6話 誰がために
さて、この訳が分からない相手にどうするべきか。もうアラストリアに力を借りるしかない。
「……我が身アラストリア、力を貸せ」
『――ギャウ!!』
「がんばれよー」
町の人間が俺に期待の目を向ける。
俺はお前達のために戦っている訳ではない。
人間なんてどうでもいい。恩を売るつもりもない。
どれだけ自分をすり減らしたとして見返りなどなく、ただ消耗させられ、粗を探される。それだけなのだから。
そう思ったら、そこら辺のガキに命渡して死んだアイツはバカにしか思えない。
「さあ、お帰り願おうか?」
「ならその獣をこっちに渡すんだな」
魔力を込めた刃が交錯すると、キンッと鋭い音が空気を引き裂き、振動が腕を通じて全身に伝わる。風が血の匂いを運び、胃がひっくり返るような感覚に襲われる。
とりあえず一撃でも食らわせる。
剣を交わしながら、無意識に俺は何度も自分に問いをかけていた。
(なんで戦っているのだろう?)
こいつらなんてどうでもいいはずなのに、なぜかあの町の人々の期待が胸に刺さる。彼らを盾にして逃げることもできそうなのに何故かこうして戦っている。
あいつが死んだ理由、俺が生きる理由。それらが変に混ざり合い、俺の心の中で気持ち悪いな感覚になっていく。自分が自分を拒否し合う。
あの世界をお前はどう見ていたのかは知らないが、俺はあの場所で生きるのは嫌だ。どうせならお前に殺された方が幸せだったかもしれない。
俺はお前みたいに何かをできるものではない。ただ復讐のためにあの世界を生きるんだ。
俺はあいつとは違う。
アラストリアがいれば、自分の手を汚さずに、ただ運命を操るように災いを引き起こす。ただ受けてばかりなんて嫌だった。
自分の復讐のために、自分を守るために、俺はこの力を使う。それしか俺は生き方を知らない。
『聞いたか? あいつ学校に行く途中に坂から転がって救急車に運ばれたって。重症らしい。』
『えっ……まじ?』
だからこそ、アラストリアは俺の全てで、この力を失うわけにはいかない。やるべきことを果たすために。
魔力は十分に通用する。あとはこの頭脳を駆使するのみ。とりあえず、今は本能に従う。あいつにトドメを刺しに行くんだ。
俺はまた剣を構えた。
「面白い。こちらも本気でいこうか。」
瞬きもする暇もなく、視界一面が光に包まれる。先程の技がまた繰り返される。周りに隠れるものもないなら……真正面から打ち破ってやる。
「概念付与」
切り裂け。真っ直ぐに。
俺が振り上げた刃は、光より早く前にある視界の全てを割った。光は俺を避けるように左右へと走り抜ける。
俺は全力で走り込み、地面を蹴り、石に魔力をこめる。視線は敵の動きを追い、次の瞬間を見据えている。
「発火」
隙を狙い投げつけた石は、彼の視界を阻害し土を巻き上げる。
その隙に、接近しナイフを勘で真横に振る。何かがカンっと鳴り響いた瞬間に、それが剣だと確信する。
「概念付与」
貫通しろ。
力を入れて力を込めようとふった。が、その時に剣の感覚はなく、ただ空ぶった感覚があった。
「……っ」
土煙は自分すらも包みこむ。
周りを見渡していると、急に身体に衝撃が走った。
「――っぐ」
身体に何か違和感がある。
心臓には当たってはないが、腹の方がベタベタする。この鉄の匂い……血が流れている。
今は集中力で痛みをカバーしているが、気を抜いた途端に倒れこむだろう。
俺はナイフを振っては煙を払った。
「よくやるな。まだ元気そうでなによりだ」
「…うるさい。とっととくたばれよ。」
