目的は違えど目指す場所は
主人公の彩夢は大事な人の死を経験してから復讐を試みる。そんな彼の前に、復讐を手伝う代わりに死んで欲しいと頼む神がいた。
2人は契約を交わし、話し合いを進めるはずだったが。同じ場所を目指す地界のものと接触する。
「なるほど。私たちと目的は違えど、目指す場所は同じという訳ですか」
「ちょっと待ってください。彩夢君、あの方と取引なんてしたのですか。しかも、自分を犠牲にするなんて」
俺は2人に全部話した。どの情報が必要で、必要じゃないか分からないしな。
「俺にはその目的さえ果たせばいい。そのためにずっと生きてきた。あの日から乗っとられても意識だけはと保ち続けた。俺にはそれしかやることしかない。」
「そう……ですか。あの人の事です、もう契約してしまったならどうにもできません。力になれるなら力になりたいですが」
使い魔は心配しているようだった。多分、こいつはクロクの事も知っているようだな。
「失敗作。あなたにはやることがあります。この青年のお守りは私がやります。」
「そんな簡単じゃないですよ。あの方々の恐ろしさを知らないからそんな事言えるんですよ。それに、」
使い魔は後ろを振り向いた。
「彩夢君と接触してから、ずっと見ているんですよね。出てきてもいいのでは?」
「何を言ってるんですか」
しばらくすると、クロクとヒューブリッジが何も無いところから姿を現した。
「認識阻害の対策はしていたんだけどね。君、僕に何かつけたのかい?」
「えぇ、あなたに振舞った料理に私の羽を切り刻んで入れました。警戒していなくて助かりましたよ。許してください、我が姫をできる限り守りたかっただけですし、毒ではありません。」
「なっあなた趣味悪すぎませんか? 衛生的に終わって……」
「彩夢くんもそれで居場所が分かりました」
「えっ?」
急に俺にも流れ弾がきた。あいつ、こいつの羽食ったのか……?毒はないと言われても。
「人間にも入れたのですか?」
彼女も同じように引いていた。
「あぁ。あなたにもいれてます。6年くらい前に」
「はああああ!?おい もう1回言ってみなさい、この失敗作風情が! その羽むしってやってもいいのよ!?」
「6年前。あんなことして、何で信頼してもらえると思っているんですか?」
「そ、それは……」
萎縮するレフトバを遮り、使い魔はクロクに目を合わせた。
ピリついた空気に俺は寒気を覚えていた。やはり合わせるべきじゃないよなあ。
「……まあいいや、1本取られたよ」
クロクはボソッとつぶやいた。
「こんなことをして何ですが、あなたにお願いがあります。」
「話は聞いてたよ。彼女を連れていけばいいの?」
「はい。」
「いいのか、クロク。地界の言葉を信じて。」
「天界となんて……勝手に決めないでください!」
ヒューブリッジと彼女は反対しているようだが。
「ヒューブリッジ。手札が増えるのはいいことだよ。あそこは広いしね。使い魔と呼ばれる種族の力は君もわかっているはずだよ。」
「レフトバ。あなたが求める情報は、彼しか持っていません。博士の仇を取らないならそれで構いませんが。」
2人の言葉に、不満そうにしながらも頷いた。
「わかった」
「仕方ありません」
こうしてよく分からないうちに、天と地。そして場違いの俺の関係ができた。まあ、俺がやることは変わらない。どうでもいいや。
こんな事している場合じゃない。シャーゼンロッセを起こさないとな。
「私はレフトバ。使い魔という種族が分かるなら話が早いです。私は彼と違い何一つ出来ないことはありません。ソルスは水流側にあります。」
「僕はクロク。天界の神の1人。……力は、時を扱える。あんまり自己開示をしたくないんだけどね。彼はヒューブリッジ。彼はこの計画にあまり参加しないから無視していい。」
2人は険しい顔をしながら、挨拶を交わしていた。
「明日。視察と計画を立てよう。僕にはまだ仕事があるから、今日はもう帰るよ」
「……」
クロクはそう言うと、レフトバを見つめる使い魔に目線を合わせた。
