形あるところ
0章の続きになります。
弟子の朝は早い。
「フレン!!!!早く起きろ!!!修行だろ!!!!」
マリーの怒号で目が覚める。
マリーの弟子になって三週間がたつ。いまだに基礎体力訓練ばかりで、終わった後は死んだように眠る毎日。
最近の変化としては、昨日飯を任されたことぐらいか。
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「なぁ~~フレン、お前も飯作ってみろよ!!」
ご飯前だというのにもう酒が入っている。この人は酒が入ると人が変わったように荒い言葉を使うようになる。あと、最近凄く馴れ馴れしい。あの頃の清楚なイメージはどこに行ってしまったのだろう。
フレンは初めてする料理に苦戦するも見様見真似でなんとかしてみる。
「うわぁ…失敗した…」
見まねの参考が悪かったのだ。マリーは料理が壊滅級であり、初めて来た日は奇跡的に食べれるものに仕上がったらしい。その後マリー料理人は調子を取り戻し、壊滅級の料理を披露することになる。
「わぁあ~~!!ヘタクソ~~~~!!!!!私のよりひどいじゃん~~!!」
よりにもよってこの人に言われるなんて屈辱的だ。
「もう…初めてなんだから仕方ないだろ!!そんなにまずかったら食べなきゃいいじゃん!!」
フレンは恥ずかしくなって言い返す
「でも、フレンが私に初めて作ってくれたんだよね。だったら全部食べなきゃ!!クソまずいけどな!!」
「クソまずいは余計だよ!!」
以前のフレンからは考えられない会話だ。歪ではあるものの、団らんとはこういうものなのだろうか。
「ねぇ~フレンあんたもだいぶここに馴染んできたよね~」
「おかげさまで、」
改めて言われると恥ずかしいものだ。
「な~に照れてんだ!!明日からはもっときつくしごいてやるからな!!あと明日の飯もフレンがやるんだぞ~」
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急いでマリーのところへ向かう。今日も基礎体力訓練だろうか?
「遅いぞ!!フレン!!今日はいつもと違う訓練をする大事な日なんだからな!!」
どうやらいつものトレーニングや走り込みじゃないらしい。
「いいからついてこい。」
マリーはいつにもなく真剣である。小一時間ほど山道を歩いた後にマリー一行は足を止めた。その間マリーとフレンは無言であった。」
「到着。ここだね。」
「私の生業をしってるっけ?」
そういえば忘れていた彼女は本家直属の魔術師殺しであった。
「私は魔術を悪いことに利用するやつらを殺す仕事をしているの。それでね、今日は魔術師本部から依頼されてる仕事なんだけど、どうやら、違法に魔術を研究している教団があるらしいの。しかも、人さらいや、墓荒らしその他もろもろやってる輩なんだって。」
彼女が軽々と発した殺すという言葉は重く、確かに輪郭を帯びた説得力のある言葉だった。
「ほら、そこ、あれが今日狙うターゲット。まだまだ小さな組織で実力者もすくないのだけれどね。」
集落のような、仮設のテントが何軒かたっていた。その近くに何やら怪しげな儀式をしている黒ローブの者たちがいる。
「じゃあちゃちゃっと終わらせるから、フレンは見学でもしといてね~」
そう言うとマリーは背負っていた大太刀を抜き一瞬にして姿を消す。
あっという間に敵集団の後方にまわり、一人、二人と切り伏せてゆく。
「敵襲だァ!!!!」
敵集団の司令官的な男が周りの黒ローブの者たちに指示を出す。
「一人!!二人!!三人四人!!!!」
迫りくる魔術の弾幕をかいくぐり、一人ずつ殺してく。
「こっちは仕事なんだ。許してね!!!」
マリーはそう言うと。残りのメンバー全員を切り伏せる。
「もう出てきていいよ~~!!」
マリーはフレンに向かってそう言う。
動こうにも動けない。めまいがする。それに吐き気も。
「どうしたの?フレン?気分が悪くなったの??」
「マリー…うっ…」
フレンは嘔吐した。初めて見た人間の死。臓物。鮮やかな血液。そのどれもが新鮮で、刺激的で、絶望的だった。