やはりこの力には致命的な弱点がある。攻撃を切り替える時に、どうしても声を発する必要がある。その隙は自分にとって命取りになる。
でも、この力はこれだけじゃない。
「我が身アラストリア、降り注ぐ災いから護れ、そして滅せよ。」
その言葉と共に、強いかぜが吹き荒れる。強風は彼が立っていた建物を破壊し、瓦礫が舞い上がる。
「発火っ!」
その隙を狙い、飛び散る残骸を盾にしながら石を投げつけ敵の視界を奪う。
「――っ」
彼に覆いかぶさるように建物の瓦礫が落ちていく。
なんとかうまくはいっているが、自分の魔力が削られていく気がする。アラストリアへの不可は大きいだろう。
それに、まだ終わることはない。
俺は建物の残骸が動くのに備えていた。
「にゃー」
「……」
何も動かないと思えば、足元にただ1匹の猫が俺の前にいた。そして、その猫は彼の姿へと変わる。
「久しぶりに悪くないのをくらったな。たしかに、クロクが警戒するのもわかる。人間の運命使い……天神の力もなく使えるとはな」
「運命?なんのことだか」
そういうと、男は服についた汚れを払っていた。
「運命という決められたものを狂わせる力だ。俺とクロク……あと数人は力を使える。」
クロク……あいつは時間を操っているようにみえた。それが該当し、こいつは傷つかない身体。
「その回復する身体と運命に関係はないだろ。」
「傷、怪我、痛み……人間が当たり前に向き合い、逃れられないものを俺は否定できる。そういう考え方だ。」
「それが運命遣いか。よく分からないが運命なんて興味ないよ。俺には幸せなんて僅かにしかなかったし、生まれつきの運は好きじゃない。ただ、この力があるから使う。俺のために。」
俺はまたナイフを握りしめ、銃を取り出した。
「運命遣いは天神に与えられたものだ。人間が簡単に使っていいようなものではない。ここで潰させてもらう」
そういうと、彼は胸に手を当てた。静かに息を吸い目を見開いた途端に、
「すぐに楽にしてやろう」
周りは真っ白になった。そして、空から舞い降りたのは巨体の何か。空気が一瞬で凍りつくような感覚。
「……」
「―――――――――――――――――!!!」
猫なんて可愛げのあるものではないだろう。神々しい翼を引きずれて、羽毛をまとった獣の瞳孔が縦に開く。雄叫びは俺たちが荒らした町を全て更地にしてしまった。
「――――――」
「……」
流石にこれを相手にするのは厳しい気がする。
俺の直感はそう呟いた。
だが……こんな姿のヤツからアラストリアを守れるのだろうか。確かに、失うわけにはいかない。意地でも、あいつを手放すわけにはいかない。
あいつが俺の全てだ。撒けるような相手じゃない。やるしかない。
「……」
「―――――――っ!!」
「っ!」
耳が切り裂かれるような音で、地面は網のように亀裂が入り消えていく。
「アラストリアッ、無事か!!」
応答が聞こえない。だが、魔力はまだあるのは分かる。こんなやつどうやって。
とりあえず、石に概念を付与して効果をあげてみる。
「概念付与」
相手の魔力に反響して、効果をあげろ。
「――発火」
小さな石とはいえ、与えた概念は獣を炎へと巻き込んだ。
だが
「……っ」
多少傷をつけただけで、その傷も一瞬で治っていく。獣は立ち尽くす俺を笑みを見せながら口を開き魔力を貯める。
光が口にから溢れ俺に向かって咆哮する。
ここで……おわるのか。周りが白く歪んでいく。嫌だ、せっかく身体が戻ってきたんだ。あの苦労はまだ報われていない。彩広 美喰楓……お前だけは殺してやる。この手で!
