第36話[仲間だから]
森の奥で緑は一人で泣いていた。
私は今まで何をやってきたのだろうか。
彼女を苦しめる為に私は頑張ってきたのだろうか。
そう自問自答しながら、緑の心は折れていた。
お姫様に慰めの言葉をかけたが届かなかった。
それどころか何も出来ず、私はここまで逃げて来た。
今回の一件で私は何をしたのだろうか?
「何にも出来ない、誰も救えない」
「私がこの世界に転生して来た意味は?」
嘆く緑の背後に日菜が立つ。
「意味ならあるよ」
そう言って日菜は緑を背後から抱きしめた。
「緑ちゃんが居たから気づけた事がある」
緑ちゃんのお陰で相手が魔物でも、対話で解決できる事を知った。
「それに結果はどうあれ、緑ちゃんはお姫様を救ったんだよ」
救った?
いや救って何かいない。
私は彼女を追い詰めたんだ。
彼女を苦しめ、絶望を与えてしまったんだ。
緑は日菜に自分の考えをぶつけた。
だが日菜は首を横に振り、ソレらの考えを否定した。
「緑ちゃん、どうして姫様は苦しんでいるのか分かる?」
「それは、罪の意識に耐えられず……」
「緑ちゃん、それってつまりお姫様は人を殺す事を望んでいなかったって考えられない?」
その言葉を聞いて緑は黙る。
「結果はどうあれ、緑ちゃんは彼女を救った」
「緑ちゃんは友達を救ったんだよ」
「でも、私は何も……」
そう、私は何もしていない。
私は何もできていないのだ。
「分からないかな」
「この一件、緑ちゃんが魔物の仕業だと突き止めたんだよ」
「私と勇者だけなら毒が治ると同時に暴言を吐いて帰っていた所だよ」
「そうだよ」
茂みから勇者が現れる。
「第一、そんな複雑に考える必要ないって」
「私何て勇者なのに、王様から貰ったお金を全部キャバクラに貢いだんだよ」
「他にも、皆んなの前でお姫様に踏んで貰ったり、魔物を襲ったり、日菜ちゃんのお風呂覗いて殺されかけたりと、黒歴史バリバリ何だから」
流石に女盗賊から下着を盗んだ事は黙っておこう。
そう考える勇者。
「こんな私に比べたら緑ちゃんは聖女みたいなもんだよ」
笑顔で親指を立てる勇者。
そんな勇者に緑は……。
「そうですね」
「変に悩んでいた私が馬鹿でした」
「行きましょう日菜殿」
「うん」
「えええぇー、ちょっと何その冷たい反応」
「私、びっくり何ですけど」
予想外の反応に驚きながらも、勇者は二人の後を追う。
そんな中、緑は立ち止まり、クルッと勇者の方を振り返る。
「冗談です」
「お二人方、ありがとうございます」
「お陰様で大分元気になれました」
笑顔を取り戻した緑を見て、勇者と日菜は顔を見合わせて笑う。
「気にしないで」
日菜がそう言うと勇者が続けて喋る。
「だって私達」
一呼吸置き、二人は声を揃えて言う。
「仲間だから」
第36話 完