第5章 43話 掴み取る決着
天空を賭けたヒロルとの長い戦いが終わった。
投げた剣はただの腕力で投げたダミーだ。これに何も細工はしていない。何故か投げ方が分かっていたし、過去に何かしていたんだろう。
この靴はウィストリアが僕の願いのために魔力を使って出来たものらしい。だから魔力を持っている。剣をダミーにして、概念を付与というか鈍器扱いにした靴で殴った。
そもそも、最初からこれを切り札として使う予定だった。だから覚えている。強い魔力を持つ相手への対策は不意をつくしかない。
「…が!ッは!? ……ッ……ッ」
沈む地面も、降り注ぐ剣、柱も皆きえていく。ただ、ヒロルがもがくように呼吸を荒らげながら転げ落ちていた。
「お前の負けだ。ヒロル。」
「……かあさん、…やだよ……しぃ…ッ! ったくッ……ない……」
「それが命の価値だ。その重さを、お前の仲間、弥生、そして人間皆持っている。」
僕は落ちた銃を拾い近づいていく。
「お前だけ苦しいと思うなよ。皆必死にそれぞれの想いを、自分の命をすり減らしている。現実は奪われたがこの場所でお前は生きているじゃないか。どうして幸せを復讐から求めるんだ」
「親は殺したんだろ。何人奪った?言え」
「……ッ……えて……ない、ぃきま…っ いる…だ」
「なら、死ぬか」
バンッ
「……ッ!」
「数えてみろ、お前が奪った幸せを。前を向いて生きるやつの邪魔をした罪を。」
僕は足元に転がった弥生の石を拾った。
「弥生は前を向いて歩こうとしていたのにそれを奪った。死の概念くらい消してやるから1度死の淵に立ってみろ。今回は奪われたんじゃない。お前が招いた死だ。」
僕は意識が揺らぎながらも銃に力を入れ足元へ撃ち込んだ。そして、弥生の石に魔力を注ぐ。
「……ふざ……るな!」
「まだ生きれるだけ感謝しろ。僕は怒ってるが譲歩してるんだ。」
僕は石を落とす。が、すぐに横に蹴り飛ばした。爆風は防ぎ切れず共に浴びることになったは死にはしないだろう。
「……なにを」
「その恐怖が命の価値だ。皆が持っている生きたいという願いだ。」
もう殺す気はない。残虐な事はしたが、こいつも人の被害者には変わらない。仕方ない。
「これからどうするかは自分で考えろ。でも、またこのような事をするなら」
「俺が許さない」
「……」
僕は弥生から貰った石を掴みウィストリアの元に向かった。その時に、後ろから声が聞こえてくる。
「ヒロル様!」
「良かった、生きてて……」
「降参だ。もうしない! ありがとう見逃してくれて!」
「……」
踏み出したはずの足元がふわりとした。意識がふらつい
「彩夢!」
「彩夢くん」
倒れる1歩手間で2人が僕を担ぐ。勢い余って浮いているような気がする。それは置いといてとりあえず
「ウィストリアさんに報告をしておきます。1人は見張りを。片方は僕を弥生の元へ連れて行ってほしいです。」
2人は顔を見合わせて目線で会話をしていた。この2人はマリと使い魔だったはずだ。
「じゃあアタシが連れてく」
「はい。彩夢くん、また何処で会いましょう」
「……はい。」
僕はマリの肩に捕まり引きづられながら連れて行ってもらった。
「こう運んだのは何度目かしらね」
「さあな。」
「アンタ変に重いのよ。ほら足動かして! 」
視界が揺らぎ、身体が動かなくなってくる。それでも僕は行かなければならない。
「ねぇ、彩夢」
「なんだ」
「この戦いが始まる前に言ったこと覚えてる?」
何か引っかかりはあるが、考えてみても全くといっていいほど記憶がない。
「覚えてない」
マリは僕の言葉を聞いて驚いていたが、すぐに納得するようにうなづいた。
「そうね。あの話は最初から無かったのよ。」
何を言っているのか分からないが、僕はただ足を動かすことに集中した。もう少しだ。
一方
「火傷もあるし、膝に銃を撃ち込んでいる。これなら動けないはずです。足掻いてもいい事ないので大人しくしてください」
使い魔は周りの子を払い気を失ったヒロルの近くに座り込んでいた。
「……これ…だから人間は」
