負を喰らう者
彩夢には現実世界に戻る目的があった。しかし、神に妨害され、神が作る世界に閉じ込められる。
最後の街にて現れた神は接戦を繰り広げ、彩夢が勝った。
俺が安堵しながら後ろをみるとシャーゼンロッセは半分身体を失い黒い液体を流していた。
「あーあ、これじゃクロクに怒られるちゃうな。」
「大丈夫か、シャーゼンロッセ! なんだお前」
「…………グルァ!」
シャーゼンロッセは弱く鳴きながら、俺を囲むかのように手を前方に置いて睨みつける。
「……んっ……ぐもぐ……ふぅ。僕はアンノルン。アルって呼ばれてる。好きに呼んで。」
くせ毛の白い髪の男は、奪ったシャーゼンロッセの身体を口にいれた。
「もっと美味しいものが食べた方がいいよ。君の感情は不安で出来てる。不安……はっきりしない味は負の反対で甘いし酸っぱくて苦手。」
彼の手は獣みたいに尖っていた。そして、銀色の鱗が手に生えている。
「なんなんだよお前。負を食べるって……死呪霊なのか」
アンノルンは少し考えるように視線を逸らした後、頷いた。
「多分そう。君の言葉を使うと僕自身が死呪霊だと思う。」
「グルッァ!」
シャーゼンロッセが鳴いた途端に、シャーゼンロッセの足が奪われた。
「……え」
「逃がさない。アルはそのためにいるんだから。」
これまでシャーゼンロッセは実物がない。気配のような存在で俺しか触れられなかった。なのに、こいつは
「君みたいに話ができる存在が好き。でも、クロクに殺せって言われちゃった。ごめんね。」
「グル……グルグル!」
シャーゼンロッセは痛がりながら立ち上がり、アンノルンに襲いかかる。
だが、一瞬で吹き飛んだ。ザーッと波のようになりシャーゼンロッセは弱っている。
「シャーゼンロッセ!!」
「……。」
アンノルンは少し考えるように口を開いた。
「クロクの言葉の意味わかった。そっか。君も同じなんだ」
「何がだ」
彼は俺の言葉を聞かずに、シャーゼンロッセに向かう。
「君、アラストリアなんだね」
「……なんで知ってるんだ」
俺はシャーゼンロッセの前に立った。世界はもう足場しかない。
「だってアルは……」
「ストップ。アンノルン、それ以上開示はしない方がいい。それを塩を送るっていうんだよ。」
「……。」
アンノルンの背後からクロクとフューブリッジが現れた。さっきまで戦った神が2人。そして、得体もしれない死呪霊。
「彩夢、君の足掻きは素晴らしかった。造り手としては満足さ。でも、君の世界に獣はいてはいけないんだよ。」
「何度も言うが、我々はお前を現実世界に戻す気だ。だが、そいつは連れて行けない。その力でやることは許されないことだ。その位のことということは、それは決められた運命だ。抗うべきじゃない。」
「うるさいな。運命が歪んでも、世界が混乱しても関係ない。俺さえ良ければそれでいい。」
「なら力づくだよ。その削りきった僅かな力で足掻けるかな」
俺がナイフと銃を向けた瞬間、ナイフが折れた。
「あまり損傷させないでね。現実世界に返す時に大変なんだから。それにしてもやっぱり僕らは相性がいい」
「お前に合わせて創られたからな。」
「そうだね。さあ勘弁してね、彩夢」
残像さえ見えなかった。時間を止める力、永遠の再生、そして死呪霊……。こんなやつらを相手に俺は勝てるのか。
「グル……アア!!」
その時、シャーゼンロッセは俺の身体を抱きしめ下に頭をつけ落ちていく。
ブチッと鈍い音がした。シャーゼンロッセの下半身をアンノルンが引き裂いた。
それでも俺を抱える腕だけはと力を入れていた。
「お前……!」
―――――
「ごめん、逃げちゃった。」
「まあいいよ。あんなに損傷を与えたんだし、簡単には復活できないだろう。それはそれとしてアンノルン、何か思い出したかい?」
「……なにも」
「ならいいよ。後は任せて。君にはまた死呪霊を狩ってもらう。」
「うん」
―――
そして、気づくと俺は現実世界の病室にいた。
『なるほど双子ですか。確かに、継承もしやすいし、負担も少ないです。』
『関心している場合じゃないです。鎌を使う選択肢は評価します。情報を握られる前に返しましょう』
血の糸で情報を流しながら、使い魔とレフトバは背中を合わせ釜をかまえた。
『彼らは情報端末を使う。影に入れて電波を遮断しましょう』
『それもそうですね』
レフトバは、ツルのように伸びる鎌を使い、2人を1箇所に集める。
「仲間 追加。名称 レフトバ」
「大丈夫だよ。レクイル。私たちは完全体。失敗作が勝てるわけないんだから。」
「影箱」
2人が同じ場所につき、使い魔は影箱を展開する。彼らはスッポリと影に飲まれた。
「まだ全貌が見えていない以上、楽観はできない。後は私の新作のアレを使います。」
「何を賭けますか」
「あなたの羽」
「いつも泣きながら羽を抜いてるんですよ。死ぬまで綺麗な羽は持っていたいのですが……」
「大丈夫。勝ちます。運はいいんですよ」
「前、天界で操られてあばれまわってた癖によく言いますね。」
「あの世界で気が狂わないあなたの方が本来おかしいんです。皆あの世界は魔力が狂うんです。気を取り直して、いきますよ」
「何、ここ。……っ、通じない」
「電波 遮断。復帰……失敗」
「さあ、獲物の双子さん。私とゲームをしましょう。」
「するわけ」
「ここの世界は彼の意思で決まります。拒むなら、」
「……っごほ」
「レクル!?」
「さあ遊びましょう。何が欲しいですか」
「あんたの力の提示。1日来てもらう」
そう使い魔を指指した。
「いいでしょう。私が勝ったら、ハカセ特性の薬を飲んでもらいます。」
「薬……?私たちに効くとでも?」
「えぇ。ではやりましょう。」
「勝手に賭けないでください。はぁ絶対に勝ってくださいよ。」




