第一章 4
境山町を囲む四つの山。その一つである南側の山の舗装された道から大分外れた場所に一人の男が立っていた。すでに日は落ち、街灯もない暗闇の中でその男、リョウの双眸だけは異様にギラギラと輝いていた。
そして、そんな彼の足元には喰らうモノの残骸である黒い粒子が風に乗って消えていく。
「ここはハズレか」
心底つまらなそうに男が吐き捨てると着ているパーカーのポケットから無機質な電子音が周囲に音を響かせる。
「なんだ?」
「定時連絡の時間はとうに過ぎておるぞ。というか忘れてたじゃろ?」
「ああ、もうそんな時間か」
連絡が遅れた事に対して悪びれもせずにリョウは言った。
「お主、一応リーダーじゃろうが。茶々も心配しておったぞ」
「あいつに心配されるほど落ちぶれてねぇよ。こっちは特に何もなしだ。切るぞ」
「こっちの報告もちゃんと聞いていけ」
だが、この手のすっぽかしは慣れているのか電話の向こうにいるティアーネの方も別に怒っている様子もなく早速報告を始めた。
「こちらは商店街と住宅街を回って帰宅。成果と言えば茶々が夕飯にハンバーグを買ったくらいじゃ」
「そんなどうでもいい報告はいらねぇよ」
「冗談じゃよ。改めて聞くが、そちらの首尾はどうじゃ?」
「北、東と回って今は南の山にいる。まぁ、雑魚を何匹か潰したが巣は見つかってない。これから西へ回ってみるつもりだ」
「了解じゃ。こちらも茶々の家族が寝静まった頃に捜索をするつもりじゃが、合流した方が良いか?」
「要らねぇよ。そっちはそっちで動け。ただしあのバカの手綱はちゃんと握っておけよ」
「分かっておる。そちらも無理はせんようにな」
話が終わろうとした時、再びリョウのヤオヨロズから電子音が響く。それは先ほどと音色が違う、緊急事態を告げる物だ。
「『向こう』で何かあったみたいじゃな」
即座にティアーネも事態を把握しリョウの言葉を待つ。
「みたいだな。俺を呼び出すなんて余程の事があっただろ。つーわけで、ちょっと行ってくる」
「西側の山の捜索はどうする?」
「そんなに向こうで時間を潰すつもりはねぇよ。お前らは自分たちのやる事をやってりゃいい。何かあればチーフの奴に相談しろ」
「ん、了解じゃ。茶々が気づいて騒ぎ始めたので通信を終わるぞ。我の故郷の事、頼んだぞ」
ティアーネからの通信が切れたヤオヨロズをポケットに放り込みリョウは歩き出す。数分もせずに眼下には夜の闇を振り払うような明かりを灯す堺山町が見下ろせる崖に出る。
「ハン、俺は誰かを守るために戦ってんじゃねぇ。俺は俺であるためにアイツらを殺す。それだけだ」
まるで自分に言い聞かせるように呟くとリョウの姿が一瞬で消した。
しかし、彼の離脱が茶々の活動に大きな影響を与える事になる事になるのだが、それはもう少し後の話である。