「なにをしてるんですかレフトバ。ここに来るとは気でも狂ったか、それとも私達へのおつかいですか?」
そんな中、血だらけになったレフトバが使い魔の前に現れた。
「頭が痛いんです黙りなさい。知らないうちにこんな所に来てるなんて……おそらくコイツに使われた。不愉快だ。」
「あぁ。さっきの唸り声はあなたですか。災難でしたね。」
「私で良かったですね。貴方だったらどうなっていたか」
息を切らしながら嫌味を言う。アラストリアに噛みつかれた傷は息を吸う事に小さくなっていった。
「姫さんは」
「姫はいません。私はここで待機するように言われました」
レフトバは酷くイラつきながら舌なめずりを繰り返す。ヒロルに手を伸ばそうとすると使い魔はじっと睨みつけた。
「血ですか」
「……えぇ」
「彼はダメですよ。私のなら差し上げますが」
「貴方以外人工の血は好きではないんです。……もういい。それで我慢します」
見守る使い魔の肩にレフトバは思いっきり噛み付いた。血が飛び散る中、使い魔は表情を変えずにため息をつく。
「2分くらい待てば元をあげるのに」
(それにしても暴走したレフトバを倒すとは。暴走によって力を上手く使えなかったのか、それか……彩夢君、いやアラストリアの力が彼女を遥かに上回るのか)
使い魔は首を傾げながら、レフトバに好き勝手噛まれるも気にせず座り込んでいた。
そのまた一方
ウィストリアは彩夢から終わったと連絡を貰い、スプラウトを見に行っていた。
「ウィストリア様! スプラウトにアザが」
「魔力を使いすぎたんだ。身体の不可が大きすぎて表面に出ているんだろう。」
喜ぶ様子もなく赤い痣が全身についたスプラウトを皆が息を切らしながらに心配していた。周りには魔力を使い果たし倒れ込む姿がある。
「パナヒルを呼んできよう。私はまだやることがあるから席を外す。その間に動けるやつは人間の保護をしろ。指揮はサウドに任せる。天空、人間共に死んだやつは報告しろ。」
「「はい!」」
ウィストリアはすぐに頂上に上がっては血溜まりが目立つ場所に降り立った。
「なんなんだコイツ!?」
「逃げっ……」
ブシャ!!
その血溜まりの近くで、女は服を脱ぎ飛ばし、ブラトップスと短パン、片手に大きな斧を持ちながらフラフラしながら切りかかる。
隣でパナヒルがお酒を持って踊っていた。
「あははっ! おつまみにもならんなあ!? 酒がまだまだ不味いぞ!」
「さすおね〜! 私が一命は何とかしますから〜どんどん行きましょう〜」
「はっはっは!!」
「おい神。」
スプラウトは一瞬で2人の傍に現れた。
「もう戦いは終わりだ。パナヒル、城へ向かってくれ。お前はもう何もするな」
「あ〜あ、仕方ないですね。了解です〜」
「まだ酒がうまくなあい! ウィストリアあ! お前が居ないとつまらんぞお」
ウィストリアは冷めた目で魔法書を開いた。
「呼氷。……久しぶりに神が帰ってきたのは嬉しいがお前とはな。」
言葉に反応するように魔法書が光った途端、その女は凍りついた。
「まだ私に残された仕事がある。彩夢を失うわけにはいかないんだ。」
ウィストリアは神と呼ぶ女を見捨てて、すぐに走り出し弥生の元へ向かった。
「俺の名前はアンヒル!! パナヒルの姉だ!!」
「は〜い、お姉ちゃん。久しぶりの悪魔殺し飲んで〜飲んで〜」
「はっはっはあ!!」
「こんな感じの神が私の知り合いには複数いる。それ以外はちゃんと様付けているし敬っているが、コイツらは別だ。同期だし」
「飲〜んで、飲んで飲んで、飲んで〜」
「人間の〜おっさけはあー20さあいに、なってからあーあっひゃひゃ!」
「2人を合わせるといつもこうなるんだ。はぁ。……ちなみにだが兄弟も同期の概念は存在する。ただ、魔力が同じとか生まれ降りる場所。最近は盃とかも増えてきてグチャグチャだ。まあ、結局はそいつらの考え次第。同期は天空のルールやら何をしたいかを決める時に使う施設に同じタイミングで入ったというだけだ。はぁ、後で相手になって眠らせでもしないと街が滅ぶからなあ。」
「お願いします。ウィストリア様しか止められません」
「……はぁ。」




