4話
「その・・・」
「・・・」
「あの・・・」
両手の指先を合わせて球体の形を作り、そこから人差し指をぐるぐると回す七崎
一方の俺は酒を飲みながら、たまに見てくる七崎を無視し続ける
「・・・」
「・・・」
俺は息苦しかった、誤解が解けたのは嬉しいのだが
こいつ(七崎)と今更何を話すと言うんだ
正直言うとこの場から早く居なくなってほしかった。
いや違う、俺が離れればいいんだ。
いつも、そうしてきただろ―
決心し席を立ち上がる、もうここに用はない
とても満足した、矢島には伝えるつもりはないが感謝している
俺はこれで全てを諦められるんだ。
「俺帰るわ」
「待って!」
「・・・」
「待って・・・」
去る瞬間に少し涙を浮かべる七崎がチラっと映った。
もう関係ない、もう終わった話なんだ。
七崎は俺よりも違う奴と絡んでた方が幸せなんだ
現に高校のクラスメイトと話していた時は自然に笑っていただろう、あれが証拠だ。
俺と話してたってつまらないんだよ、そう考えると何故か全てがどうでもよくなった
全て考えず、何もかも投げ出してしまいたいような気持ちだった
居酒屋を去る時に何か聞こえたがその声を無視し、ドアを開け俺は居酒屋を出る事にした。
**********
辺りはすっかり暗い夜道となっていた
街灯の明かりだけが光輝き道を照らす
これからどこに向かうかも考えず俺は闇雲に歩いていた
「七崎・・・」
最後の「待って」は弱く、か細い声だった
七崎が俺を好きなのはわかっていた事なのに
俺はあの時と変わらず七崎を睨み付けてしまった。
本心は好きなんだ、本人に上手く伝えなきゃいけない
言葉にしようと思えば思うほど、裏腹に素っ気ない態度を取ってしまう
それは何でだろう?1人が好きだから?
俺の攻撃的な言動や行動の本質(根っこ)は何なのだろう?
「わからない」そんな在り来たりの言葉しか出てこない。
そんな事を考えると、本当に七崎を好きなのかもわからなくなってくる
そもそも何であいつは俺の事好きなんだ?
矢島に至ってもそうだ、俺は他人に好かれる事をしている訳でもない
なんで寄ってくれるんだ、なんで話かけてくれるんだろう
そう考えに耽っていたら、小さな公園に辿り着いた。
「なっつ、ここは・・・」
ここはそう、確か俺が親父と喧嘩した時に家を飛び出して
そのままベンチで寝入った公園だ、その公園の名前すらもわからないがと考えると
フラっ、と足下がふらつく「やばい、飲み過ぎたか」と俺は小さく呟きベンチに横になる。
「少し、寝るか」
寝ている間も全く考える気はなかったのに、七崎の事を考えてしまった。
**********
「おはよう」
その声を聞いて俺は目が覚める
「なな、さき・・・?」
ふと頭に枕のような感触がある
俺を見上げる七崎の顔から全てを察した。
「(いつの間にか、膝枕されてたのか)」
「矢島くんと探し回ったんだよ」
よく見ると少し汗をかいている、呼吸も少し乱れている様子だ
本当に探し回ったのだろう、また俺なんかの為に苦労したんだろうな
そうだ、もう1人の苦労人は―
「矢島は?」
「矢島くんは寝てる君を見つけた後、帰ったよ」
「なんでも、明日朝からバイトなんだってさ」
「そっか・・・」
わざわざ探してくれたんだ、これだけは伝えておかなきゃいけないだろう
「あのさ」
「なに?」
「ありがとうって伝えておいてくれ、あいつに」
「うん、わかった」
その後はまたお互いが黙り込む
何だろう、さっきとは違ってここに居たくないなという気持ちは少しも出てこない。
むしろ少し話しやすい空気だなと感じた
「七崎」
「うん?」
「高校の時の嘘発見器の話なんだけどさ」
「ああ、あれ?」
七崎は少し照れながら話す、居酒屋で話した時とは別人のようにペラペラと喋る
この暗い公園が話をしやすい雰囲気を作り出してるのだろうか
「さっき矢島くんに聞いたんだけどさ」
「あれって、私は私の事が好きですか?っていう言葉に対して嘘って反応したんだね」
「私、すっごい勘違いだよね!バッカみたい!」
「あはは・・・」
笑った後しゅんとする七崎
誤解を解いた今、後に残るのはお互いが「好き」という事
だが先ほど言ったように俺は七崎を好きなのかもわからない
本人のきっかけをまず聞いてみるか?
さっきも言った通り七崎が俺を好きになる要素もわからない
とにかく俺は「七崎」と一言間を置き、小さい声で聞いてみた。
「何?」
「その・・・」
「あのさ」
「うん」
「なんで、俺なんかを好きになった?」
続く