「まだ終われないんだよ……我が身を守れっ!!」
――光が弱まり、目を開ける。俺は有難いことに死んではいなかった。
「しっかりしてください」
「お前大丈夫か」
「……」
目の前には、町の人達がいた。
皆が武器を持ち、彼らの前にはバリアのような結界がある。
「ギャウ」
「アラストリア」
そして、アラストリアは俺に頬に擦り寄ってくる。
「良かった…」
撫でられるのを嬉しそうに目を細めて笑っていた。
「さあ私たちも戦います。この楽園を守るために」
「いくぞお!」
そいつらは獣に向かっては光に消えていく。
なんで……そんなにできるのか。
「ギャ!」
「……どうやって勝てばいい。」
「グゥ」
「俺は……怖い。力に押さえつけられるのが」
「ガウ!」
アラストリアはマムへ手を向けた。
「速く加勢してください。勝てなくても負けたら失うのが分かっているから抗うんです。せっかく死を乗り越えて来た居場所を失うなどしたくありません。私たちは運命に抗わなければいけない。」
「運命に抗う」
「あなただって、その子を守りたいなら抗うしかないでしょう! 皆守りたいものがある。目的は同じです。協力して勝ちましょう」
俺はもう人を信頼なんてできない。だからずっとアラストリアと生きてき
「みんな前が見えない。でも、今なくても生きていれば、誰かについていくように行動するだけでも前はいつかみえる。そう信じるしかない。」
生きていれば、足掻けばいつか……光がみえる。
だから、みんな手を取り合う。見えなくても、生きて前を向くために。
「それにはあなたの力がいる。会ったばかりの貴方にいう言葉ではありませんが信頼しています。」
「――!」
「さあやるぞ」
「速く立て」
「協力しましょう。」
俺の中で何かが壊れた。俺はずっと独りだったのにそうやってバカみたいに信じて協力しようなんて。
みんな必死らしい。俺もみんなも。
なら……俺はアラストリアだけを守るんだけじゃなく。今だけは俺は皆のために戦ってやる。
見ている世界が多分きっと小さかったんだ。もっと大きく見れば案外なんとかなるかもしれない。この力だって。
「アラストリア。俺に全てを任してくれないか」
「ぎゃう……?キャン!」
「概念破壊」俺は自分の胸にナイフを突き立てると、ビリッとした痛みと共に、胸の中で何かが解放される感覚があった。そして手を獣に向けると、その力の波を何となく感じ取った。初めて、俺は自分の力の真の意味を理解した。
「キャウ?」
「……っ大丈夫だ」
獣……お前にある能力を破壊する。
そして、痛みを付与する。
「―――っっ!?」
町の住民の攻撃を受け、獣の顔は引きつっていた。
その獣は一心で叫びをあげ人々を遠ざける。
「今だ。皆でそいつを叩くぞ」
「「おう!!!」」
獣が怯んだ瞬間に、皆が武器を向ける。俺も魔石に力を込めた。
「発火」
ぶつかり火をまきあげ身体を包み込ませる。僅かにえぐれた皮膚に向かって皆が全力で叩き込む。
「きゃあああああああああああああああ!!」
「行くぞアラストリア」
「キャン!!」
「概念付与」
会心をたたき出す。
肉をきるような感覚がした。獣は悲鳴をあげながら足元を鳴らし土煙を巻き上げる。
「……。」
再び、男へ姿を変えると顔を俯かせながら手をあげた。
身体には無臭だが血が流れている。
「……今回は俺の負けにしてやろう」
「次なんてないし、顔もみたくないね。」
「ふっ面白い。次は勝つからな。」
そういうと、彼はひきつった顔を隠しながら消えていった。
「ギャウ!」
「つまり勝ったというわけですね。」
マムの言葉と共に歓声が巻きあがった。
気が抜けた。それと同時に痛みに襲われる。
「もうむり」
「「えっ」」
2024年も応援頂きありがとうございました。あまり更新ができないことがありながら待っている方がいることが励みです。
来年もよろしくお願いします。
「というわけで主人公変わってもなんとかなるってことね!」
「なんでお前がいうんだ。というか、初対面なんだが……誰なんだ」
「お兄さん頑張って合わしてよ」
「お兄さん?俺は兄弟はいるが……」
「とりあえず、来年は全員合流よ。そして、やるべきことをやる。OK?」
「やるべきことねえ。俺は死にかけなんだが」
「待っててよね!」
「アルもそう思う」
「??もう多すぎだって。誰なんだよこいつら」




