第5章 41話 ただ倒すために
天空に戦争を持ちかけたクロクにより、天空は崩壊の危機を迎えていた。
僕はヒロルの居場所を聞きつけ追いかける。
「貴方、何を考えているのですか」
「簡単だよっ僕は神界に行きたい。でも神界にいく方法が分からないから天空を壊していってあの男が来るまで待つか、事務をみつけるか……神獣を使おうとしてるんだ!」
ヒロルはカクラジシに向かっていく。
「貴方のその神聖獣に聞けばいいではないですか。神聖獣は全能の神が創ったものですから。」
「違う。シャングリアは僕の想いから産まれたんだよ」
「……神聖獣が、貴方の力で創られたと?」
「うん!」
カクラジシは目を疑いながら退いた。神聖獣は神獣と違い羽が生えているという違いがあるが、創れるものではないと知っていた。
「僕の全てを救って欲しい。全てを変えて創り変える力が欲しいってね。願ったら僕の元に来たんだ。ね、シャングリア」
「キュアああああ!!」
背後から現れた竜はカクラジシを睨みつけ、ヒロルを護るように狙いをすます。
「本当に人の想いとは恐ろしいですね。時には呪い、想像を越える奇跡すらも起こす。私達には恐怖でしかありません」
カクラジシは角を振り、根が数本巻きついた太いツルを操り自分の姿を隠すように周りを囲んでいく。
「そんなんで勝てるって!?」
「キュアアア!!」
シャングリアはすぐにツルを噛み砕き、牙を向ける。必死に逃げるカクラジシの抵抗も虚しく追い詰められる。
「――」
必死に角を地面を突き刺し、大きな木の実が成る木を創り出す。次第に落ちては毒をばら撒くが、シャングリアが知っていたかのように光を放ち木を焼き消した。
「……」
(あまりにも力の差が)
「さあさあ、さっさと吐いてもらおうかあ!?」
その時、ヒロルを追いかけていた僕は弥生を見つけていた。
カクラジシが言っていたように、心臓部分が血に染った身体に僕は彼の死を察した。体温も冷たくなり掛けている。
「……弥生、僕の声が聞こえるか?もし、聞こえるなら返事してくれ」
もう脈はない。どんだけ呼びかけてもただ声が響くだけだと感じていた。
「……?」
しかし、弥生はわずかに目を開け、弱々しい腕でポケットから石を取りだし僕に地面を擦りながら渡す。確か…弥生が使っていた魔素が宿る石ころだ。名前は知らないが、仕組みは前に教えてくれていた。
近くでヒロルがいるであろう笑い声が聞こえる。カクラジシにも危害がいっている。
「――っ。」
今は僕に出来ることをする。お前も救って、ヒロルを倒し、天空を守り、全てをアイツに託す。
「弥生。この戦いが終わったら助けてやるからな。お前が目を開けたら全部終わってる。だからここで待っていてくれ。」
「…ま……てるから。」
「あぁ。」
僕は冷たい身体抱きしめた後にナイフを手に取った。
『死の概念を否定しろ』
「少し痛いが頑張ってくれ。」
用事を済まし僕は立ち上がる。ナイフは無いが何とかなるだろう。僕は石を持ちヒロルの元へと走っていく。
森に入ると、すぐに脚が血だらけになったカクラジシとヒロルがいた。僕はカクラジシの庇うために前に立ち銃を向ける。
「……よくも天空を無茶苦茶にしてくれたな」
「彩夢。その姿はどうしたのですか。 羽が」
羽?この突き抜ける感じは羽だったのか。背筋に力を入れても動く気は無いし見えないから分からない。
「何ですかね、これ。とりあえず、ヒロルをここで倒す事を優先します。カクラジシさんはウィストリアさんへの報告と、出来たら弥生の傍に居てあげてください」
「……気をつけてください」
カクラジシはフラフラしながらも後に下がった。ヒロルはため息を付きながら僕を見る。
「邪魔だから、創ったモノに時間を稼がせたのに。ダメだったか」
やはり、人すらもコイツは簡単に創り出せるようになったか。ならコイツの力が成長する前にここで終わらせる。
「ヒロル。お前の心情は知らないが、これ以上の被害があると困る。お前の仲間だって犠牲になるのは嫌だろ。此処で諦めてくれ」
「嫌だ。別に仲間なんてどうでもいい。邪魔するって言うなら容赦しないから!?」
ヒロルは吐き出すように語り手を伸ばす。
「来い! 創造」
言葉と共に鎖のような音が上から聞こえてくる。
「――っ!」
なんだこの化け物は。そんなことを考える暇もなく、次第に鎖が解け大きな獣が僕の前に勢いよく飛び降りた。
……よく見てみると、姿は荒々しいが死呪霊と違い形はしっかりと取れ長い尻尾に白い毛を生やしていた。
カクラジシさんに聞けたら良かったたんだが。
「サキャアアアアギギアアアアアア!!」
獣は頭を血が出るほどに掻きむしり、身体を左右にクネクネと動かしながら僕に襲いかかってくる。
爪が来るタイミングを合わせ飛び上がるが、狙っていたかのように身動きが限られた僕に咆哮を放つ。
「クソっ」
……まだだ。一瞬のうちに何をするのかを絞れ、今ある銃を使って目に弾丸を撃ち込み空中で舞う鎖で防ぐ。それ以外は考えるな。
「概念付与」
(動きを止めろ)
バンッ
口を近くで開けていた獣の目に銃弾が弾け飛んだ。獣はひるみ、上に口を向けて吐き出し、僕は鎖を取る前に転げ落ちる。
こいつも厄介だ。ヒロルは獣から少し横にずれて様子を見ている。様子を見ているだけとは良い身分だな。
(今なら……)
その時、不意にアイデアを思いついた。久しぶりにここまでピンと来たな。少し距離を取り、獣が爪を叩きつけた途端に腕から這い上がり頭に向かう。
獣は自分の身体に容赦なく爪を向け、僕が避ける度に血が走っていく。
『アラストリア、魔力を貸せ』
『分かった』
バンッ
銃に力を入れながら肩を蹴りあげ、魔力を込めた銃弾を頭にぶち込んだ。と見せかけて。
「やるね、彩っ……!」
バン!
