第5章 44話 天操
ヒロルとの戦いが終わった。
僕は弥生に会いに行き、助けるためにある事をする
「ついたわよ」
マリに引きずられながらも僕は無事にたどり着いていた。ナイフが刺さった弥生に肌を擦る獣がそこにいる。
「ありがとう。……えーと、鹿さん離れてくれませんか。」
「その様子を見る限り、あの化け物にほとんど渡したようですね。私はカクラジシです。あと、貴方に頼まれてここで看病しているんです」
カクラジシは少し怒ったようにしながら弥生から離れていく。
「貴方も可哀想な人ですね。天界の時限人形が貴方と分かった時は驚きました。どうせ死ぬなら壊れる前に使う気ですか。」
「はい。もうすぐ、いえ、僕の心臓にはもう既に刃が触れています。時間が無いんです。皆離れてください。」
苦しむ弥生を持ち上げ僕は水平に寝かせる。最後に彼の頭を撫で息を吸った。
「……」
振り返ろうにも、僕にはちぎれた記憶しか残っていない。死ぬ前の苦の感情とこの天空で仲間と居たという途切れた記憶だ。
でも、悪くなかったと思う。何も心に感じないんだから。
「アラストリア、準備できたよ」
『……』
「さようなら」
僕が大好きになった世界
「――待て!」
目をつぶろうとした時、ウィストリアが必死に僕に手を伸ばした。よく見れば、泥や血が流れ服がちぎれている。それでも歯を食いしばりながら光り輝く魔法書を開く。
「風封!!」
ダメだ。
ウィストリアがこんなに僕のためにしているのに、僕は応えられない。僕は反射的に魔法を使っていた。
「っう!!」
光り輝く魔法書は風の刃を双方に作るが、僕の声に反応し消え去った。光り輝く魔法書はウィストリアから落ち、ウィストリアは身体が動けずに固まっていた。
「……なんでなんだ彩夢。お前は死んでもいいのか!? 帰りたいんだろ、現実に!!」
「それは彩夢がやること。僕はここで死なないとダメなんです。ここで彩夢は死ぬべきじゃない」
「―――っ」
背後から何かが貫いた。
目の前に映るものが、胸の違和感に全て奪われる。痛いすら分からない。ただ無で真っ暗だった。
「「さいむ!!!!!」」
皆の目の前で、彩夢は心臓に爪が入っては崩れ落ちる。
背後にはアラストリアと呼ばれた化け物がいた。
「……」
「……っ」
アラストリアは少し口を開いては重い圧が皆を襲う。アラストリアは圧を巻きながら睨みつけ彩夢から黒ずんだ光を取り出した。
そして、弥生に向かっていく。
「待て! 何をする気だ!?」
ウィストリアは身体が動くことを確認すると魔法書を開いた。しかし、アラストリアは気にすることなく弥生に飛びついた。
「……!?」
「弥生君になにをしているのよ!」
「天の役目が絡む魂から役目を奪いましたか。」
皆が弥生に向かおうとするが圧に負け固まっていた。ウィストリアの魔法は発動できるが消えてしまう。数分後、アラストリアは弥生から出ると
「おにいさん!」
弥生はすぐ目を開けていた。が、彩夢の様子に言葉を失った。穴が空いた彩夢に必死に手を伸ばす。
しかし、アラストリアは弥生よりも速く彩夢に噛み付いては翼を動かし空へと連れていく。空の彼方まで飛び立つ姿はすぐに闇の中へと消えた。
「「……」」
「……待って!! 嫌だよっ」
暫くの時間が過ぎた時、カクラジシが弥生の元に行き体調を見ていた。
「弥生、何か違和感はありますか」
「ない。」
弥生は涙を堪えながら地面に爪を立てていた。
「あの彩夢は天界が造った機械です。おそらく、彩夢の替わりにさせられたんでしょう。代わりというのはコアが心臓を包み込み乗っ取ることを言います。」
カクラジシはマリとウィストリアにも聞こえるように言った。
「コアがつつむ?」
「…なんとなくは知っています」
「ただ、天界は本気で彩夢を殺す気だったようです。昔、神と話した事がありますが、天操という呪いに似たものをコアにつけており、ある期間を過ぎるとコアに天操の槍が刺さるそうです。彼はそこまで知らなかったようですが、あの感じを見るにそれでしょう。」
「それなら心臓ごと……。っ!」
「そこまでは天界から聞いていない。いや、知る価値が私たちにはないんだろう」
マリとウィストリアは言葉を失いながらも呟いた。
「……アラストリアぼくにいってた。がいねん、うばったって、ただのしんぞうだって」
弥生は震えた声を出しながら自分の心臓を抑える。
「ただ、ここで終わるとは思いません。そこまで彩夢を殺したかったのには理由があるはずです。天界は次の手を考えているでしょう。」
「「……」」
「今私達に出来ることはありませんが」
「神界と天空では立場が違いすぎます。彩夢はこれからどうなる。私に出来ることは無いのか」
「……考えても仕方ないわ。もう彩夢は居ないのよ」
「おにいさん」
『起きろ』
真っ暗だった世界に何かがみえてくる。
「……っ。おにいさんの。えーとアラストリア?」
アラストリアが現れると、意識がはっきりして周りは明るくなった。
『彩夢からの願いだ。お前に伝言とあるものを渡しにきた』
「おにいさんはだいじょうぶなの?かったの?」
アラストリアは静かに頷いた。
『だが、彩夢の心臓は呪いがかかって死にかけている。我は願いの通りに彩夢の心臓を抜きとり、概念を奪うことでただの心臓として持っている。』
「……っ」
何言ってるの?確かに死ぬって言ってた。何があっても助けるって僕に言ってくれた。
それが、まさか
「僕にそれをわたすってこと?」
『あぁ。それが彩夢の願いだ』
アラストリアは僕に迫ってくる。
『どちらにしよ。彩夢は死ぬのだ。お前はまだ生かせる』
「……っ」
――弥生。
僕の死獣霊が声を出した。
――約束してたんだ。彩夢に弥生を助けて欲しいって。僕は多分死ぬからって
「……」
――でも、彩夢は君の心臓が死んだ時からこうする事は決めていたらしい。
「……っ」
――彩夢は、僕の支配を弥生から消す事を条件にして僕と約束したんだ。
――弥生を助けるって。
アラストリアは僕に向かい飛びつくと、身体の中に入った。痛くないけど、気持ち悪い。
すぐに出て来ては
『約束は果たした。』
「まって。」
僕が止めようにも話を聞かずに消えていった。僕の意識がはっきりとしていく。
「おにいさん。」
『弥生。』
「……っ」
僕の頭にお兄さんの声が聞こえてきた。意識が少しづつはっきりしていく。意識が戻ったらおにいさんの声はもう
『ごめん。これをなんて言っていいか分からなくて。……僕は意識はないし記憶も無くなるが、ここで形としてはずっといるから。僕の願いはお前に笑っていきてほしい。ただそれだけだ』
『これからは、僕の仕事も気にしなくていい。お前はお前らしくやりたいことをして生きてくれ』
「これで最後なの!? 笑うから。泣かないから。また、お兄さんに会いたいよ! 顔を見せてよ!」
『……じゃあ、泣かなかったら会いに行く。行けるように頑張る』
「約束だからね!」
「……ああ」
―――――――
次回最終回になります。
1章が終わる感じなので、新しくタイトル作って2章をやるつもりです。その際に、最終回と新しいタイトルの方で1話を出す方針でいます。
またよろしくお願いします。




