対面
彩夢の目的は現実世界で魔力を持つアラストリアの力を使い復讐することだった。
その復讐を邪魔するようにカミノハカニワに閉じ込められる。その世界から抜け出すために奮闘していた。
「ということで、町の復興と彩夢頑張ってこいという想いをこめて……カンパーイ!!」
「……かんぱい」
「「イェェエエエエエエイ!!!」」
代表のようなやつに腕を回され、動けない俺は仕方なくコップをあげた。もちろん、酒を飲む気はない。ただの味がしない液体だ。
早く出て行きたかったが、アラストリアに粘られしばらくここで滞在してしまった。
まあ、ゆっくりした時間を過ごすのもたまには悪くないかもしれない。これまで神と呼ばれるやつに戦ってきてばかりだ。
人の認識、想いからできている世界なら、神という存在は絶対的な力を持つ。そんな相手に俺もよく耐えたものだろう。
「美味しいか、彩夢?」
「美味しい。こんなに作るの大変だったろ」
美味しいはちゃんと言うようにしている。ばあちゃんにしっかり美味しいと言うのがお礼代わりだと思っていた癖もあるが。
「そんなことないよ、いっぱい美味しいものを食べることは幸せを感じられる手段でもある。そのためならこのくらいいくらでも作ろう。わっはは!」
陽気な姉ちゃんはそう言いながら酒を一気飲みしていた。
「おいおい、なに自分だけやりました感出しているんだ。俺がほとんどやったんだが?」
「いいじゃないか、若いのが街の復興頑張っている間、幸せを作るのが我々の仕事なんだから!私のものでもある」
「…やれやれ。好き勝手な姉ちゃんだ。」
男はそういうと、皿の上のご飯をたいあげて俺の隣に座り、俺の皿に肉やら魚を更にのせた。
「まあそんな訳だ。沢山食べて頑張れよ彩夢」
「あぁ。」
「お前もなんか抱えてそうで心配だから、みんな此処にいて欲しいんだがな。まあ、ここはお前の居場所なんだから何かあったら帰ってこい」
居場所……あいつが求めていたものだ。人に何度騙されてもあいつは居場所を探していた。居場所が何なのか俺には分からない。
「居場所ってなんだ」
「居場所っていうのはな。安心できる……そうだな、居心地がいい場所だ。この場所は嫌いか?」
「別に……何も考えてないよ」
「なら此処はお前がお前らしくいられる場所だ。俺たちもお前みたいな不貞腐れたやつは新鮮だから面白いんだ。」
確かに、ここは襲われる不安が少ない。周りの動きに警戒はしているが、人間関係の気づかいを俺はいつの間にかしていない。言葉選びもあまり考えてないし。
「新鮮ねぇ……」
「こら、おじちゃんの説教話は若者には毒だぞ?ほらそろそろ出るんだろ?」
「はい。」
もう少し此処にいれば、安らぎは得られる。でも、安らぎは二の次だ。
「行こうアラストリア」
「ガウ!」
俺はご飯を食べ終わり、アラストリアを肩にのせる。みんなの姿を背後にドアを開けた。
「「行ってらっしゃい」」
「……行ってきます」
少し物寂しかった。俺の帰る場所は居心地は悪いし、居場所はない。でも、ここの人や由来の事は記憶にいれておこう。
アラストリアに高い場所に行ってもらい、次の方向へと歩き出す。ここの空間の存在意義はあるのかもしれないが、俺は早く出ていきたい。復讐しなきゃ俺の存在意義はない。
「がうっ!」
「……ん?」
町を出て少しした場所に、白い絹をまとった女がいた。青髪に眼鏡をかけ、腰には本を携帯している。ただ無を感じさせるかのように黙りこんでジッと俺の顔をみた。
この感じ……何故か俺は懐かしいと感じてしまった
「お前は彩夢なのか?」
メガネ越しの緑色の瞳。俺が彼の視界でみていたやつだ。
天使……神に使える身。偽物の手を借り、現実世界を渡り、あの偽物を救おうとしていたやつだ。
