えただけだ。
「あぁ!! すぐにでも」
「では、これで失礼します」
僕は頭を下げ続ける校長を片目で流しながら、校長室を出ていった。
「おまえ、ほんとうにやるじゃないか!」
弥生は僕の背中に乗っかかりポカポカと叩いてきた。
「僕はただイラついただけだ」
まさか、校長に怒鳴ってしまうとはな
「ぼくもおまえのようにできるかな?」
「やってみたくなったか? ま、少し難しいと思うが」
「ぼくもやってみたい!だれかをたすけたい」
そうか
「大丈夫。出来ると思うよ」
「うん!」
僕は弥生を肩に乗せ静かな廊下を歩いていく。
「お前さ、1つ気になったんだが、なんであんな事聞いてきたの?」
「えーと、じぶんがきらいかどうかって?」
正直とんでもない事を聞いてきたから戸惑っていたし聞こうと思っていた。
「おにいさんからは、なんか、ほかとちがうにおいがしたんだ。でも、まほうをつかっても きかないし…」
これは最初からバレていたようだな。
「なんかやみがありそうだったから、いじってみよーって」
闇がありそうな顔してるのか? して…いるのか………?僕は窓を見ながら首を傾げていた。
それにしても悪魔的な思考だな。この子。
「あと、あの時は少し大人に見えたが?」
「すがたをかえるのとくいなんだよね。あと、とくのも。」
全く不思議な子だ。
多分、有彩がずっと守ってくれていたんだろう。
「だから見えたのか!」
そういえばあの時は姿を消したはずだ。
「うん!ばっちりね。なんか…うろうろしてるし、つぎのひからじゃまもしてくるから、つぶそうってきめたんだ」
「ずっーとみてたよ」
弥生は目を見開いて僕を見た。
怖い。そして、姿を変えても見透かされるとは
「有彩は?」
「あのおねえさん?きみとたたかってからみえたよ?」
透明になっていた?いや、ずっと見えていないようだし有彩だけ強い何かがあるとかか?
うーん。
「あのおねえさん。なにもの?」
「天使の人だ。僕達は天空で暮らしている。」
「てんくう?」
弥生はその途端、黙り込んでしまった。
「どうしたんだ?」
「みたことあるかも。ふわふわしてた! でも、きづいたらここにいたんだ。なんでだろう」
(ほとんどは餓死だ。そして天国に行く)
有彩からは現実に行った人間なんて聞いたことが無い。
弥生も何かするべき事があるのだろうか?今考えても分からないがな。
「ま、暮らせば何か分かるかもしれない。何かあったら力になるから言ってくれ。」
「うん!ありがとう。おにいさん!」
弥生は僕の肩から降り無邪気に外へ走り出していく。
パンには興味が無いようだな。
皆はパンを作り始めた。
僕は皿洗いだが
そして、ゆうと紅佐飛の元へ
最終回 「未来」
作者欄(飛ばしてもかまいません)
弥生の名前のテーマは
「春が来ない少年」にしています。
これから彩夢にどう関わるかは後日談になります。
また読んでくださいね。




