過去を踏み、歩む先へ
僕は転生前者である真下と出会った。
彼の再就職を手伝うためにある仕事場で一緒に働いているが……次は家が問題だ。
――数時間後
「なんとか、キッチンは奪還しましたね」
「ですね。」
僕達は鼻に洗濯バサミを挟み出てきた台所を見て頷きあった。積み重なった生ゴミや資材達を袋でキツく縛る。
「あの彩夢くん。それでこの袋はどうするんですか?」
「あぁ、専用の場所に持っていかないとダメなんですよね」
「なるほど。やはり現実世界で生きる人間は窮屈そうです。」
使い魔は袋を持ち上げたがすぐに落とすようにおろし手を振りながら何かを考えていた。
「…あの彩夢くん。」
「なんでしょう。」
「1つ提案が」
――夜――
「今日もありがとうございました、彩夢君もありがとうね。」
「いえ。こちらこそありがとうございました。」
僕と真下は、あまりもののパンをもらいパン屋を出た。
「あそこにはよくして貰ってるが、なんか面倒ばかり見られている気がすんな。」
「まぁ、数日だけで働く人なんて中々いませんから。」
「だが、仕事見つかるまでいてくれてもいい。とか……」
真下は奈美の母の言葉に困っているようだ。
「あの人達を見ているとやはり力面が少ない気がしますし、暫くいてもいいかと。他のパートさんも助かってそうですし数日のびるだけで文句は言いません」
「甘えみたいでな」
「いいんじゃないですか。ある程度は甘えてもバチは当たりませんよ。僕も流石に残り数日で金銭面、その他を完全には戻せませんし。僕はあくまできっっかけというものなので利用できるものは使ってください」
真下はそうか。とだけ言って空を見上げている。
「お前もませてんな。」
「昔は尖ってましたけど、川に流された石みたいに今は丸くなってます」
「よく言うな。ガキのくせに」
僕らはハハッと笑い飛ばすように帰っていった。
「お帰りなさい」
「大丈夫でしたか」
「はい。」
真下は部屋を軽く見ると目を見開いていた。
部屋のペットボトル、その他のゴミが前よりは確実に減っている。
マリの世話をしている事もあり、使い魔さんにちゃんと教えたら凄い勢いで片付けていき、僕も安心して家を出ることが出来た。要領がいいとはこのことだ。
「ゴミはどうした?」
「えっと……焼きました。私の持ち場に持っていきましたので人間の法に触れることはありません」
使い魔の提案曰く、影の空間を作ってそこで焼いたらしい。
まぁ、あそこならなんでもできるのは前の時に知ったから驚きはしないけど、真下は理解できないようだった。
「お前人間じゃないのか?」
「えーっと、使い魔さんは死んだ世界で元々居る方です。」
「そうです。名前はありませんのでお好きに呼んでください。」
使い魔は微笑みながら真下を部屋に通していた。
「そうかわざわざ悪いな。これはお礼だ。」
真下はパンを渡すとクルクルと回転させたり匂いを嗅いでいた。
「そんなに珍しいか?ただのパンだ。」
「いえ、ただのパンではないような気がして」
おそらく、クリームが入っているからか。
「使い魔さん、割ってみてください」
「……っこれは」
使い魔は目を丸くさせながら、1口かじる。
「美味しい。初めて……食べました。」
「そうかい、なら他のも食え。明日も来たらやるから」
美味しそうに頬張る使い魔を僕と真下は嬉しそうに見守った。
「ではまた来ます。」
「ありがとうございました。」
「あぁ、ありがとうな」
その後、僕と使い魔は真下の家を出た。
「あの人、目つきは怖いですけどなんというか優しい人ですね。」
「そうですね。面倒見が良いという感じです。」
「面倒見ですか、確かに姫みたいですね」
満足そうに笑っている。
「あの、もし話せるならでいいですけどマリと使い魔さんってどういう関係なんですか?」
「そういえば言ってなかったかもしれません。姫には言うなと言われていますが、彩夢君なら喋ってもいいですかね。」
使い魔は少しうつむいていた。
「私は殺処分される予定の存在で、そんな私を拾ってくれたのが姫だったんです」