「あ~~あ~~やっぱり初めて見るとみんな吐いちゃうんだね~~」
どうしてこの人は人を殺して平然としていられるのだろうか。
「私だって、ほんとはこんなとこ見せたくないんだよ?でもね、今のを見てしっかり判断してほしいんだ。本当に私の弟子になるかって。」
こんなことで滅入っていては成長できない。初めて認めてくれた人に失望されたくない。フレンは口周りに着いた吐しゃ物を手で拭い答える。
「もちろん…俺はマリーの弟子だからな…」
そういうとマリーの顔は少し緩んだ。
「それでこそ我弟子だね!!」
その日の修行はそれで終わった。
―三か月後、フレンは初めて人を殺した―
「おぇぇぇぇぇぇぇ……うぅぅぅ…ヒック…」
これで二度目の嘔吐である。
「ったく…だらしないなぁ~フレン~人の死ぬところなんて見飽きるほど見ただろ?」
マリーは心配するような口調で話しかけた。
「見るのと実際に殺すのとは勝手が違うんだよ…おぇぇ…」
「ったく…もう~お前は私がいないとなんにもできないなぁ~~!!」
「料理は…俺のほうが百倍上手いよ…」
「お?口答えする余裕があるなら今日の飯当番まかせて良いかな?」
マリーはいたずらに答えた。
「いつもそうやって口実作って、結局ずっと俺が作ってるじゃん!!」
「あれ?バレてた~!!」
マリーはヘタクソな演技をして答えた。
バレバレである。逆にいつもの言い訳で通用すると思っていたのかという衝撃すら感じる。
「でも、もう平気みたいだね!!今日くらい手伝ってあげるよ!!」
マリーは輝くような笑顔でそう言った。
こうやっていつも励まされている。フレンにとってマリーは父親のに強く、母親のように温かい存在なのである。
―二年後―
「なぁフレンあんたも頼もしくなってきたね!!後ろは任せるよ!!」
フレンとマリーは大太刀を構える。
「間違ってマリーのこと切ったらどうしよ」
フレンはふざけて見せる。
しかし先ほどのふざけたやり取りからは想像できないような見事な連携で刺客を切り伏せてゆく。
「フレンはそんなミスしないよ!!誰が剣を教えたと思ってんの!!」
マリーは嬉しそうに言った。
「あんたに教わったから不安なんだよ!昨日だって刀一本折っただろ!」
戦闘技術も鍛冶の腕もかなり上がった。最近は一人の仕事も増えて、人を殺すことにも戸惑いは無くなった。
「そのことは昨日謝っただろ!!」
マリーは恥ずかしそうに答えた。
「一気に片づけるぞ!!マリー!!」
フレンは太刀を構えなおす。
「倒した数が少ないほうが飯当番な!!」
マリーが勝気に言った。
―一年後―
「そういえば今日ってフレンの誕生日だったよな。これ。あげるよ。」
マリーはそう言ってピカピカのハンマーを渡した。
「そういえば去年の誕生日なんももらってなかったよな。マリーにはちゃんとあげたのに。」
「ギクッ!!バレちゃった~~?」
白々しい演技をする。
「ったく。でもありがとうな…大事にするわ。」
贈り物というのはとてもいいものだ。
フレンとマリーは晩飯を取っている。野菜がたくさん入ったシチューだ。
「なぁフレン。おまえのその武器を作る魔法って戦闘に応用できないのか?」
「物をを武器に変える魔法なんか戦闘に使えるか?」
自分の魔法の応用なんて考えたことは無かった。
「例えば、石とか土をこう、ぶっ飛ばして投擲に使うとか。その間に武器に変えられたら強いんじゃないかな?」
マリーは手をブンブン振り回す。
「ッ!! じゃあ今度やってみるよ。」
そんな応用があったのかと驚きつつも。バレないよう誤魔化す。なぜなら、マリーの案に感動したと知られると後で笑われるからだ。
「お!!割と乗り気じゃ~ん!練習なら付き合ってやるぞ!!」
この人にはすべてお見通しだ。きっとマリーに似て嘘をつくのがヘタクソなのかもしれない。
「頼むよ師匠。」
「ああ!!任せろ!!愛弟子!!」
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