喪失
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深雪積もる冬のある日。
「剣製!!絡太刀!!」
フレンはハンマーを地面にたたきつけると、地面から幾つもの刀身をむき出した太刀が現れた。
「ナイス!!拘束!!このまま数減らすよ!!」
そう言うと。マリーは黒ローブの者たちを切り裂いてゆく。
「こいつら、今までのとは全然違うな、それに見たことも無い獣を連れてる。どちらかと言うと獣のほうが厄介だな。」
似たような黒ローブの違法魔術師だが、体躯が良い猛獣のような獣と連携を取っている。
「あれが噂に聞く、魔獣だね…こんな田舎でお目にかかるとはね…」
つい先ほど本部からの通達があった。ラベン村にて魔術師達の暴動が起きているらしい。
「魔獣って何なの?聞いたことないな。」
「そういえば言ってなかったっけ?魔獣はね、くたばるまで魔素をむさぼり続ける暴食の化身だよ。」
マリーはバツの悪そうな表情でそう言った。
「だったら、その魔素ってのはどこにあるんだよ。食われちゃダメなものならそれを持って逃げればいいだろ?」
「魔素はね、人間の体内にしか存在しないんだ。つまり…」
マリーが言葉を濁す。
「対人特化の生物兵器ってことか!?」
フレンは驚きの表情を見せる。
「その通り、それに、魔獣使役は五大禁術のうちの一つ、敵に回したくない連中だね!!」
「ったく、本部はそんな連中を俺達に擦り付けたのかよ!!」
「いいや、お願いされたのは、時間稼ぎと村人の避難誘導。それにもう少ししたら地方の魔術師達が応戦に来るはずだしね!!」
「本部からの助っ人は!?」
「一人、最強の魔術師をよこしてくれるらしいよ、それまでの辛抱だね!!」
「了解!!」
フレンによる太刀の投擲で敵を散らし、マリーが近寄ってきた魔獣を退ける。
「狼型の魔獣には気を付けて!!動きがかなり速い!!」
マリーはフレンに警告をする。
「おい!!よそ見すんな!!!」
「剣製!!煉解槍!!」
フレンが小石をハンマーで打ち飛ばすと、稲妻、発光と共に槍へと形を変える。
「ギャォォォォン!!!!」
フレンの一撃は見事に魔獣を貫く。
「フレン!!ナイス!!流石愛弟子!!」
そう言うと、マリーは太刀を持ち変え、構えを取る。すると彼女の綺麗な金髪が揺れる。
「そろそろ本気で行くぞ!!!!!魔獣ども!!!三枚おろしにしてやる!!」
黒ローブの者たちが魔術を放つ。しかし、とマリーはすべて太刀でいなした。
「どういう原理なんだよ…あれ…」
フレンによる投擲、マリーによるカウンターの二段構えで防戦一方だった戦況はあっという間にフレン一行優勢に傾く。
「ずいぶん魔獣の減りがはやいと思ったら、ローレンスの娘がいたのですか。」
フレンとマリーは声のしたほうへ目を向ける。
「フレン!!!!!よけろぉぉぉ!!!!!!!!」
マリーが叫ぶと声の発生源であろう白髪の男の後方に巨大な魔方陣が現れる。
「獄門、黒獣爪。」
中年くらいであろうその白髪の男はそう唱えると魔方陣から巨大な獣の腕が現れる。
マリーはその一撃を正面から食らってしまった。
「痛ってぇなぁ~~~受け身取ってなかったら四回は死んでたぞ~~中年男!!!」
三年近く生活を共にするフレンにはマリーが激怒していることが手に取るように分かった。
「ほぅ、今のを防ぎますか…流石はローレンスの娘ですね…」
白髪の男はマリーのことを知っているかのように言う。知り合いなのだろうか。
「さっきからぁ~~知ったような口ききやがってぇ、誰だよ!?オッサン!!」
どうやらマリーも知らないらしい、
「すみません、挨拶が遅れました。なにせ今の一撃で終わらせる予定だったので、」
「私は禁術教団、副団長、魔獣教典のルーカス・ボーヴェールと申します。」
その名を聞いたマリーは顔面蒼白である。
「フレン…私が二十秒稼ぐ…その間に逃げるんだ!!」
マリーが震えた声でそう言う。
「何言ってんだよ!!マリー!!今まで一緒に戦ってきたじゃないか!!」
「フレン!!!!!!!!!!逃げろって言ってるんだ!!!!!!!!」
フレンは聞いたことのないような怒号を飛ばされる。
「大丈夫だよ!!こいつをぶっ倒してすぐ追いつくから!!」
