咲くべき場所
彩夢には現実世界に戻る目的があった。しかし、神に妨害され、神が作る世界に閉じ込められる。
最後の街にて現れた神は、彩夢と接戦を繰り広げていた。
「舞台から降ろせ ボルテクス」
彼女の声が聞こえる時には、既に足元に割れた地面がくい込んだ。
「ああっ……ア゛ア゛アッ」
呻き声をあげる人間は、俺に手を伸ばす。
「シャーゼンロッセ」
声と共に皆は倒れてた。もう憎しみも何も無くただ無を喰らう感覚だった。
周りの世界はだんだんと狭まっていく。もう時間はない。このまま消えたらきっと捕まると同意だ。
「グルッ!!」
シャーゼンロッセは俺の背中を鼻でつついた。とりあえず倒せと言いたいんだな。
「まずはあのデカブツからだ」
俺は銃をデカブツに向けて放つ。
「――概念付与」
(貫通しろ、ぶち抜け)
だが、その銃弾は焦げ落ちるように溶けてしまった。
「効くわけないでしょう?神聖な存在に灰かぶりの穢れた人間の貴方が触れるわけない!! 諦めて懺悔しなさい。」
「終幕」
空間はガラスのように割れ、俺に向かって襲いかかる。だが、
「……その概念を破壊する。逆境」
彼らの憎しみの魔力を込めた一撃を放つ。
「―――――――――!!」
「えっ」
破片は俺の首元で止まった。
そして、ボルテクスに大きな銃跡があった。ボルテクスはパラパラと甲高い音を叫びながら消えていく。
「なっな、なんで」
「お前がペラペラ喋ってくれたおかげで助かったよ。俺自身は概念を扱う。定義を決めてくれると壊せるんだ。知らなかったのか?あぁこいつ以外興味ないか。」
俺は首元まで伸びた破片をナイフで切り落とした。
「お前みたいな存在感がないやつに…!」
「そんなやつに負けたんだ。大きなものだけみて足元を見ていないやつは、失った時に歩けなくなる。ここで終わりだ」
俺は彼女に銃を向けた。
「……いつもそう。私だけ取り残されて、周りだけが上手くいく。夢も希望もない。でも、だからこそ……ここでは強くあろうとした。」
彼女は魔法書を開く。
「終幕」
「――――!!」
あの化け物がいなくても、自分の力で出せるのか?狭かった世界がさらに狭くなる。欠片はひび割れ、俺に向かう。
「なるほど。間違いを乗り越えるために力をつける。その強さは認める。だが……俺には果たすべき目的がある。絶対に諦められないものがある。俺はそのために生きている。」
「―――逆境」
シャーゼンロッセはボルテクスを喰いつくし、俺の背後に現れる。
「俺は諦めない。」
光を放つ咆哮は彼女を包みこんだ。魔法書は消え、彼女の身体から光を放っていく。
「私は……」
―――
なんなんだこの人の意地は。そんなに何かしたいことがあるのかな。きっと壮大な目的なんだろうな。
いいな。私もそんな夢持ちたかったな。
周りばかり上手くいく。それでも、もし諦めなかったら……どうなっていたのかな。
私自身、どうしたかったのかな。
先生。助けて。教えてよ。
なんであの時受からなかったの。なんで私だけダメだったの。それさえなければこんなに苦しむ事もきっと無かった。
誰よりも強くならなきゃって思い続けたよ。私だけにならないように。
先生……もっと話せばよかった。いつも心配してくれていたのに。毎日メールくれたのに。教育の就職先も、大学院のパンフレットも集めてくれてたってメールが送ってくれたのに。
でも、こんな私が虚しくて、情けなくて、惨めで……恥で……応えられなかった。
ごめんね。先生。
―――
「お前は周りを扱う力はあった。でも、自分自身の強さを形や価値でしか認めない。根拠なく強さを自負して自分らしく生きていれば良かったのにな。」
自分らしく……?
「私は……野原でしか咲けなかった。街路に咲けなかった。自分の場所で咲く。なんて、無情なことなんでしょう。」
この無力さに震える声が出た。涙は止まらない。
負けなんて認めたくない。
「別に咲かなくてもいい。お前が咲きたいなら、お前が咲きたい場所に留まり続けてもいいんじゃないか。周りの目なんて、咲かなきゃ見られないしな。咲けば皆同じだよ。」
「皆同じ……?」
「あぁ。お前は花を見た時に咲いた時期なんて考えないだろ?」
先生は私が咲けるように諦めないでと言ってた。でも、私は周りより出来ないからと辞めたんだ。
「そっか。……ずっと私を見てくれたのに。私は周りばっかりみてたんだね。最後に少し楽になった、ありがとう人間」
そう彼女は言い残し、消えていった。
この消えかけな世界を残して。
「いいのか、この世界はもう持たないぞ。」
「僕としては、あの獣が本性を出してきただけで十分だよ。それにしても、これが天神の狙いというわけか。アラストリアとして倒したところで彼の深層に潜む獣は顔を出さない。知らなかったら現世に戻すところだった。」
世界の端でヒューブリッジとクロクは2人の様子を眺めていた。
「この世界だけじゃない、彼女はどうするんだ。彼女はまだ歴が短い。力の扱いができていないまま、あの獣とぶつけては手札が減る」
「適材適所。彼女の舞台はここだけだよ。この世界を創った時から決めてたんだ。自分の無力さを嘆き死んだ人間の願いを叶えてこそ僕の手札となる。手札になった後は捨てるも育てるも使うも僕の自由さ。」
ヒューブリッジは呆れるようにため息を吐いた。
「俺より神みたいなことをいうんだな。」
「僕はこの暮らしの方が長いからね。それに、人のままじゃこの世界は生きていけないんだ。彼女はまだもう無い夢に固執している。それじゃ僕らと並べない。……さて、次の手札には見通しがついてる。まあ君に下まで潜ってもらうけど。」
「なんで下なんだ。」
「神聖獣の血を持つ存在がいる。」
「下の世界で生きているわけがない。」
ヒューブリッジは首を振った。これまでに生きてきた痕跡はなく、彼自身、自身の魔力と噛み合わなくなり苦痛を味わうため下に行くのを拒むほどだった。
「それが生きていたから欲しいんだよ。まあ苦戦はするだろうね。」
「……はぁ。善処はするが、今はここだ。何故アルを連れてこない。あいつは彼に唯一上を取れる。対死呪霊として使うべきだ」
「いや、彼は死呪霊の声を聞ける。あの獣にアンノルンを見せるべきじゃない。彼が声を聞いて行動をかえると困る。」
「なんの話し?」
白い髪を前方に結んだ男は彼らの前に現れた。
「…アル」
「行けって天神に言われた。だからここにいる。アルは何したらいい」
2人は顔を見合わせた。
「……」
「……」




