3話 次の街へ
「グルグル!」
「ん……まだねむい」
「グル!! グルゥゥ!!」
「うるさい。……わかったから」
アラストリアに揺すられ俺は仕方なく起き上がった。だが、身体が重い。それと、少ししか使ってないが魔力がかなり削られている気がする。呼吸で魔力を回復しようも中々貯まりにくいし。
「異常は?」
俺が聞くと頭を横に振り男のところへ連れていかせたいのか引っ張ってくる。仕方なくついていくか。
「ファイア! 」
昨日の男は何かを叫びならが手から炎を放つ。これがスキルやら能力と言ったものか。これなら、能力がないやつを集めて同じようにしたらこの世界を抜け出すヒントやら余計な戦いをしなくてもいいのでは?
だが……俺がそいつらをコントロールできるかというと自信が無い。リーダーシップはないし、人間は簡単に裏切ってくる。隙につけ込まれ、ミスをすれば人が増えれば増えるほど殺される可能性が高くなるだけだ。
そう考えている間にも男は次々と倒していく。炎を当てようにも化け物は速く避けてしまうが、それをアラストリアが見計らっては俺のナイフを咥えて援護する。
いつの間にかナイフを取られている。渡した覚えはないのだが。まあ、いっか。
「なあ見てくれ! スキル使えるようになったんだ!」
「良かったな」
男は何度も化け物を見つけては的にするように炎を放つ。気づくと、アラストリアは首にカゴをつけて俺に中の木の実を見せるように目を向ける。
「木の実か。助かる」
「その子といっぱい採ったんだ。あと、話し合っていい事思いついたから待っててくれ」
「ワン!」
アラストリアは男についていくと姿を変えて町に走った。すぐに帰ってくると鍋とよく分からない瓶、現実で売っていたシチューのルーを持ってきた。
「クリームシチューということは牛乳か」
「あぁ。あそこは死体だらけで衛生は悪いが現実に似た家畜や現実から持ってきた荷物は沢山あるんだ。」
「悪いが俺は食べない。見た目は大丈夫そうだが衛生面が。顔色の悪いやつばっかだったし。」
そう言うと、男は笑顔で木の実を取った。
「病気になるのは人だけで、それ以外はピンピンしてるんだ。気味が悪いくらいな」
よほどこの世界は人を嫌っているらしい。彼の話が本当なら。
「1口くらい食わないと頑張れないだろ?すぐに作るからな」
「……」
アラストリアに目線を送ると分かっているかのように頷いた。毒味を頼んで1口くらいならいけるか。確かにお腹は空いているが。
「皆、あの世界に絶望して自殺したんだ。なのに、異世界でやり直す希望だけはある。バカみたいだろ?このルーなんて死ぬ間際のやつが持ってるのなんておかしいじゃん」
「まるでキャンプ気分だな。」
そこらへんで売ってるやつでも少し高いやつだな。このルーは確かばあちゃんが鶏肉で作ってたやつだ。皮が好きだった。だが……そんな過去を想ったところで何も返ってはこない。
「俺は思うんだ。皆、なにか希望があれば絶望しなきゃ、異世界みたいにある程度自由になった現実なら、死ななくても生きていけたんじゃないかなって」
男はそう言うと木の実を小さくしていた。人間、仮説は立っても権力、圧、社会に飲まれ行動できない。その事を知ってなお天空を利用し違う方法で壊そうとしたやつはいるが。
「もうお前は死んだんだ。現実にはいけないだろ」
「ははっだな」
男は自分で炎を出すと上に鍋を置いた。その中に自分の力で水を出し煮詰めていく。
「そういえば、お前の名前を聞かせてくれないか」
「名乗りたくない」
「じゃあ……俺も内緒にしようかな。ずっと不機嫌だが、俺のことは嫌いか?」
「嫌いでも好きでもない。ただ人として見てる。以上だ」
俺は淡々と呟いた。男の顔は見えないが背中は黒ずんでいるように見える。
(……良い匂いがしてくる)
「グルグル!!」
アラストリアは目を輝かせながら走り回っていた。俺はそこらへんの石を投げて取らせに行く。
「な、お前の凄い能力を教えてくれ」
「言うわけないだろ」
自分のことを人に教えないのは生きるための基本だ。自分について喋ることで利益になるのは友達になるかならないかの話繋だ。俺は同じ轍を踏むことはしない。友達とは話して周りから溶けるためだけの存在だ。結末は利用されるかバカにされるかの2択。必要ない。
「そっか。お前も色々あって死んだんだな」
「……」
死んでないんだが。まあ此処にいるやつは皆自殺しているし何かあるんだろ。
