第9話[旅立ちの時]
私は決意した。
度重なるクエストの失敗に続き、食事は雑草。
おまけに弱い勇者に魔法が使えない魔法使い。
こんなの魔王を倒す前に餓死してしまう。
私は勇者を説得して、始まりの国を出る事にした。
「どんな子が仲間になるのかな?」
「あっ、でも、どんな子が来ても、私の一番は日菜ちゃんだけだからね」
私は勇者を無視しながら歩く。
魔物に気をつけながら、時には逃げながら、隣国、ベルトベア王国にやっとの思いで辿り着いた。
国に入ってイベント情報が頭に入る。
それに従い、私達は王様に挨拶をしに向かった。
「よくぞ参った勇者殿」
「資金援助はできないが、我が国誇っての戦士長をそなた達の旅のお供につけよう」
王様が手を叩き、それを合図に現れる屈強な男。
筋肉は盛り上がり、立派な鎧を装備し、背中には岩をも砕きそうな斧を携えていた。
そうか、彼を仲間にしてレベルを上げて進んで行く。
きっとそういった王道パターンだったんだ。
私が心の中ではしゃいでいると、戦士様は自己紹介をしてくれた。
「我が名はジジルガ、我が国に恥じぬ様、漢としての誇りを持って御二方を御守り致します」
跪き勇者に忠誠を誓う姿を見て日菜は安堵していた。
これでやっと先に進める。
日菜がそう思った矢先、勇者は戦士長の手を振り払い口を開いた。
「うるっせぇ、男何かに用無いんだよ」
「私の前から消えな」
現代ではコンプライアンス的にアウトな指を立てる行為をしながら、舌を出して挑発する勇者を見て、日菜は固まっていた。
マズい。
弱い癖にそんな挑発をして、厳格な戦士長が怒ったらどうするの。
ギロチンを想像して日菜の顔が青くなる。
そして、恐る恐る戦士長の方を見ると…。
「あらヤダ」
「私、女よ」
絶対に嘘だ。
周りの兵士や王様が完全に引いている。
「うっふん」
「ねぇ、いいでしょ」
「仲間に入れて」
「ジジルガの、お・ね・が・い」
男の誇りは何処に行ったの?
とはいえ、貴重な戦力だ。
何とか勇者を説得しなければ。
「はぁん?なら○を落として来い」
「男ならあるんだろ○が、それを切り落として来たら考えてやんよ」
これ本当に説得できるのか?
心配になりながらも私は勇者を懸命に説得した。
だが…。
「何言ってるの日菜ちゃん」
「こんなの入れたら薄い本の様な事されちゃうじゃん」
「ただでさえ日菜ちゃんは不幸体質なんだから、きっと欲情されちゃって色々大変だよ」
「分かったら、さっさとこんな国出よ」
そう言うと勇者は私を引きずり、唾を吐いて国を出て行った。
ああ、勇者の目、光が無かったな。
第9話 完