3話
「ほら!ね、凄いでしょこの機械」
「っせえ」
当たった事に対して凄く嬉しそうな顔を七崎は見せ
やってみてと言わんばかりにキラキラしたような目で俺を見てくる
俺もまあその、試してみたいという気持ちが無くはなかったので一応機械に向かって喋ってみた
「・・・俺は学校が大好きです優等生です」
ブブーッ
否定された、いや否定されたというのはおかしい表現だ
正しく言うと、好きとはこれっぽっちも思ってないから嘘と判断したのだろう
本当によく出来た機械だと頭の中で感心すると
俺は大変満足し、もうこの機械に対する興味は薄れていった
「ほらよ、これでいいか?じゃあな」
悪くない暇つぶしにはなったので、さっさと帰る事にした
教室のドアを開け、足を一歩踏み出そうとすると
後ろから七崎が小さい声で呟いた
「き・・・」
「あ?」
よく聞き取れなかったので振り返って七崎を見つめる
何かを我慢しているように下を向いていた
ふと嘘発見器を持っている右手を見る
壊れるんじゃ無いかと思うぐらい強く握っていた
「私は・・・」
「小さくて何言ってんのか聞こえねーよ」
教室側に俺は身体を戻し、七崎に近寄る
「私の事が好きですか・・・?」
目をこっちに向ける七崎
その表情は真剣そのものだ。
「んだよ急に」
「好き・・・?」
「・・・」
真剣な七崎を見るのはいつ以来だろうか
下唇を少し噛みしめるのは今にも泣き出しそうになるサインだ
こいつは昔からそうだった、よく喋るくせに大事な事になると声が小さくなり、泣きそうな顔になる
俺はこいつをよく知ってる、いや、本人からよく教えてもらった
好きなのだろうか?
「・・・」
「ああ、俺も嫌いじゃない」
「お前の・・・こと」
ブブーッ
機械音が鳴る、音は嘘発見器から鳴ったものだ
なぜだ?これは俺の本心から出た言葉だ、嘘じゃない。
自分を落ち着かせようと、何か言葉をかけなければと軽くパニック状態になる
「七崎、違う」
「・・・そっか、突然ごめんね」
「急に呼び出しちゃって」
「いきなり好きですか?とか迷惑だったよね、あはは」
「おい!」
七崎は手に持っていた嘘発見器を鞄に急いで入れ
ファスナーを閉めると教室から逃げるように走り去っていった。
「七崎!!」
「・・・」
1人になった教室はとても静かだった
冷静になった頭で考える
七崎に返事したのは嘘とは思っていない、じゃあ何故鳴ったのだろうか?
私は・・・と言った七崎の言葉を思い出す
ああ、そういう事か――。
* * *
「という感じだよ」
「おいお前それ・・・言わなくていいのかよ、七崎の誤解じゃねえか」
ジョッキを握り、酒を一口飲む
矢島の言葉を無視し、七崎ついてふと考えてみた
俺はもう一度あの時をやり直したいのだろうか
違う、やり直したいという訳ではない
でも、時折わかってほしいという気持ちがあったのだろう
自分はこういう人間なんだ、自分に対して高校時代、真剣に向き合い続けてくれた七崎と矢島
放っておいてくれ、何度その言葉を吐いたんだろうか
何回、他者を傷つければいいんだろうか
いや、それも違うんだろうか、他者が勝手に世話しようとしてるだけで
俺自身は本当に嫌なのだろうか
わからない。
「・・・」
「おいってば!」
「・・・っせえな、黙れよ」
「言った方がいいぜ、後悔しないうちによ」
「言わねーよ」
「何もかも止まったままだと後悔するぜ」
「しねーよ」
矢島はそれ以上何も言わなかった
ふと七崎を見た、あの頃から1回もまともには話していない
高校生の時は2回も3回も、何回も会話だってしたのに
いや、会話なんてしてない、俺はただ事あるごとに無視して突き放していただけだ
今もそう、こいつに対して冷たく当たっている
親父も、母親もそういう態度だったのかもしれない
俺は、真剣に誰かと話した事なんて無いのかもしれない
「・・・あいつまだ独身だぞ、声かけてこいよ」
「・・・」
返事はしなかった
「わかった、お前がそういう態度なら俺はもう」
それでいい、離れてくれ
元々人に好かれる人間でもない、これが当たり前なんだ
「俺の勝手にさせてもらうぞ」
「は?」
「七崎に全部話してくる」
「待てよおい!」
そう言って矢島が立ち上がると七崎に近づいて何やら耳打ちをした
恥ずかしくなる七崎、わかりやすい奴なのでその様子はすぐにわかった。
少しの間が空き、そのまま俺の席へと近づいてくる二人
「おい!矢島!てめえ!!」
「ほい、お二人さん、しっかり誤解を解きなよ」
肩を掴み、半強制的に七崎を俺の隣に座らせる矢島
そう言った後、矢島は俺の言葉を無視してその場から退散するように
他のクラスメイトのグループに混ざりに行った
騒ぐクラスメイト達を見るように視線を泳がせながら
たまに二人の目が合う
「・・・」
「・・・」
合ってはまた視線が離れる
「・・・」
「・・・」
ジョッキを握り、今度は酒を3口飲む
そのうち沈黙に耐えきれなくなったのか、七崎の方から話を切り出した
「えーっと、久しぶり、かな?」
「ああ」
あと2話か3話ぐらいで終わります