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第32話 白金の鉄の塊

 テンペスタからグール達の魔宴(サバト)で俺が何をしたのか聞かされてしばらくは放心していた。


 いまだにその時の記憶はよく覚えていない。その時の姿が双頭犬を分離しなかったスキュラの完全な力なのだろうかと考えたりもしたが、それよりもその時に見せたという残虐性が自分の本性なのか、単にグヴィンを殺したと思った相手への憎悪によるものか、他の何かに影響されたものなのかの方が重大事だった。


 あれからツナツルの俺への接し方が変わった気がするのもそのあたりが原因なのだろう。




 グヴィンの怪我が治り、俺とグヴィンとツナツルは地下回廊入口のある宿場町リュナイヘと向かう。


 リュナイへあとわずかというところで、前方に道脇から異様な馬車が飛び出してきて進路を塞いだ。その馬車を引くのは6頭の首のない漆黒の馬だった。

 御者台には当然のようにあのメイドが座している。近くに首が見当たらないが。


 旋回し道を戻ろうとすると、大きな牡鹿角のあるオーガの如き体躯をした、くせのある黒髪長髪の偉丈夫がそこに立ちはだかった。


 トワシスの突進を軽くつかみ放り投げる。


 アンドゥ、キャトルサンクが一斉に襲いかかる。キャトルサンクを殴り飛ばすと腕に噛み付いているアンドゥをそのまま腕を軽く振って落とす恐ろしい怪力を見せる。


 3匹が同時に襲いかかろうが、じゃれついて遊んでいるようにさえ見えた。


 子守歌は効果がない。

 黒い触手が影から生えたが瞬時に霧散した。ツナツルが魔法を使うがかき消される。


 笛の音のような音とともに瞬速の矢が飛ぶ。

 男は飛来する矢を素手でつかんだ。鏃の先が狙われた眉間に触れている…。


 グヴィンが隙をついて放ったコンポジットショートボウによる「必中三連撃」だ。「猟師たちの弓術」による精緻な狙撃だったが男には通じない。


 遠距離攻撃で為す術のなくなったツナツルとグヴィンが各々武器を手に取り前に出る。俺はグヴィンに声をかけると「楽園の英雄への讃歌」で時の加速効果を掛けようとハープを爪弾く。


 だが、その間も無く、グヴィン、ツナツル共にのされてしまった…。


 異なる種の魔物による小規模な戦いは、大抵が一方的に力関係の強者による蹂躙に終わる。


 俺の目の前に来た黒髪鹿角の男が豪腕を振るう。


 蛸腕尻尾が反応し防御行動をとったにもかかわらず、その拳の暴力で、腹が爆ぜ、息が止まり、汚物を垂らしてのたうち回る。追い討ちに頭が踏み潰されそうになるのを尻尾が勝手に絡みついて防ごうとするも、そのまま大きく蹴飛ばされて吹っ飛んだ。


「し、ぬ、ぅ…。」


 何箇所か骨の砕けた激痛に無意識に空気の抜けた声が漏れた。


 男は左腕を前に伸ばして当たり前のように大弓を顕現させると、その太い腕の筋肉をさらに膨らませて弦を引き絞る。光る矢が自動で番えられる。


 うつ伏せのまま顔を向けた俺と男の目が合う。


「おまえさんは今のうちに確実に始末させてもらう。」


 まさに矢が放たれようかという瞬間、ドッスンという音とともに、何かが落下してきて視界を遮る。構わずその塊に光る矢が放たれた。


 銀色の塊が翼で矢を逸らす。続けて連射された矢もすべて俺の盾になってか逸らしてくれる。


 息つく間なく爆音が男に落ちた。その何かがさらに落雷の轟音をたてながら、何度か眩しく稲光る。


 白銀のアウルベアが除けた先に見えたのは、蒼い鱗のドラゴンに跨った頭の左右から長い翼の生えた全裸の女だった。


「Βθζαμα Δα νεχε.(無様だねぇ。)」


 綺麗な切れ長の目の美人が挑発的に笑って言った。


 こいつ…、また意味不明の言葉で喋ってるのに、言っていることが伝わる…?



――― そっか…、思えば、俺の弾くハープを ”一番最初に聴いたのも” 、 ”一番多く聴いたのも” 、しつこく付け回してきた此奴だったのかもしれない。


 俺はこの情けない俯せの恰好から動かないから頑張ってくれ…。



 男は上に乗っかり殴りつけ続けるドラゴンの前肢を受け止めると、立ち上がった。

 上体を起こされたドラゴンからセイレーンが飛び降りる。


 男は喰らいつくドラゴンの首を両腕で抱える。顎下を胸に当てると胸筋で押し上げ腕で極める。異常だ。上空から全重量をかけて落下されたうえに、雷撃を何度もまともに喰らい、硬い爪で何度も叩きつけられて、逆にドラゴンを相手に攻勢を取っている。


 蒼いドラゴンは羽ばたき一旦飛び上がると首を地面に叩き付けて何とか逃れるが、自身にもかなりダメージを受けたようだ。もう一度、飛び上がると首をふらつかせながら、そのまま空の彼方へと飛んで行った。

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