「ほら出来たぞ。現実みたいな味は厳しいが腹ごしらえにはなるだろ?」
俺はアラストリアに飲ませ確認した後に口に運んだ。
「俺の母さんが教えてくれた味だ。美味しいだろ?」
「……い」
「ん、なんて」
「美味しい」
「ははっ! 良かった!」
人に大事にされたことが無い。そんな俺でも僅かに人の温もりを感じた。ただ単純にわかってしまった。
俺はこんな自分が嫌で変わろうとしていたんだ。騙されないように自分を守るために。なのに、何が正解か分からなくなってくる。あいつに掻き回されてから。
アラストリアに半分飲ませ俺も食べた。久しぶり、いや数年ぶりの温かくて少し懐かしいようなご飯だった。
「……行くぞ」
「あぁ!」
俺はご飯を食べると姿を変えたアラストリアに飛び乗り男も乗せた。約束は果たしてやらないとな。
「その力である程度は凌げるだろう。俺に捨てられたくなければ使え。アラストリア、全力で駆けろ。」
俺は彩夢の銃をポケットから取り出した。そういえば忘れていたな。
「もちろん」
「グルヴァ!」
アラストリアは全体重を前にかけ走り出す。化け物が溶けた泥沼を数秒で蹴りあげては前にいく。
「――」
「ファイア!」
飛びかかる化け物を男が払い、俺はアラストリアに指示を出し周りを見渡した。風は道を示すように吹き荒れる。
「アラストリア左斜めだ。俺が手を向けている方向に全力で進め」
「グルア!」
町から町の間はこの化け物しかいないようだ。それにしても、ここの周りは岩が囲んであって道を制限している。なら、行く道や次の町は決められているはずだ。
「スライムがこんなに怖いとは」
「す……らいむ?果物か?」
「何言ってんだよ。こいつらのことをスライムって言うんだ。」
へぇ。あいつなら知ってるんだろうが俺はボールをモンスターに投げるゲームしか知らない。
霧が出ていたが次第に晴れて、前に町並みが見えた。小さい町だが鼻につく匂いは全く無いな。人も異常なし。ただ門のあたりに花束が数名分ほど添えられていた。
化け物に当たらずに町に着くことができたがこれは。
「本当に来れるとはな」
「……」
門をくぐった途端、鼻が焦げるような強い死への匂いを察した。俺は彼へと銃を向ける。
「お前分かってたんだな。」
「化け物に襲われてる時点で勘づいてはいた。まあ、俺はこの町で病気で死ぬまで生きればいいと思っていた。」
目を向けると、男の肩から黒い傷跡が光り体を蝕んでいるようだった。
「アラストリア。少し力を貸せ」
俺はナイフを手に取り、「死」の概念を壊す力をナイフに与え男の肩に刺した。
「何してるんだ」
「概念……死の概念を消そうと」
だが、男は呑み込まれるように消えていく。
「多分だがこの傷があるとこの町に入らせてくれないんだな。こうやって消されるらしい。死の概念はよく分からないが」
「……っ」
なら、この町に入ると消えるという概念を。俺は瞬時に切り替えて差し替えた。だが、体は蝕んでいった。
対策済みといったところだろうか。俺が破壊、付与できる概念は1つ。そして内面のみ。多少の事象の付け足しは出来るが。
外傷が難しいのが仇になるとはな。なんでこんなに必死に治そうとしてるんだろう。俺は。
「もう十分だ。ありがとうな!俺、この人生で1番生きがいを感じたんだ」
「次会ったらまた作れ。気に入った。ありがとう」
「どういたしまして!!じゃあな! お前は良い異世界ライフを過ごしてくれ! 俺は名前は由来な。」
「……俺は彩夢だ。」
「ははっじゃあな彩夢!」
男は笑顔で消えていった。こんな簡単にあっさりと死ぬのか。人間の命の価値が軽視される世界になぜお前は希望を持たせる?
「……」
狂ってる。本当に異世界という世界は。
「どこまでこんな仮想世界に希望持ってんだよ。俺は異世界ライフなんてどうでもいい。このふざけた命でもて遊ぶ世界を壊してやる」
「ぐる……」
「行くぞ。こいつの分まであのクソ神を殺す」
「だめですってば!」
ガチャ
「ウィストリアあ! 今日は酒を飲まないのか!」
「あっ……どうしましょう。天神様へ礼拝中のウィストリアさんの邪魔をしてしまった。」
「……」
「……」
「……」
「はい。だめみたいですね。今日はだめです!」
「相変わらずスプラウトはうるさいな。あいつは何をそんなに悩んでいる」
「おそらくですが……あの時、上の意思を無視して彩夢くんを助けようとしたことだと思います。」
「はぁ。そんなことで。まあ、あいつは他より信仰心が強いからな。仕方ない」




