分岐点
――天空
「色々あったけどいちよう解決でいいかしら?アタシたちは地界に帰るわ、やることが沢山あるから」
「わかった。本当にマリ達にはお世話になったな。なのに、何も出来なくてすまない」
「気にしないでください。そちらには復興もありますし、スプラウト様は重症、その他の方も大変だと聞きました。私たちの事はおかまいなく。」
「それに弥生君もずっと引きこもってるんでしょ?あの歳で大事な人が死んでショックだと思うしケアしてあげて」
「すまない。もちろん後は私の方でなんとかする。」
ウィストリアはやつれた表情をしながら頷いた。
「ごめん。ウィストリアの力になれなくって」
「いいんだ。これでも彩夢に助けられる前よりは良くなっているしな。」
ウィストリアとマリが握手したその時、彼女たちの耳に足音が入ってきた。目がやつれ身体がボロボロになったままの弥生の姿があった。
「弥生少し落ち着いたか?」
「……うん。」
弥生は胸に彩夢のノートを強く抱えながら、使い魔の顔をみた。
「おねがいします。ぼくをきたえてください」
「私ですか?」
使い魔はびっくりしながらもマリに目線を向けた。
「ピーちゃんは治療が必要だからなあ。地界に連れていけばできるけど」
「じゃあついていかせて」
「待ってくれ。弥生は天空で面倒をみないと」
ウィストリアは焦りながら弥生を止める。弥生はただ汚れたノートを抱きしめていた。
「ぼくはおにいさんをたすけたい。それがおにいさんの「ねがい」なんだ。」
「「……!」」
弥生の言葉に全員がうつむいた。
「本当に書いてるの?」
「うん。さいごのページに、おにいさんをたすけて。って」
3人がノートを見ると、血がページに染みながらも何かを書いていた。
『結局、僕は彼を救えなかった。これから書くのはただの人任せでしかない醜い希望だ。誰でもいい。もし、叶うならいつか彼を、信田 彩夢を』
『救って欲しい』
歪んだ文字を読み取りながら3人はただ何度も読んでいた
「ウィストリア、彩夢はどこにいるの?」
「私には分からない。情報網が動かないし、彩夢は異例でここに来て、神に目をつけられていた。何かされていると考える方が無難だろう。」
ウィストリアはこれ以上は無理だと限界かのように呟いた。
「おねがい、ウィストリアさん。おにいさんはどこかにいる。」
「……」
「姫、どういたしますか? 彼らに頼むのもありですが」
「そうね。ユキ達にとって良い魔力の発散相手にはなるわ。彩夢にはお世話になったし、ただウィストリアにも事情があるのでしょう?」
ウィストリアは少し考えると、紙を取りだし何かを書いていた。
「私が何とかする。ただし天界の1週間。冥界なら5ヶ月くらいだな。天界には頭を下げておく。だが、それ以上は許されない。」
「わかった」
書き終わった紙を弥生に持たせた。
「あと、帰ってきたらスプラウトに元気な顔を見せること。約束だ」
「うん」
「あとは任せたぞ。」
「えぇ」
「はい」
ウィストリアはただ消える彼女達を見守っていた。
全ての運命は枝のように別れていく。
――旅立つ少し前
「ひめさんの血は美味しくてたまりません」
「黙れ。姫から離れろ。」
使い魔は痺れを切らしたように睨みつけた。
「じゃあ貴方も甘えればいいじゃないですかあ。貴方3歳ですし肌が恋しいのでは?あっ今日はずっと私のものです」
「後でどうなるか分かってますよね。」
「まあまあピーちゃん。レフトバも大変だったんだから多目に見てあげて」
「……っ。姫がそういうなら、私はもう寝ます。何か合ったら起こしてください。流石にまだ疲れてます」
消えた彩夢の部屋でピリピリとした空気が流れていた。レフトバはマリに抱きつき口の周りを血を染めながらも 舌なめずりを繰り返し噛み付く。
「そうそう。ピーちゃん、明日くらいには帰ろうと思うの。もう彩夢も居ないし仕事もあるし。貴方も休まなきゃだめでしょ?」
「私は休まなくても大丈夫です。姫の仕事を手伝いますよ。」
「あー、また強がってますねえ。貴方の1番やる事分かってます?もう日が長くはないの分かってます?ほーら、ハカセに看病してもらわなきゃだめでしょ?私が姫さんの面倒みるので」
「……」
その時、ドアが開きウィストリアがフラフラしながら入ってきた。
「もう、天使ですっけ?今いい所なんです! 私と姫さんの仲を邪魔しないで」
「黙ってください。ウィストリア様、大丈夫ですか」
「あっ……すまない。つい。数日経っても、まだ彩夢がいると思ってしまって。」
「……」
「人間に情を持つなと言われてきたが、その意味がよく分かる。こうやって依存してしまっていたとはな事務のくせに。すまなかった。これを置いておくからゆっくりしていってくれ」
……
「これで何回目でしょうね。」
「それほどウィストリアは、彩夢の事を大切にしていたのよ。今回だって、忙しいのにフルーツを持ってきていたし。」
「よし、もう力を貸してくるわ。」
「姫がそう言うなら喜んで。」