「えっ……さ、殺処分ですか?」
こんな人が殺処分とか。なんで
僕は動揺しているが使い魔はただ淡々としゃべっていく。
「冥界の使い魔は表向きには癒やしや生活を助けるために生まれます。しかし、裏では戦争や抗争が起きた際、起こす際に人間の代わりに血を流す道具として生まれている存在がいます。」
「それが使い魔さんのような存在ですか?」
そういうと、使い魔はコクッと頷いた。
「私はその計画の一号目です。情報によれば生まれたばかりの私に毒や他の獣の血を無理矢理に遺伝子に混ぜていたようです。おかげで最初は目も開けれませんし、身体も動きませんでした。」
「そして、数日経ってやっと目を開くと険しい顔をした人間達に失敗作だと言われました。実験程度に血を採られ、骨を折られた後は縄で縛られて暴走してもいいように廃棄場に連れていかれたような気がします。」
「そんなっ」
「……凶暴な血を混ぜて化け物のような獣を造りたかったようですが、複雑な血が混ざる前に中途半端なヒヨコとして形成がなっていました。そして、獣化、他の方のように獣として姿も変えられません。」
だから殺処分か。
「ですが、たまたま運良く縄が抜けて雨の中をさまよっている時に姫と会いました。私にとって姫は生きる理由をくれた人なんです。」
「……使い魔さんにとってマリは大切な人なんですね。」
「はい。姫のためなら私はどんなことでもします。」
使い魔の言葉に揺るぎない決意があると僕はすぐに感じ取った。
「しかし、最初に食べたご飯のせいで私はおなかを壊しましたけどね。」
「それは」
せっかく良い雰囲気だったのに、あの料理のせいでぶち壊しじゃないか。
――天空――
「ピーちゃん!! 上手く出来た?」
「ピィ!ピ!」
『はい。とても良い経験になりました。いい人間は沢山いるんですね。』
使い魔はヒヨコの姿になりマリの胸元に入っていく。
「ならよかったわ。アタシは明日もいないから好きにしなさい。」
『はい。姫』
マリに撫でられたヒヨコは気持ち良さそうに眠りにつこうとする。
「あ、そうだ彩夢知らない?」
「ピィ」
『……彼は、少し用事があると言って…スプラウト様のところに行きましたよ』
「彩夢君、本当に弥生君を助けれるんですか!?」
「はい。なので、少しだけこの部屋から出てほしいんです。弥生を苦しめている存在は、僕だけじゃないと顔を出さないので」
細かく言いたいが、話しをすると結構長くなってしまう。それに、意識がある弥生にはまだ聞かせたくない。
「……分かりました。彩夢君頼みました。」
「はい。」
スプラウトは潔く礼をして、すぐに出て行ってくれた。
「……」
静まりきった空間で、弥生の苦しそうな息だけが耳に響く。
「おい、出てこいよ死呪霊。話しをしようじゃないか。」
その瞬間、弥生の息が静かになっていき、口元に笑みが浮かんでくる。
「良いよ、なにして遊ぶ?おにいさん?」
――ウィストリアの問題
「マリ、助けてくれ」
「……っ」
マリはただ息をのむ。
そこには無造作に荒れ果てた部屋と目元が完全に息がない女性、そして、ウィストリアの手の元で泣きわめく赤ん坊がいた。
「大体話しは聞いてたけど、ここまで酷いとはねぇ。」
「この子が何故泣いているのか分からないんだ。と思ったら眠る。その繰り返しなんだ。私にはなにが辛いのかわからない。近所から文句も言われてしまって、私もずっとここに住んでいるが限界が近い」
「なるほど。でも、その子は辛いとか悲しいんじゃなくて泣いてなにかを伝えているのよ。」
「それはどこをみるんだ?彩夢からは聞いてない。」
「そりゃ、そうでしょ。赤ん坊なのよ?あ、天使って赤ちゃんの概念が……んっ。まぁいいわ。アタシが来たんだから助けてあげるわ。」
マリは泣きわめく赤ちゃんをウィストリアから受け取った。
「だから、アンタも抱え込まない。アンタが産んだ大切な命なんだからしっかりと向き合えるようになるまで助けてあげる」
「っあ……りがとう、ございます。」