ヒロルの腕に銃弾を走らせる。彼は腕を見るとすぐに自分の魔法を使い治療した。
「……へー。じゃあ、僕達で殺してあげる。おい、もっと暴れろ道具!」
獣はさらに怒り狂いながら、両足を無造作に動き始める、らその時、背後から何かが迫ってくる気配を感じ横にずれる。
「――っ」
何かを避けると槍が飛んでいたことを見抜く。ヒロルの創造だ。
「キリシャアアア!!」
避けたのもつかの間、シャングリアが長い身体を伸ばし牙を向ける。僕は銃を使い向かってくる顔の軌道を逸らさせ、後ろに下がった。
ザッー
「はあ、はあ」
相手は2体とヒロル。同時にかかってくるとなると反射しきれないところがある。これなら不意打ちしない方が良かった気が。
「――」
集中しろ。脳を限界まで回せ。
獣の尻尾を飛び、爪が来る前に走り込む、ヒロルの創造による降り注ぐ槍を獣の腕で防ぎ、シャングリアの目くらましにも対応……全部を一瞬で判断し避けきる。
右目は視界が泳いでいるが、左目は更に先が見えるように光の道がみえていく。
(『きっと役に立つよ』)
精霊界でヒロルと握手した時に、左目に感じた違和感はこれかもしれない。
「――っアラストリア!!」
爪とヒロルの柱を避けきったほんの僅かな間に、僕に攻撃する隙が出来た。すかさず、ヒロルの目を狙い打ち込む。
だが、シャングリアがそれを防ぎ、攻撃の隙は消える。
『アラストリアッ! これじゃあ負ける!』
『……我を呼べ。とは言っても、常に動く今は難しい』
その後、しばらく避ける事だけを考えて動く。だが、どんどんキレが悪くなり手足に傷が増えていく。治ってはいるがこのままでは魔力が切れるか血が出すぎて倒れてしまう。
『彩夢』
『なんだ! 案があるか!?』
アラストリアはゆっくり息を吸う。牙を避け、目が光につつまれ縛らく見えないながらも動く僕のことを考えずに。
『お前の感情が乗った記憶が欲しい。いつものでは足りぬ』
『なにを……』
「そこっ!」
ガンッ
「ぐっ!!」
足元に無かったはずの大きな岩が魚のように僕の足を噛んでいた。
「放せ!」
バンッ
『お前の負の感情はいい。アイツのドス黒いので十分だ。我はそれ以外の色が、感情が混ざった記憶がほしい。アイツには不しかないからな』
『記憶?』
『お前はもう死ぬ。記憶から感情を取り出すより記憶ごとの方が速い。使わない記憶はアイツに流す』
確かに、今力がほしい。でも、ここで天空の思い出を失ったら……倒したとしても。……いや
『……それで倒せるか』
『あぁ』
ここで勝たないと天空は不利になる。弥生も助けられず、僕の時間も終わってしまう。
『分かった。今から使う最小限の記憶以外』
「『我が身を喰い力となれ、アラストリア! 』」
「……遅かったな」
「散々、天空で遊んでいたというのに、戦争になったら帰ってくるとは自分勝手もいいとこではないか、クロク」
「別に僕の勝手じゃん? それに僕が来たのは次の提案をしに来たんだ。だって、この計画大失敗だもん」
「たしか、あの人形に眼を入れたんだってな」
「今、やっと見えてね。ヒロルと戦ってる。多分、アラストリアが何かすると思うんだけど」
「アラストリア……貴方は何か知っているようですが、いつになったら教えてくれるか。」
「知ったところで意味無いよ。まあ、今からアラストリアは何かをする。どうせ死んだら記憶も感情が無くなるから奪うかな」
「そういえば、あの人形。不は入れてなかったな」
「そう。せっかく不に染まった人間が元だから、新しく作るよりコピーみたいに引き継いだ方が自然な人間性、そして作る時間が節約出来る」
「節約など神界は気にしない」
「いやー時間が無かったんだ。許してよ。で、僕の次の提案話はね」