マリーは涙目である。
「素晴らしい師弟愛ですね、惚れ惚れします。」
フレンは力いっぱい走る。
「準備はできましたか?ローレンスのお嬢さん。」
まるでダンスに誘うかのように紳士な振る舞いでマリーに話しかける。
「最後くらいかっこいいとこ見せたかったな…フレン…」
マリーは太刀を握りしめ、ルーカスに切りかかる。
「素直な動きですね。では多角的にいきましょう」
ルーカスがそう言うと、マリーを覆うように数多の魔方陣が展開される。
そして、展開された魔方陣からは魔獣の腕らしきものが現れる。
「一本残さず!!切り落とす!!」
マリーは腕の攻撃をかいくぐり、得意のカウンターで切り落とす。しかし数が多すぎたためか、いちげきもらってしまう。
「すべて切り落としてもらっても構いませんよローレンスのお嬢さん。」
「あいにく、欲張らない性分なんでね!!」
マリーは体制を立て直しルーカスへと走る。迫りくる魔獣の攻撃を紙一重で回避し去り際に切り伏せる。流れるようなその動きは芸術品のようだ。
「やっと面白くなってきましたね。そろそろ本気で行きますよ。」
マリーは無事だろうか。本当に逃げてよかったのだろうか。たった一人の心許せる家族。一番失いたくないもの。
フレンは足を止めた。失うことが怖かった。自分の力でどうにかなるのなら、迷う必要なんて初めからなかった。
フレンは過ぎ去った景色に進路を変更する。
ここら辺は冬になったらよく雪が積もる。マリーとよく見に来たものだ。死なないでいてくれ。マリー。
フレンは全力で走る。
逃げ出した地点へと戻る。するとそこには血まみれで倒れているマリーの姿があった。
「マリー!!!!」
フレンは叫びすぐさま、マリーのもとに駆け寄る。
「フレン…逃げろって…言ったのに…」
マリーは苦しそうに答える。
「しゃべらないでくれ!!マリー!!!!このままじゃ死んでしまう!!!」
「フレン…私はもう長くは持たない…だから聴いてくれ…」
「あんたは最高の弟子だよ…誰にも渡したくないくらい愛おしくて、素直じゃにところも私そっくりで、フレンがどう思ってるかは知らないけど私は本当の家族だと思ってたよ。」
「これは最後の修行です。私の分も生きてね。」
マリーはそう言うと息を引き取った。
「逃げたのではなかったのだね、少年。その勇気は称賛に値するけど少し遅かったようだね。君の師匠はもう殺してしまったよ。」
すべてが崩れ去る音がした。
今まで積み上げてきたもの、生きてきた意味、目標、人生の命題。
それらの全てがたった今、
復讐に変わる。
「マリー!!!!!!!!」
フレンは喉が張り裂けそうなほど声を上げる。
「せっかく拾った命、ここで散らすことも無いでしょう。ローレンスのお嬢さんに免じて見逃してあげますよ。どうします?」
―ごめん。師匠。その約束守れそうにないわ―
「逃げるわけないだろ!!!!お前を殺して俺も死ぬ!!!!あの人のところに帰るんだ!!!!」
フレンはハンマーを取り出し、地面を前方方向にえぐる、すると飛び散った岩石、雪は全て太刀へと姿を変える。
「見たことない術ですね、第三魔術でしょうか!?」
「良い才能を持っていますね、ですがそれは勇気ではありません。蛮勇です。」
ルーカスはそう言うと、魔獣の腕を自信を囲うようにらせん状に展開する。
「マリーが認めてくれたこの才能を!!肯定することも否定することも許さない!!!!!!」
フレンは空に駆け上がる。迫りくる追撃もすべてハンマーで撃墜する。撃ち落された腕は大量の剣になりルーカスへと降り注ぐ。
「良い動きです。流石、彼女の弟子ですね。非常に興味が湧きました。お名前をうかがってもいいですか?」
フレンは地面に刺さっているマリーが使っていた太刀を抜き、切っ先をルーカスのほうに向ける。
「俺はフレン。お前を殺す、復讐を果たす魔術師殺しだ。」
「良い表情です。さあ、貴方の輝きを見せてください。」
フレンはハンマーを地面に叩きつける。すると、地割れが起こり地形が変化する。まるでフレンの動きに呼応するかのように足場や防護壁へと形を変える。
「地中で武器を生成することによる地形操作ですか!!!素晴らしい!!良い技です!!完全に力をコントロールしている!!!」