「君は行かないの」
「私には他にやることがありますので。本当は彼女について行きたいんですけどね。色々と心配なので」
使い魔は残念そうに呟いた。
「そう。じゃあ君に一つ話がある」
「クロク、それは」
ヒューブリッジは止めようとしていたが、クロクは聞く耳を持たなかった。
「君の母親を知ってるんだ。興味はないかい?」
「……っ!」
使い魔は明らかに動揺しているように息を飲んだ。
「君の母は、」
「……この話は今に関係ありません。」
レフトバは遮り、使い魔の手を掴んだ。
「そんな世迷言聞くに耐えません。彼は純粋なんです、たぶらかさないでください。私たちも帰ります。行きますよ」
「ま、待ってください。レフトバッ……あっ…彩夢君これから彼女をお願いします。」
使い魔は抵抗しきれず、ひきずられていった。
「君の母はもう死期が近い。会いたいなら…………帰っちゃった」
「信じるわけがないだろう。相反する世界に血族がいるなど」
クロク達もその様子を見つめていた。死期とかなんとか知らないが、何か大変そうだな。
クロクは息をつくと、ヒューブリッジに帰ることを目で伝えていた。
「じゃあ彩夢、また明日。」
「待て。一つ聞きたい。俺のシャーゼンロッセが目を開けないんだ。お前なら何かしらないか?」
視察に行くなら、あいつが絶対に必要だ。契約した以上、なんでも話してくれるなら、聞いとかなければならないよな。
「それは大丈夫。彼のことも、そこにいけば分かるから。そして、きっと君の元に戻ってくる。もう傷は治ったはずだしね。」
「……そうか。」
俺は、モヤモヤしたまま仕方なく帰っていった。
―――
「じゃあここからは別れよう。君に彼を見せようとしたんだけど、まさかやって来るとは思わなかった。後は冥界に行けばいい、その力ならなんとかなるでしょ?」
クロクとヒューブリッジは、公園で冥界へ繋がる穴を探し、掘っていた。
「あぁ。俺はあまり気が乗らないがな。クロク、俺がいないとはいえ、前回のように人間を殺すのはやめろ。我々が消してしまった隙間を世界は無理矢理にでも埋める」
「あぁそんな事言ってたね。でも、そこら辺の人間の選択肢なんて2つくらいで隙間もない。どちらにいってもこの世界に影響はない。」
穴を見つけたクロクは、文字を書いていく。
「その言い方……まだやる気なのか?人間が俺たちを認識したらそこで終わりだ。お前には叶えたい願いがあるはずだ。」
クロクは手を止めた。
「悪いけどそんなの僕にはない。ただ、あの化け物が居ない今が最後のチャンスだ。僕は彼自身に選択させる。どんな犠牲を払っても、君たちが愛すべき人間を殺してでも。」
「本気なのか」
「天神もそれを望んでる。君は黙って静観していればいい。君の役割はもう終わりだ。監視なんてしなくていい。」
「違う。俺はお前が壊れていくのが分かる。だから心配している、止めてるんだ。あんな殺しを続ける気か?」
「……僕が死のうが変わりはいくらでもいる。ただ、僕には試行錯誤の役目を果たすだけしか価値がない。その道に弊害があるなら、何人でもやるよ。」
クロクが文字を書き終わると、穴の奥に光が出てきた。
「後は任せたよ」
「……。」
「キュッ!!」
アンノルンが帰っていると、1匹の光をはなつ長細い獣が身体から落ちるように現れた。その獣は何かを言い残し走っていく。
「待って。何。弥生が気になるの?」
アンノルンは仕方なく城下町に足を踏み入れた。
――
「おかえりなさい!弥生くん!!待ってましたよ。怪我はないですか?その姿、いっぱい頑張ったんですね。こんなにたくましくなって私は凄く嬉しいです!!」
「うっ……ぐるしい!」
スプラウトは僕を抱きしめ、涙を浮かべながら頭を撫でてくる。
「スプラウト、弥生は疲れています。あまり体力を使わせてはいけません」
「ただいま。……そうだ、ウィストリアさんは?顔見せなきゃ」
そう言うと、スプラウトはピタッと止まった。何かまずいこと言ったかな?
