第5章 19話 失う情
仕事がなくなった真下を助ける事にした。
そんな中、敵に襲われる。
数日前
「弥生まだいけるか」
「……っ」
弥生は相変わらずの様子だが弱々しくも握り返した手には温かみがある。
あとなんにち持つのか?
アラストリアに聞いても分からないらしいし、1つ分かるとするなら生命線は奴が握っている事くらいだろう。
今は刺激せずに地道に居場所を突き止めるしか無いのだろうか。
そんな事を考えていると、ずっと弥生の看病をしているスプラウトは水を僕の手元に置いてくれた。
「まだ意識はあります。大丈夫ですよ」
「そうですかっ、……よかった」
「あの彩夢君。実は使ってほしいものが」
スプラウトは、僕が来るのを待っていたかのように壁に掛けていた盾を渡してくれた。
「これは」
前に牙倍蘭と戦った時に貸してくれた大きな盾だった。
「少しでも彩夢君の役に立てるなら使ってほしいんです。今は弥生君の傍にいるのが私の役目ですから。あっ、もし敵が来ても大丈夫ですから気にしないでください! それとも、こんなに大きいと使いにくいですかね?」
「いえ、ありがたく使わせて頂きます。」
「はい!!」
――カンッッッッッッッ
小指に巻き付いた糸は、地面から釣り上げるように盾が姿を現わした。
盾は不意に打たれた槍をはじき、槍を粉々にしてしまった。
「こんな能力が……」
バラバラにするのは聞いていないんだが。僕はなにもしてないし。
「で、誰だ。こんな物騒な事しやがって」
んっ
――っ!!
背後の気配を察しすぐに盾を後ろにまわし向かいうつ。
重い拳と盾がギシギシと音を立てながらも、後ろに下がり姿勢を立て直す。
『アラストリア、真下を護れ』
『分かった』
それにしてもこの威力はやばいな。盾でも持っていかれそうだったし。
「ふふふ。やるなぁ流石は大将を追い詰めた事はある。」
もやついた影がはっきりとしていく。
――?
僕の目の前には大きな足。首をあげなくても分かる。
「さぁ戦いましょう」
「おい、なんだあいつは」
ため息をつきながら恐る恐る首をあげた。
「デカ過ぎんだろ…」
電柱のところまで頭がある人間は僕を睨みつけるように立っていた。
「あんたが、ワタシのヒロル様を苦しめたのね」
「いや、絶対お前のモンじゃないだろ。ていうかヒロル潰れるだろ。それじゃ」
あの威力で女か。普通男だろ、この威力。
「あと、カップルの定型文みたいなの腹立つからやめろ。」
「えぇ……」
とりあえず僕のペースに乗せる事に成功した。
「おい、なんだ?そいつ。」
真下は背後にいる化け物に気づく様子もなくめんどくさそうに女を見ていた。
「あれですよ。僕がお子様ランチだとしたら、これはおまけです」
「あーなるほどな」
真下は納得したように後ずさりする。
「なんだと!!!」
「うるさいっ近所迷惑だ。そんなにでかけりゃガラスくらい割れるぞ、弁償するか?あ?あと、周りの事を考えられない人間は男視点じゃ好印象なんてはるか彼方だな。」
「うっ……」
「おい、あんま言い過ぎんなよ」
とりあえずこんな所でドンパチ殺りあうのは出来ない。
女はメンタルが弱いのか泣きそうになっている。
「ごめん言い過ぎた。悪いっ。えーと、あとで対応してあげるから少し待ってくれないか?彼は人間で大事な人だから……分かるよね」
「うんっ」
あげて落とす、これが交渉テクニックだ。
「じゃあ、また後で」
僕は、真下を家まで連れて行った。
「お前もひどい奴だな」
「あーでもしないと、引いてくれないんですよ。」
「じゃ、ちゃんと対応してやれよ?助かったわありがとうな」
「分かってます。では、また明日。」
本当は帰りたいんだけどな。
「お待たせ。じゃあついてきてくれ」
僕はドシドシという音を聞きながら森にある運動場に連れてきた。
たまたまあっただけだが。
「シーレスっと。で、話しを聞こうか」
僕がそう言うと、女は座りこんだ。
「ヒロル様の魔力がおかしいんです。おそらく、貴方のせいだと聞いてっ。本当は潰そうとしたんっですが、もし話し会えるならっ! 解いてください、お願いしますっ!!」
「……無理」
「なんで!!!???」
「だってあれ僕じゃないし、うーんなんて言えばいいんだろう」
「あいつにはまだ会わせられない。」
「??」
言っている僕も意味が分からないがな。
「とりあえず弥生を助けてくれ。話しはそれからだ」
「……」
「頼む」
女は何も言わなくなったが、プルプルと震え始め
「なら交渉はなしよ。ワタシは殺すように言われたの。また後で考えればいい。」
「弥生君は一生見せしめとして苦しめば良いわ。ワタシ達を裏切ったらどうなるかのね」
女は立ち上がり、ポケットから槍を取り出した。
「そう。僕も話し合えると思ったのに……残念だよ」
――バンっ!!!!
「どんな手を使ってでもお前の口から吐き出させてやるよ。駄目なら人質として使えば良い。」
女の背後から赤い目が光る。
「足がっ」
「でかい方が膝の負担は大きいだろうしな」
『彩夢君、周辺の仲間は姫が対処済みです。これでよかったですか?」
『あと二発くらい打ち込んでください』
――バンっ、バッ
「ひどいっ、ワタシは一人なのに! 人の心とかないの!?」
「弥生をあんなんにしたのに、平気な顔をしている時点でお前もないだろ。」
僕は動けなくなった彼女にナイフを向ける。
「それに、仇に人の心なんて邪魔だろ。」
もう人でもないんだけどな。
『アラストリア、死呪霊のみを排除』
『……わかった』
僕はただ無意識にナイフを振り上げ差しこんだ。




