第33話[これが大人の交渉術だ!]
日菜は魔物達に名乗り、そしてそれぞれの名を尋ねた。
これから交渉するんだ。
名前は知っておいた方がいい。
それに、私は東の洞窟で彼女達の仲間を殺していない。
きっと、話を聞いてくれるはずだ。
絶対的自信。
だが、その自信も魔物達の一言で打ち崩されてしまう。
「許さない」
東の洞窟で命乞いをしていた魔物が呟いた。
「団長をここまで酷く殺す何て……」
「私はお前達を絶対に許さない」
頭だけになった団長。
しかも原形を留めていない。
この時、日菜は思った。
大切な仲間がそこまでやられていたら、それは怒りますよね。
「ちょっと、落ち着いて、話し合いを……」
「話し合い何てしねぇ、団長の仇打たせてもらう」
まずい、対話なんてできる状態じゃ無い。
だけど、この場を何とかしないと……。
「生き返らせる事のできる薬、買うから」
「だから落ち着いて」
咄嗟に出てきた言葉だが、魔物達の様子を見るからに、本当にあるらしい。
何はともあれ助かった。
「本当、物凄く高いよ?」
フードを深く被った魔物がそう呟いた。
「大丈夫、お金は持ってるから」
「一つ、三十はするよ」
三十って、三十万ベルだよね。
えっ、そんなに高いの?
三つ分だから、九十万だよね。
て事は……。
「ちょっと、待って」
日菜はそう言うと、回復道具を使い勇者達を治療し始めた。
それを見て戦闘態勢をとる魔物達、そんな魔物達に日菜は叫ぶ。
「今、二人が死んだら百五十万だから」
「百五十万だから」
日菜の悲痛な叫びを聞いて、何だか申し訳なく思い、魔物達は戦闘態勢を解いた。
畜生、分かってたよ。
不幸体質が働く事くらい。
何でこうも働くのかな。
少し位は休んでよ。
そう心の中で呟きながら、日菜は勇者達を治療して行く。
この時の日菜はまだ知らなかった。
三万ベルでララを雇っている事を……。
治療を終えた日菜は魔物達との交渉を続けた。
「で、名前を教えて下さい」
テンションが下がり、元気を無くす日菜。
フードを被っている方がマルカで、東の洞窟で会った魔物がヒル。
カミガオウに、カミガオウの主人がアル。
最後に団長のミカナタね。
「でもアルは小さい頃、死んでるから生き返れ無いかも……」
フードを被っていて、表情が分からないが、悲しそうな声で呟いていた。
日菜はマルカから詳しく話しを聞き、しばらく考え、マルカに可能性の話しをした。
「操っていない時は自分で考え、動いていたって事でしょ」
「それって、アルの魂を肉体に定着させてたって事じゃないの?」
「ただ、完璧に生き返らせる事ができないから、魔力で繋ぎ止めていた」
「そうだとしたら、まだ魂は離れていって時間が経っていない」
「つまり、生き返る可能性がある」
日菜の言葉に喜ぶマルカとヒル。
そんな二人に、日菜は条件を突き付けた。
「生き返らせる前に、貴方達がかけた呪いを解いてほしいんだけど……」
日菜の言葉を聞いて、ヒルは思い出したかの様にマルカに騙されていた事を話した。
そして二人は日菜に呪術では無く、あの国の人達を変えたのは置物の効果だと話し、洞窟の奥から置物を一つ持ってきた。
「黒い鎧を着た奴によると、この置物の効果を解くには四つ同時にこれを壊せばいいらしい」
東の洞窟と西の湖の洞窟にも置物があるらしく、どうやら二人が取って来てくれるらしい。
洞窟から出ようとする二人を緑が呼び止め、そして二人に謝罪する。
「別にいい、私達も悪い事をした」
「ごめんなさい」
とりあえず何とか解決し、私達は一度王国へ帰る事にする。
「それにしても、ご老人は何故良心を失われなかったのでしょう」
疑問に思う緑。
ベッドに寝たきりの老人、緑の話しではそう聞いている。
日菜は何となく想像は出来たが、敢えて分からない振りをした。
余計な事を言って、緑ちゃんを悲しませたく無い。
そう思い、話題を変え王国へ向かう。
「それにしても、流石です」
「私、日菜殿の仲間で幸せです」
調子いいんだから。
緑のおでこを指で弾き笑う日菜。
そして、この先に起こるであろう出来事を思い、日菜は緑に隠れ、溜め息を吐いた。
第33話 完




