第5章 動く世界
めまぐるしく変わる現実世界。そして、報われなかった転生者達。
フォルナはそんな転生者の対象になった子ども達を守ろうとしたが、そんな彼女の前に現れたのはクロクだった。
――そして、もう一方の天空
「いやー凄いね。ウィストリアから現実に異変があると聞いて探索してたけど、まさか場所を戻していたとは。」
「子ども達が次々と誰か様にやられていくので避難したまでです。」
「そうかい。大変だったね。」
クロクはとぼけながら笑う。
「来ると思っていました。流石は天界の犬と言われる事はありますね。」
「僕が犬?ははっ酷い事言うね。……少し態度が大きくなってない?」
クロクはため息をつくも、ウィストリア達から離れた場所に立ち並ぶ家を満足そうにうなづいた。
ナイフに付いた血を振り落とし死体の上に座り込む。
「ルシフ・フォルナ。君は自分の立場分かってるのかな?まぁ、僕がきたのは君の想像通りだよ。」
張り詰めた空気の中、まだ死体達をみて動揺を隠しきれないフォルナはクロクを前にして魔法書を力強く抱きかかえる。
「分かっていますよ。」
「君たちはやり過ぎたんだ。死んだ人間が魔力という名の力を持って、現実で復讐を果たす。まぁ気持ちは何となく分かるよ?」
クロクは頬杖をつきながら淡々と続ける。
「でも、それじゃあ魔力を持たない人間は手が出せずに死んでいってしまう。放っておけば、現実の世界に大きな影響を与えてしまうだろう。」
「あんな人間を置いといても現実は良くなるとは思えませんが。」
「いいかい?もし、殺すべき人間がいたら道筋を立ててバレないように時間を掛けて消すのが天界のやり方だ。僕らはたった1人にそこまで慎重にしなきゃいけない。」
「なんでですか?それでは不幸な転生者が増え続けるだけです。」
フォルナは納得出来ずに下を向き、言い聞かせるように首を振った。
「そうかもしれないけど、変に殺せば現実世界の人間は迷い狂う。何故死んだのか分からない。それだけで人間は大騒ぎなんだ。今の世の中、情報もあっという間に広がるし、不安や恐れといった悪い流れは民衆を取り巻くだろう。」
クロクは話しながら、死体に手をかざすと光に包まれていく。
「普通に生きてれば抱かないであろう思想は他の世界に影響する。」
「それはどういう事ですか。」
光は膨張し、パッと音がすると死体の姿は無くなっていた。
「じゃあ最期の勉強をしようか。この世界、いや全ての世界は現実世界が中心となって出来たと言われているんだ。あくまで今の段階での仮説だけどね。」
クロクはどこからか魔法書を取り出しペラペラとめくり何かを確認する。
「生き物の多々ある意思が反映され変化する世界。生き物に死があると知って尚、先を望んだもの。許しを願うもの。そんな願いや想いから創り出されて今の世界達がある。現実を歪ませるという事は全てを歪み壊す可能性に繋がる。」
「そんな事、ある訳が」
「例えば、この天空も転生を望む想いから出来たんだ。もし、僕ら神を恨み存在を否定されれば天界は消えてしまうかもしれない。そうなれば、共存しあう世界のバランスは壊れていくだろう。」
「……それはそうですが。」
クロクは1枚1枚のページがくっつくのを確認してパタッと書を閉じた。
「だから、僕らは現実の人間には基本的に手は出さない。支配もしない。今のバランスが最適だからね。」
「だからって、このままでいいんですか!? 転生を望むのだってあの世界が最低だからです。子ども達だってあんな目に合って、否定されて……そんなのほっとける訳ないじゃないですか!!!」
フォルナは泣き叫ぶようにクロクに訴える。
「確かに人間も変わってきた。君の言う通りそれぞれが欲のために動き傷つき、幸せの下には何人もの人が屍になっているのが当たり前だ。このままいけば何もなくても争って全滅するかもね。」
クロクは魔法書をしまうと、フォルナの元へ歩いていく。
「……っじ、じゃあ、許してください! ウィストリアだって現実に影響を与えているじゃないですか!? あれはどうなんですか!」
「無理。やり方はどうであれウィストリア達は現実の助けになっている。だから許してる。」
クロクはそれだけ言うと、フォルナに手をかざす。
「あの世界のままではダメだ。だからこそ、僕らに許されているのは誰も殺さずにいい方向に導く事しか許されない。」
「待って! 私は! あの子達を救わなきゃ……!!」
「君は女神だ。だから、この世界のルールに従ってもらう。情は関係ない。」
クロクが手を下ろすと、フォルナはゴホッと血を吐き出した。手足は僅かにしか動かせずに倒れ込んだ。
「じゃあ勉強は終わりにしよう。そうそう。元の君は優しい人間でね、その生を評価して女神にしてあげたんだ。でも、優しい故に歪んでしまった。」
「……っ」
「盲点だったな。まぁ、もうどうにもならないし、君のデータは次に活かせばいいか。」
クロクはパチッと音を鳴らすとフォルナの姿は消えていた。
「……大丈夫。実はある願いを聞いてね、今回ばかりは生かしてあげたんだ。優しいでしょ」
クロクは響かせるように声を出す。
―――ま……
「僕は天界の意思だ。もし、彼女と話をしたいなら神聖獣の彼と一緒に神界においでよ。」
――ゆる……い……
「まぁ、君には無理だろうけどね。」
―お……え……けは……
「僕は命令されてないし彼女の事があるから今回は帰るけど、君にとっての最期の分岐はもうすぐだ。ふふっ、楽しみにしてるよ。」
クロクはペラペラと喋ると指の鳴らす音と共に消えていった。
「お……母さん、こんなナイフさえ無ければ。無ければ! ああああああああぁぁぁ!!!」
雄叫びのような声がある物陰から響く。
「僕は約束した。あの世界もこの世界も壊すって。創り治してみせるって!! 喰いつくせ、シャン……グリアアアア!」
「僕の想い通りに動く世界に……創造する。」
『――――!!』
「また後書きか。僕主人公なのに。それはさておき、準備して数分寝るか。」
『そうだな。』
『――彩夢くん!』
その声と共に足元に銃が刺さった。
「使い魔さんだ。多分力を借りたいらしい。」
僕は銃に手を当てた。
「概念変化」
「撃つ」物から「切る」物へ
その途端に銃は黒く塗りつぶされた。
銃はすぐに陰へと戻っていく。
そして、僕は反射的に血を吐いた




