第7話[どの口が言う]
翌日、トイレから解放された私は爽やかな朝を迎えていた。
流石に食当たりは仕方が無い。
寧ろこの先、料理に毒が入っているかどうか、それが分かるだけでも、ありがたい事だ。
早速スタリエさんに会いに行く。
客間の扉を開け、そして私は固まった。
何、この空気。
顔を見ようとしない勇者とスタリエさん。
緑ちゃんがやって来て私に事情を説明してくれた。
どうやら、勇者はスタリエさんに向かって「私はあなたを仲間として認めないから」と言ったらしい。
勇者の言動に私は頭を抱える。
どうしてそんな事を言ったのか理解ができない。
スタリエさんはお嬢様で見た目も美しい。
更に言えば、この国のお姫様が自ら椅子になろうとする位だ。
ドM心を擽ぐる何かをスタリエさんは持っているはずなのに……。
なのに何故、ドMの変態勇者があんな事を言ったのだろうか?
私は気になり勇者に尋ねてみた。
すると、予想外のムカつく言葉が返って来た。
「はぁ、日菜ちゃん、女王様とお嬢様は違うんだよ」
何故ドヤ顔するのかよく分からないが、何だか馬鹿にされている感じで、すごく腹が立つ。
「とりあえずそのドヤ顔止めて」
「でも、スタリエさん可愛いよ?」
再び溜め息を吐く勇者。
「あのさ日菜ちゃん、私も女なら誰でも良いって訳じゃないんだよ」
くっ、私の拳が怒りで震えてしまう。
魔物のメスを襲った事もあるくせに、一体どの口がそんな事を言う。
そういった思いを押し殺し、私はスタリエさんの何処が気にくわないのか尋ねてみる事にした。
「私ね、犯罪を犯す奴と人生舐め腐った奴が大っ嫌いなんだ」
「あいつはお嬢様だからって人生舐め腐ってるよね」
その勇者の発言に私はひどく驚いた。
自分の事を棚に上げて、本当にどの口が言うんだ?
私の風呂を覗いたり、眼鏡の両脇を舐めようとしたり、つい最近では自分の着ている水着を他人に着せようとして捕まったばかりじゃないか。
歩く性犯罪者が本当に何を言う。
更に言えば、死に方についてもそうだ。
緑ちゃんもスタリエさんも死に方はアレだけど、防ぎようは無かった。
だけど、勇者に関しては違う。
下心さえ出さなければ死ななかった筈だ。
そう考えると人生舐め腐ってるのは勇者の方ではないのか?
私はそんな事を考えながらも、口には出さず、何とか場を収めようと勇者を説得するのだが……。
「まあ、日菜ちゃんがそこまで言うなら謝ってもいいけど……」
「はい、ごめんね」
「日菜ちゃんがどうしてもって言うから仕方なく仲間に入れてあげるよ」
それを聞いたスタリエさんの怒りが頂点に達し、勇者に対してブチ切れる。
「そんな事を言われてまで仲間になりたく無いわよ」
そう怒鳴るとスタリエさんは部屋を出た。
事態が悪化した現状を放心状態で眺める私と緑ちゃん。
この先一体、どうなるのだろうか。
私と緑ちゃんはそんな事を考えていた。
第7話 完