第15話[臭い]
一人、白目を剥き倒れる。
「ララ殿ー」
緑の叫びが洞窟内にこだまする。
堪らず日菜とスタリエが換気を試み、部屋の扉を開けようとするが……。
「駄目です」
「今開ければ勇者殿の努力が無駄になります」
「何言ってるの?」
「このままじゃ、死人が出ちゃうよ」
日菜はそう言うとスタリエと協力して緑を退かそうとするが……。
微動だにしない。
「ハァハァ、うっ……」
力のステータスは高いスタリエだが、体力が全く無い。
故に、緑を退かそうと力を込めただけで、息切れし、大量の悪臭を体内に取り込んでしまい、倒れてしまった。
「何、この地獄絵図」
ただでさえ汗臭い洞窟内。
それに加え、イカの〇〇の悪臭。
そして、体内から吐き出された虹の臭い。
駄目だ。
臭すぎる。
「どうして、緑ちゃんは平気なの?」
「この位、大した事ありません」
「真夏の父様の足の匂いの方が酷いです」
緑ちゃんの父様って、一体何者よ。
意識が遠くなっていく日菜。
そんな中、海賊のボスが叫んだ。
「盗んだ物は全部、売っ払ちまった」
「だから、お願いします」
「ドアを……、ドアを開けて下さい」
顔中、グシャグシャになりながら叫ぶボス。
下っ端達も一斉にドアを開ける様、勇者に懇願した。
「緑ちゃん、開けてあげて」
勇者の言葉に頷く緑。
ドアが開かれ、日菜達はララとスタリエを抱え、悪臭漂う洞窟から脱出した。
これで……、これで悪臭から解放される。
そう思っていた日菜だったが……。
「嘘、臭い」
鼻の中に居座る悪臭。
着ている服や髪の毛にまで匂いがこびり付いている。
海賊達も日菜同様に自分達が臭い事を知り、服を脱いで海に飛び込み匂いを落としていく。
その様子を嬉しそうに眺める勇者。
「いやー、絶景ですなぁ」
「さあ、日菜ちゃんもどうぞ」
日菜の服を脱がそうとして、勇者は日菜に殴られる。
その様子を海の中で見ていた海賊のボスは、あいつらは異常だと思い、冷や汗をかいていた。
仲間を無視して悪臭を放つ勇者と剣士、平気で仲間に暴力を振るう魔法使い。
今まで数多くの魔物や人間を見てきたが、あんな恐ろしい奴、初めて見た。
ボスは体を震わせ、勇者達に恐怖した。
この出来事が原因で、海賊達は勇者がトラウマになり、勇者が来るぞと言えば帰って行くという噂が広まって、後に海賊達は廃業へと追い込まれてしまった。
第15話 完




