再会
「無事か!?何があったんだ!原因は!?」
「久しぶり。……まあ話すとややこしくなる。沙緒、1つ聞いてもいいか」
俺は落ち着きながらも驚いていた。電話したらすぐに来るといって本当に来るなんて思いも知らなかった。
沙緒は息を荒らげながら、高校の陸上練習後に飛んできた。やり投げしたであろう手にチョークがついている。
馬鹿げた話を聞いてくれるのはこいつしかいない。
だが、彼に俺のこれまでをどう説明したらいい。そういえば、偽彩夢が死ぬ直前にスマホの画面がみえた。あいつが死ぬきっかけになったあの噂だ。
「天空の噂知ってるか?」
「なんか……1年前あったな。死んで天空に行ったら、異世界にいった。だっけ。あん時すごく流行って本当に死ぬやつがいて……ん。1年前?お前が倒れたのも1年前。お前嘘だよな」
「……」
俺は静かに首を縦にふった。
「お前何してるんだ、こっちは本気で心配したんだ! 俺に相談してくれれば良かったやん!」
そのボロボロの手で俺の胸ぐらを掴んできた。
「ごめん。ただ、俺は気づいたらああなってた。相談もする余裕もなかったんだと思う。本当にバカだと思う。」
あいつも俺の記憶を持っているなら、きっと……俺はお前の足を引っ張りたくなかったんだ。
沙緒は俺の親友だった。中学で出会って何回も喧嘩したけど、あの狭く苦しい陸上の環境で隣にいてくれれば唯一息が吸えた。共に競い合い、種目は違えど高め合えた友達はお前しかいなかった。
沙緒は強気だからと煙たがられて最初は1人で、俺も1人で話し始めたのが最初だったな。
こいつは俺とは違い、中学、高校で記録を出し続け全国に行く力も、木柀悠明と共に合宿にも呼ばれる力を持ってる。
「俺……本気で心配して……お前が死んだらどうしよって」
「おい、泣くな。悪かった。本当に……心配かけてごめん。」
「……っ悪い。でも俺だってお前がいなくなってからずっと心配で、陸上のやつらと上手くできなくて、お前に会いたくて、毎日LINECOしても出てこないし。」
俺はお前の後ろでずっと見ていた。でも、沙緒も同じように苦しんでいたんだな。
……が、俺は死ぬと決めている。お前には絶対に言うつもりはない。
「もう二度と死ぬなんてすんな!何かあったら力になるから……俺達はこれまで乗り越えてきただろ」
「……」
「頼む。わかって言ってくれ。俺はこれから大人になっても、お前と推し活をするんだ。」
「……え」
推し活?初めて聞いたんだが。いや、俺に推しなんているのか?
「忘れたのか!? レルロナのカフェ行っただろ!」
「えぇ……何それ……しらん。」
レルロナってなんだよ。なんか画面見せてくれたけど、本当に知らない。
「お前の推しはこいつだろ!」
「……男じゃん」
「女だよ! 重要な事忘れるな、なんで男の格好してんのかが重要なんだろ!クリスマスイベントが熱いって言ってたじゃないか。」
とりあえず思い出した振りをした。
あいつそんな性癖があったのか。
「とにかく、頼むから生きろ。何がお前をそうさせたんだ。……まさか、まだあれを引きずってるのか」
隠そうとしていたが、沙緒は俺が死ぬ理由を何となく理解しているようだ。
「忘れるはずがない。あの血の匂い。彼女の光を失った顔、あいつはもう走れない。もう舞台にも立てない。陸上選手なら死んだと何ら変わらない」
「お前のせいじゃない。それに、」
沙緒は気まずそうにしながらも口を開いた。
「あいつは町を出たよ。」
「え?」
「青い封筒に選ばれたらしい」
「青い封筒」
それは俺に来ていたやつと同じなのかもしれない。
「にいちゃどこ行くの?」
「この地を護っていた英獣の墓場です。」
使い魔は崩れた祠の欠片を道を開けるようにおいた。
祠の奥には赤い炎があり、使い魔が触れた途端、景色は変わり、先には緑が生茂る原っぱが見える。
墓といっても、人や獣が眠っていて、半透明のように透き通っていた。
「彼らは私たちよりも早く生まれ、天地の戦争で息絶えた英獣達です。」
「使い魔さん、あれは皆使い魔なの?それとも主と一緒に眠っているの?」
「少年。彼らには主はいません。この地界を主としているのです。そして、あれは彼らが生きた証。人として生きたもの、獣として生きたもの。我々は最期に人か獣かを選び遺存を遺すんです。」
使い魔はその中でも大きくドラゴンのような獣と向かいあった。
「……すみません、地龍。うるさくしてしまったようです。お怪我がなくて安心しました。」
使い魔は花を置いた。
「私たちも随分と成長しました。あなたの意思と共に被害を受けた人は皆、姫と私達でこの地で平穏に暮らしています。」
「全て貴方に助けて頂いたおかげです。私はこの力で地獣と英獣の意思を継ぎ自由を勝ち取ります。あなたが望んでいた日もすぐにきます。」
「皆さん。この方々のおかげで我々はこの地域に住み、幸せに暮らしています。だから目を閉じて、感謝を伝えましょう」
「「はい!」」
使い魔達は目を閉じ、暫くしてから目を開けた。
「では帰ります。この暗然な世にいつか光が差すことを。」
そして、使い魔達は祠を出た。
「地獣のおかげでこの町が出来たんだね」
「地獣はずっとここに住み、居場所のないものに居場所を与えていました。どんなものも受け入れる方です。英獣達の親代わりとしても受け入れて戦いが来る日まで傍にいました。そして、小さい頃、心臓であるソルスが壊れた私に、魔力を流し込み、ソルスを再起させたんです。そして彼はこの世を去りました。」
「……」
「気にしないでください。彼はもう老けていましたから。彼はまだ私の中で生きています。」




