第25話[スタリエの頑張り前編]
気がつくと見知らぬ森の中にいた。
頭を抑え、スタリエは記憶を辿る。
確か次の町へ向かう途中、森の中で霧が濃くなって……。
そうだ。
危険だから休憩していたんだった。
それで突如、魔物に襲われて馬車の荷台が……。
「そうか緩い崖から落ちて、馬車から放り出されたんだっけ」
回復魔法を自分にかけ、少し休憩する中、一人の少女が顔を出してきた。
「お姉ちゃん、こんな所で何してるの?」
スタリエは事情を説明し、村の場所を少女に尋ねた。
子供が居るのなら、近くに村があるはずだ。
そう考えたからだ。
だが、少女は首を横に振る。
「ここはね、生贄の人間しか入っちゃ駄目な場所なんだよ」
「お姉ちゃんも生贄に選ばれたの?」
スタリエは少女の頭を撫で一人思う。
生贄か……、怖い話しや昔話、こういった異世界ではよく聞く話しだ。
「違うわ」
「ちょっと迷い込んじゃって、仲間達の所へ帰らないと」
それを聞いた少女は少し悲しそうな表情をする。
「そっか、お姉ちゃんは何か凄そうだもんね」
「私とは違う……」
「私はね価値が無い人間なんだって、価値がないから生贄に選ばれたって言ってたの」
「そう」
スタリエはそう言うと立ち上がった。
少女は俯き、何処かへ行こうとする。
そんな少女の手を、スタリエは掴んだ。
「あなたに価値があるか無いか何て私には分からないし、興味が無いわ」
「でもだからといって、あなたが生贄に選ばれたのには納得行かないし、気分が悪い」
「だから私と一緒に来なさい」
「きっと、日菜達も暖かく迎え入れてくれるわ」
ずっと価値が無いと言われ続けてきた。
誰からも必要とされなかった。
そんな自分に一緒に来いと声をかけてくれた。
少女は嬉しくて、目から涙が溢れ落ちる。
だけど……。
「一緒に行けないよ」
「生贄は私にしかできない事だから」
「価値の無い私にとって、唯一価値がある事だから……」
そう言って彼女はスタリエの手を振り解こうとするが、スタリエは力強く彼女の手を握って離さなかった。
「さっきから価値価値って価値がなきゃ生きてちゃいけないって訳?」
「でも、私が生贄にならないと神様が怒って、村の人を皆んな殺しちゃう……」
「だったら私がその神様を倒してあげる」
「えっ」
「神様を倒して生贄無しで村を守る様に説教をしてやるわ」
「だからもう、そんな事は言わないで」
少女はスタリエに抱きつき、泣き始めた。
少女が落ち着くまで、スタリエは少女の背中を優しく撫でてあげる。
第25話 完
第26話へ続く。




