第5章15話 大切なこと
転生前者である真下を止め、1週間の猶予をもらった。
悩みはAIによる失業だった。
僕は、パン屋のコネを使い、接客業でコミュニケーションスキルを磨かせることにした。
「仕方ねぇな……」
「ありがとうございます。ちなみに真下さんが行っている間、僕は片付けをしていますね。」
そう言うと、は?と言いたそうな顔を向けてきた。
「何する気だ?そんなのいいからお前も来い」
「少しは行きますけど。僕、働けないんですよ。」
「死んでるんで。税金やら、あーやらこーたら言われるとめんどくさいんです。ボランティアで数日は付き添いますから安心してください。」
そう言っても、真下は不満そうに眉をひそめていた。
「それにこんな家じゃ病む一方では?足場ほとんどないですし。あぁ、今認めてくれないともうやりませんよ。」
「……分かった」
真下は、仕方なさそうにため息を吐きながらタバコに手を伸ばす。が、すぐに僕を見ながら手を止めた。
「タバコ癖はあとでなんとかしてください。僕自身もあまり時間がないので」
「流石にこれは自分の問題だ」
「とりあえず、明日までに準備をします! 着いてきてください!!」
僕は適当に会話を投げ、真下を引き連れユニトラに向かった。
「流石にボロボロなのは清潔感が無さすぎるので、ちゃんとしたやつを買いますよ。」
「なんでこんな所に。はぁ。もう好きに選んでくれ。」
めんどくさそうに服を見ては回っているが、選ぶ気はなさそうだな。
そして僕もコーデセンスない。
とりあえず。白のシャツと黒のズボンをカゴにいれればいいか。
『いや、適当すぎでしょ!?男子高校生か!?』
「……っへ?」
急に小指だけがなにかに引っ張られる。あぁ、マリの能力か。で、声が耳に響いていると。
「いや、僕高校せ……」
『いい彩夢!? 今から全体を歩き回って!! もうアタシが選ぶから』
「は、はぁ。え、ずっと見てたの?」
『別にずっとじゃないわ。暇だから見てたの! 速く!』
糸が強くブンブンと引っ張っている。痛い。
ま、まぁ、マリに頼めばなんとかなる。あの珍しそうな服装を着こなしているし。
「分かった! 歩く」
――数分後
僕は、グレーのハリがあるシャツと、はきやすい黒ズボンを真下に着せていた。
「どうだ?」
『「おー」』
確かに、40歳にふさわしい格好にはなったな。
「じゃあ買うか。」
これ以外にも2日分考えてくれたし、ローテすればなんとかなるらしい。
「なんかガキに払わせるのは悪いな。で、それはどこの金だ?」
「天空ですよ。」
「さっき、税金がなんとか言ってたが。これはどうなんだ?大金はなんかあったじゃないか?」
「……? うーん、ノーコメで」
「なんだよ」
その後、僕は温泉に連れていった。
「流石に俺だって入っているんだが。」
「まぁまぁ、ストレスフリーに近い状態でいくのがいいんです。温泉は鬱にいいっていいますしね。」
幸い、田舎の方だからか人は少なく僕は溶けるように湯槽につかっていた。久しぶりだな。
「天空にはないのか?」
「んー、だいたいは魔法らしいんですけど人間の僕のためにシャワーはありますよ。」
「ふーん」
真下はそんな感じなのか。と軽い関心を示していた。
「あの転生とか興味あります?」
「ないな。死んだのにわざわざ生き返るなんてめんどくさいだろ。」
「ま、そーですよね」
しかし、天空としては転生候補だったわけだ。
多分、仕事と家族に対して執着があったし、転生したら農家系やら工業系でチーターかもしれない。よくあるやつだ。
「それにしても、お前……スポーツしてたのか?」
「えぇ、してましたよ。バリバリに。」
僕はドヤ顔をしながら腕を曲げる。
「ま、俺がお前くらいの時はもっと筋肉あったけどな。」
「マジですか?ちなみになにしてました?」
「ハンドボールな」
「あぁ! 僕、陸上の跳躍ですけどあれには適わないです。」
「ハハッなんか懐かしいな。」
真下は少し笑うようにはなっていた。それに会話の感覚を取り戻したようだし。これなら、なんとかなりそうだ。
「また聞かせてください。僕はもう出ますけど。どうします?」
「ん、サウナは行かないのか。」
サウナか。頭がぼーっとするのが嫌いだが、健康にいいしな。眠りとかにも。
「……じゃあ入ります。」
僕は、ビート板片手に徹夜明けの睡魔と、もうろうしかけた意識を保ちながらサウナでテレビを眺めていた。
良い子のみんなは倒れる恐れがあるからやめよう。
「なぁ。俺接客出来ないんだが。」
「大丈夫です。会話は出来ていますし、後は笑顔です。」
「それが1番苦手だ」
「……じゃあ、周りに常に笑顔の人いませんでしたか?」
真下はサウナの中でも顔色を変えていない。暑くないのだろうか。
「ん、まぁ……娘は可愛かったな。」
「じゃあ、娘さんの笑顔を思い出すか真似してみて下さい。」
「こうか?」
………………。頑張ってしているようだが気味が悪い。
「ん……もう少し目元を笑わすというか」
「は、よく分からねぇな。……お前出来んのか」
僕はドヤっとしながら、周りに人がいないのを確認して目をつぶった。
「……いつもありがとうございます! またのおこしをお待ちしています!」
僕は、美少女並のオーラを出し笑顔を見せる。これが人間観察を極めた者の笑顔だ。頬は自然に火照っている。
「……あ、あぁ……ん、なんか別人だな。」
「まぁプライド投げてますからね」
真下は何故か引き気味だ。多分、やりすぎたな。
「とりあえず、感謝の気持ちを表情や言葉で伝わらせるところから初めましょう。最初はそれだけで大丈夫です。」
「分かった。感謝だな……」
「人によって感じ方が違いますから、これは自分で考えてください。」
難しい課題だがやる気はありそうだ。
「おい顔が赤いぞ。もうでた方がいいんじゃないか」
「あ、……ですね。」
僕は死にかけた魚のような目でシャワーをし、冷水に入ると元気を取り戻した。
――数分後
「久しぶりに温泉行ったな」
「僕もです。」
もう空は暗くなっている。速いもんだな。
「ま、明日なんとかなりそうし、少し前が見えた気がする。ありがとうな」
「……はい。」
僕は真下を送り届け、天空に帰った。
ちなみに、僕が出てから1時間後に真下は出てきた。ずっとサウナらしいが……よくあんな空間で1時間もいれるもんだよな。あと、お風呂あがりのフルーツ牛乳が1番美味しい。