ルーカスは興奮気味な口調で話す。
すると変形し、露出した岩石にヒビが入る。
「剣製!!囲墓鍛!!」
フレンの掛け声と同時に槍がルーカスに投射される。ルーカスはまたもや同じ技で防ぐ。
「その技はもう見た。」
フレンはそう言い放つと。地面から剣が突き出てルーカスの足裏を切り裂く。
「傷を負うのは久しぶりですね。本当に恵まれた才能だ。ここで殺すのはもったいないくらいです。」
「ですが…」
「あまりにも感情的に動きすぎです。」
ルーカスはそう言うと、フレンの後ろに魔方陣を出現させる。
「獄門、掌握」
そう唱えた瞬間フレンは魔獣の腕に握りつぶされる。
「ぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!」
骨が折れる音がする。自分の血の温度を感じる。死の足音が聞こえる。
もう動くことすら許されない。全身が無機質へと変化してゆく。
しかし不思議と後悔はない。マリーは褒めてくれるだろうか。また一緒にまずいシチューが食べれるだろうか。また彼女の笑顔が見れるだろうか。
いや、きっとマリーは悲しむに違いない。俺は最高の弟子だ。だったら最後まで弟子を遂行する。
「まだァァァァア!!!死ねねぇぇぇぇぇんだよォォォォォォ!!!!!」
「声がでかいぞ少年。ここら一帯丸聴こえだぞ。あと、少し来るのが遅れてしまったね。申し訳ない。」
聴いたことない女性の声が後方から聴こえる。
「魔術師連盟本部所属、自称最強魔術師、レノール・アルス・ストラトディと申します。」
レノールと名乗るその女性はルーカスに向かって構える。
「ずいぶんと速いですね、レノール嬢。」
「久しぶりだな、ルーカス。提案だ、今すぐ手を引くか、死ぬかのどちらか好きなほうを私が選ぶ。」
「面白いジョークですね、それは提案じゃなくて警告ですよ。」
「まあ、貴方の好き嫌い以前にもとより手を引くつもりです。つい興が乗って殺してしまったよ。」
「そこの少年はまだ死んでないし、殺させない。」
「一斉詠唱!!すべて焼き払え!!」
レノールがそう言うと、数多の魔方陣、少なく見積もっても五十以上ある。
すべての魔方陣から打ち出された魔術は炸裂しそこら一帯を消し去った。
「あ~逃げちゃったかぁ~せっかく殺すチャンスだったのになぁ。」
間一髪のところで逃げたようだ。
フレンは潰れた足と腕をうまく使い、這いずるようにしてマリーのところへ駆け寄る。
「マリー!!!!!!!ぁぁぁあぁぁぁぁぁっぁ!!!!!」
レノールは首元まで切りそろえられた綺麗な銀髪を揺らしながら、フレン傍に寄る。
「辛かったね、少年。だけどね、その悲しみが君を強くするんだ。君はもっと高く飛べる。」
「私はある魔術学院の校長をやっているんだ。よかったら君も来ないかい?」
「もし行く当てがないなら一緒に学んでみないか?」
「俺は、あいつを倒せるくらい強くなれますか?」
フレンはレノールにそう尋ねた。
「ああ、なれるさ、君なら最強の魔術師にだってなれる。」
「私と一緒に来てくれるなら、名前を教えてくれるかな?」
「俺は…フレン…フレン・ローレンスです。」
拝啓、親愛なる師マリー・ローレンス様。
今日で学院に入学してから丁度半年になります。最近友人もたくさんできて充実した生活を送っています。
また、忙しくなってきたせいでこうして手紙を書く回数も減ってしまいましたね。
あと制服姿も見せられないのも残念です。またいつかどこかで逢えたら師匠のシチューが食べたいです。
最後に、俺は健康に暮らしています。大きな目標もでき、一か月後には後輩もできる予定です。
日々精進してまいります。では、またいつか。
マリーの弟子、フレン・ローレンスより。
「おい!!フレン!!何手紙なんか書いてんだぁ~~!!あんまもたもたしてると置いていくぞ。」
「フリッツ先輩、先行っといてください。すぐ追いつきますから。」
これは俺に射したただ一筋の陽光。
生きる意味を与えてくれたある人物との物語だ。
魔術師達の特異点0章 終わり
閲覧ありがとうございます!!
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