「スプラウト、弥生にも知らせましょう。ウィストリアも会いたがっているはずです。」
スプラウトは悲しそうな顔をしているのが見えた。その後、ウィストリアの家へ連れていってくれた。
そこには、ウィストリアが青白い顔でうなされている様子だった。
「ウィストリアさん?」
「……彩夢君にされたみたいです。神様がここまでウィストリアさんを連れてきたのですが、様子は悪化するばかりで」
スプラウトは、ウィストリアの頬を触っていた。
「ウィストリアさんは、彩夢君のこと大切に思っていたんです。なのに、なんで彩夢くんはこんな酷いことを。……どうして人間はそう簡単に裏切れるのですか!? なんで人間は尽くしてきた我々にこんな酷いことできるんですか?パナヒル様には、もう死ぬかもしれないと言われました。この天空は、ウィストリアさんがいないと……。」
「スプラウト」
僕は、お兄さんを庇えなかった。スプラウトも本心で嫌っているわけじゃない。でも、疑うしかなくて吐き出したくて困っているのが分かる。
僕が否定してしまったら、スプラウトはきっと押し込んでしまう。スプラウトに同情するしかできない。
お兄さん、なんでそんなことしたんだろう。
「僕に何かできることない?」
「弥生くん。」
スプラウトの目からは大粒の涙が溢れていた。
「最終手段です。スプラウト、薬学の神がいます。そこへ向かいましょう。ウィストリアを死なせる訳にはいきません。」
「カクラジシ様……はい。弥生くん、せっかく帰ってきたのに取り乱してしまってごめんなさい。少しだけ外に出るので、ウィストリアさんといてくれますか?」
「うん!」
2人はすぐにその神に会いに行った。
「ウィストリアさん。帰ってきたよ。もし、薬がダメだったらお兄さんに会って、聞いてみる。」
「薬?……治せるわけない。それ死呪霊の影響。」
「えっ」
僕が振り返ると、部屋の外でアルがウィストリアをみていた。
「アル?」
「アルの友達知らない?細長い動物」
「知らない。それより、ウィストリアさんのことわかるの?」
アルを部屋に入れるとウィストリアの近くにいき、頭を触っていた。
「うん。時間が経ちすぎて脳が喰われてる。天使族は再生出来るし、やってみていい?」
「何するの?脳が喰われてるって?」
「1度脳を壊す。死呪霊は感情の生き物。感情を生み出す脳を好物として食っているみたい。」
「壊すって?大丈夫なの?」
「うん。広がる前にしないと死ぬよ。」
「待って、僕は分からない。スプラウトに相談しちゃだめ?」
「……アルはあまり天界に見られたくない。忌み者だから」
アルの前に、綺麗な光沢の剣が空間から現れた。
「大丈夫。天神からの許可はもらった。」
「……っ待って」
アルは、その剣で切ろうとしてるの?僕は、ウィストリアの前に立って止めようとした。
でも、アルのすることは違った。アルは、自分の手で目を覆う。
僕は、アルの目を見ていたはずなのに、いつの間にか目を閉じていた。
その後は、血が吹き出すような音が聞こえて、目を開けた。
ウィストリアには傷はない。
「―――っ!?」
アルは、頭から血を流していた。剣を思いっきり刺したみたいだった。
「何してるの」
「うっ!?」
ウィストリアは血が出ていないのに、苦しそうにしている。頭を片手で押さえていた。
「大丈夫だよ」
アルの傷はすぐに再生していく。アルは痛がる様子もなく、ウィストリアの頭に触れうなずいた。
「治ったよ」
「本当?」
「うん。なんだろう。こんなのアルしか治せない。まるで、誘導されたみたい。」
「ウィストリア知ってるの?」
「ううん。知らない。アルは天界の人々と関係を持たないから。」
アルは、ウィストリアを不思議そうにみた後出て行った。
「アル兄さん、ありがとう」
「……別に。ただ友達を探していただけ。もし、さっき言ってた獣がいたら、アルが探してるって伝えて」
――――
最近、後書きでも本文のように書いているのもあり遅いです。申し訳ありません。
後書きで書いてると保存されない事がよくあり、よく萎えます。前回の方が良かったのに……なんて書いたっけを繰り返します。
後書きの方が書きたいこともよくあります。3回繰り返してやっと出せました。
あと卒論のため次回遅いかもしれません。現実逃避で案外早い可能性もありますが……
あと2週間。ノルマ11000です。
小説ならどれほど良かったのかと頭をなやませます。今回も3000くらいでしたし。後書き合わせて5000くらい。同じ日本語を並べるだけなのにハードルが違います悲しい。
次回から新しい舞台です。そんなに尺は長くは無いです。よろしくお願いします。
高評価頂けると嬉しいです。かなり励みになりますのでよろしくお願いします。
この話が気に入った方は新章から読むのをおすすめします。かなり最初と雰囲気違います。




