第5章 32話 僅かな先
ウィストリア達は転生者をとめるため自殺しそうな転生前者を助けていた。
一方、彩夢は死呪霊と呼ばれるものに乗っ取られた弥生と話していた。
「ありがとうなマリ。」
「本当にありがとうございました。あと、、その、、」
「大丈夫、この子は洗えばいいんだから。」
マリはお湯が入った洗面器にヨダレでびちゃびちゃのヒヨコをつけた。
「……ピ」
「ありがとうねピーちゃん。」
ヒヨコは大人しく泡だらけになり目をつぶっていた。ウィストリアの魔法を使い何回も洗い流すとヒヨコは身体を震わせタオルに巻き付いた。
「あーあ」
「ダメだよ。この子はお姉さんの大事な子なんだから」
赤子は目を輝かせながらヒヨコに手を伸ばし、お母さんは困ったように他の道具で誤魔化すが興味を示す様子がない。
「別に貸すわよ」
「ピ!?」
マリは固まったヒヨコをタオルごと持ち上げ、少し背後に回しタオルを開くと目がボタンになったヒヨコがいた。
「きゃー」
「これは凄いな。良い物をもらえて良かったな」
「は、はい」
お母さんはすぐに察すると子どもにぬいぐるみを渡し礼をする。
「……姫、一瞬心臓が止まりましたよ」
「冗談よ、冗談」
使い魔は人間の姿で胸をなで下ろしながらドアから現れる。そして、マリの言葉に呆れるようにため息をつくとキッチンに向かっていった。
「貴方用にピーちゃんが一週間分のご飯を作ってもらったからしばらくは大丈夫ね。」
「調味料とかも冷蔵庫に入れているのでご自由に使ってください」
冷蔵庫には沢山のタッパーが入っており、レシピも書いてあった。
「二人とも手際が良いな」
「こんなにしていただいて、、本当にありがとうございます」
お母さんは少し泣きそうになりながらも笑みを見せるようになっていた。
「じゃあ、また来るわ」
「えっ、、いいんですか。こんなにして貰ったのに」
マリはあたり前よ?といいたそうに「もちろん」と頷いた。
「今回はあくまでリフレッシュよ。貴方の荷が軽くなるような根本的なことはしていないし。あとは……保育所の確保、両立できる仕事探し、あと他のママハハとの交流も大事よね。一人じゃやりにくいと思うし私で良ければ力になるわ」
「そんなにいいんですか」
「もちろん。」
「マリにまた来てもらおうじゃないか。私もできる限りはついていくから安心してくれ」
「あ、、ありがとうございます。本当に、、、ほんとうに助かりました。ありがとうございます。」
お母さんは涙をこらえられなくなり流しながらに頭を下げる。
「一人じゃ心細いでしょ?私達がついているんだから安心しなさい。大事な命だもん皆で支えないとね」
マリはウィストリアからもらった連絡用の石を渡し、赤ちゃんがびっくりしないように静かに帰った。
――
「ねぇ、なんで僕が止血しなきゃいけないの」
「仕方無いだろ、血を拭き取るの大変なんだし。それに僕も倒れたくない。」
「全然血止まらないのに意味ある?あーもう、ガーゼが血だらけなんだけど」
弥生の文句を聞きながら僕はヒロルからもらったマスクをつけた。ゆっくりと吸っては息を吐き身体に魔力を戻していく。
「ねぇお兄さん」
「???」
「なんかさ魔力が前と違う。ね。お兄さん」
弥生は心配しているのか僕の腕を掴む力が強くなっていく。血が止まったのを確認するとマスクを外し弥生の手を取り上げた。
「ん、どうした?」
「もうお兄さん時間ないよ。多分。」
弥生は詰まるように口を開く。
「……そのくらい僕が一番分かってる。もう魔力さえあれば眠らなくて良くなった。おなかもすかない、痛みも感じにくい。」
長く持っても後5日くらいしか僕はもたないだろう。
「弥生に言ってあげなよ。もう言っていいでしょ?ねぇ。じゃないと、弥生はきっと自分を責めるよ」
「……」
もし本当に僕が思ったように出来てしまった。
持ってあと5日。
でも1日くらい皆に使う時間があっても
「弥生は現実の世界で一日歩けるか?」
「まぁ持つんじゃない?ダメならあっちで魔力貰えば良いし」
「わかった。弥生に変わってくれ」
「はーい」
弥生は一瞬で倒れこみ、目を開けると僕を不思議そうな目でみていた。
「おにいさん?」
「弥生、明日空いてるか?」
「……うん? あいてるよ」
弥生はさらに不思議そうに首を傾げていた。
「じゃあ遊園地行かないか?」
「本当!?」
その瞬間に瞳孔が開き嬉しそうに頷いた。
「あぁ、じゃあウィストリアさんに話しをつけてくるよ」
「うん! いってらっしゃい」
僕は弥生を見送るとウィストリアの元に向かった。
「ウィストリっ」
「やぁ彩夢」
ウィストリアの部屋に入ると、彼女の姿はなくクロクが机の上で足を組んでいた。
「来てくれたのか」
「もちろん。彩夢は友達だからね」
僕はニコニコしているクロクの近くに座った。
「突然だが、ヒロル達が天空に来そうなんだ。だがいつ来るのかが分からない。アラストリアに聞けばクロクが知ってるって言っててな。」
「あーそうだね。……3日後の夜が始まるあたりだね。」
「どこまで分かるんだ?」
「うーん、どこまでだろ?」
クロクは適当にかわすように呟いた。
「まぁ時間さえ分かれば準備がしやすいよ」
「あと、ヒロルは最初から前に出て皆殺しが狙いだね。もう君を狙っては来ない。」
「目的は?」
と聞くと、クロク「それは分からないや」と首を振った。
「僕が教えれるのはこれくらいかな。」
「十分だ。ありがとうクロク。」
「力になれたのなら何よりだよ」
クロクは嬉しそうに微笑むと立ち上がりドアへ向かっていく。
「彩夢。」
「ん?」
「僕は彩夢の状態を知ってる。今、僕に着いてくれば彩夢を助けれる。だから、一緒に行かない?天空も大事だけどキミが死ぬのも嫌なんだ」
帰ろうとしたのを思いとどまるように振り向くと、僕に手を差し伸べる。
「……」
「……っ。悪いな、僕に選択肢はない。」
「……。」
「わかった。じゃあ頑張ってね」
クロクはそれだけ言うとすぐに帰っていった。
「ごめんなクロク。」
一定のリズムを刻んでいた鼓動の音がドドッとずれていく。
片目はもうほとんど見えない。痛みとともに身体が乗っ取られ、荒らげた雑音が耳にこびりつく。
少し休むか。
「……彩夢!?」
気がつくとウィストリアが帰ってきていた。
髪の毛はいつもより乱れているし、カバンが投げ捨てられている。
「大丈夫か、しっかりしろ。」
「すみません。少し眠っていただけです。」
そう答えたがおでこに手を当て心配そうにしている。
「熱はないが、魔力の波がおかしいな。」
「これが普通ですよ。そんな事より2つお願いがあるんです。」
「だが……」
「お願いします。僕に力を貸してください」
「……せっかく仲良くなれたのに。彩夢と戦わなくていい未来がみえたのに」
「もう僕は死にたくないよ」