そんなやつが俺の前に現れた。何か聞き出せれるならいいが、こいつは天界側だ。いつでも対応できるようにするべきだ。
「知ってるよ、ウィストリアだろ。俺に何の用だ」
「私はお前に危害を加える気はない。ただ一つ用があってきたんだ。彩夢もきっと戦うことを望んでいない」
「彩夢は俺の名前だ。あの偽物の話なんかどうでもいいし、俺はあいつみたいにお前に力を貸す気はない。」
俺はナイフを取り出した。
アラストリアは様子見をするように大人しい。
「それは悪かったな彩夢。これからはあの人を彼と呼ぼう。」
「……。」
「して、彩夢。お前の願いはここを出る。そうだな?」
「私と来い彩夢。この世界を出てお前の世界に戻ろう。」
彼女は真剣に俺をこの世界から出したいようだ。ただ、あの世界に戻るために必要なものがある。
「クロクが俺の情報の紙を持っている。それがないと帰れない。どうする気だ」
「お前には心苦しいかもしれないが、アラストリアを渡してくれないか。あちらの引換条件はそれだ」
「なるほど。なら……交渉はする気はない。」
俺は彼女へと刃を向ける。その様子に驚きながらも、彼女はまっすぐな目で俺を見る。
「お前が大事にしているのは分かっている。ただ、彩夢には普通の生活を送ってほしいんだ。何かあれば私が傍で手伝う。私を使ってくれていい。だから、帰らないか彩夢」
「普通?」
普通という言葉に俺はカチンとした。
俺の人生には、普通という生活なんてなかった。長く湿着いたいじめ、皆が当たり前のようにしているものさえ手に入らない。あの生活が普通だって?
「ふざけんな。俺には普通の生活なんてなかった。ずっと1人だった。俺は、その原因を、意味がなくともこの腐った心を蘇らせる。それには、今の力がいる」
あいつを殺すまで、俺はただ足掻き続ける。そう心に誓ったんだ。
「……彩夢」
「俺は自分のために生きる。邪魔をするなら消えてくれ」
彼女は後悔したかのように落ち込んでいた。
「すまなかった。お前にそんな気持ちがあったなんて。なら……私がその獣の代わりにに手を汚すのはだめか」
「そこまで俺に入り込むなよ。俺だけでやる。」
「そうか。だが、この先に行かせたくはない。次が最後の場所だ。お前を殺す気で神は動いている。残虐な目に合わせないために、私と共に来てもらう。」
彼女はそう言うと、1冊の本を取り出した。
その本を開くと、中に手を入れ炎を巻き上げた剣を出す。
「すまない。私の仕事なんだ」
「分かった。行くぞアラストリア」
「……ギャウ」
「本当に行かせたようですね。酷なことを」
「……仕方ないでしょ。彼のことをよく知っていたのは彼女なんだから。」
「なぜ、あなたが行かないんですか?彼のことを知っていて、かつチカラがあるのは貴方なのに」
「あの化け物のせいで出来ないんだ。あいつは僕に「彩夢を救え」と契約をした。」
「は!? あんな化け物と」
「仕方ないじゃん。死にかけた彩夢を救うためだと思っていたけど騙された。救うのは表面以外の意味も含まれてた。僕も長くはないしあまり寿命も魔力も削りたくない。」
「……なるほど。では彼女がダメなら私が行くしかないようです。」
「そうなるね。ただ、君の方が仕上げには適任でしょ?」
「まあ……はい。あっ、あともう1つ。アンノルンを復元しました。どうしますか」
「まだ復帰させなくていい。彼の記憶は地界との戦争のままだし、もし何か影響が残っていれば厄介だ。天神様に再度首輪でも付けられたらいい。その後は適当に死呪霊を狩らせる。彼が1番適任なんだから。」
暗い牢屋で1人の青年が目を開けた。
「キュウ!」
『久しぶり。クロクにいじめられてないか?』
「キュウ!」
『なら良い。』
「アンノルン、動け!役目だ。」
『僕を呼んだということは厄介ごとだろ』
「天神様の命令だ。すぐに向かうぞ」
『……分かった。』




