第30話[痛み]
嫌な気分だ。
王国を救う為に魔物退治に出かけ、その魔物達の仲間に人間がいた。
そして今、私はその人間を殺してしまった。
彼女から剣を抜こうと手に力を入れる。
その時だった。
「うぐぐ……、がう」
死んだと思っていた彼女が再び動き出したのだ。
「うっ……」
腹部の痛み。
彼女の持つナイフが私の腹部に突き刺さっていた。
くそぅ、鎧を洗って干して無ければこんな事にはならなかったのに。
ああ、私はここで死んでしまうのだろうか?
まだ日菜ちゃんと一夜……、もとい恋人すらなっていないというのに。
ああ、ハーレム作りたかったなぁ。
腹部から血を吹き出し、勇者が倒れた。
「そんな、まさか……、彼女は死人なのか?」
死人と言う言葉に緑は過去を振り返る。
父様の書斎(漫画部屋)に行った時の事、そういった内容の漫画があった事を思い出していた。
父様と一緒に漫画を読んでいたあの日、父様はこんな事を話していたっけ。
「いいか緑、この世にゾンビが大量発生しても、父様が居れば大丈夫だ」
「父様がやっつけてくれるの?」
「いや、全力で逃げる」
「そして、全力で隠れるんだ」
「所詮はゾンビ、夏場、腐りに腐って動けなくなるまで隠れていればいいだけだからな」
「流石父様、頭いい」
そうだ。
熱だ。
「ララ殿、火炎系の魔法を……」
「いや、私氷専門だし、つかもう凍らせましたけど」
ゾンビを凍らせて、身動きを封じたララは勇者の治療の為に、彼女に近づいたその時。
倒れていたカミガオウが起き上がり、ララに向かって襲いかかって来た。
「なっ……」
水の国の上級騎士だけあってか、ララの装備はそれなりの物、負傷し力の無いカミガオウの攻撃に特に問題は無かったのだが……。
「氷結の氷柱」
洞窟の奥から呪文を唱える声がし、放たれた氷の柱はカミガオウごとララを貫いていく。
仲間を犠牲にしてまで攻撃する様を見て、緑は眉間にシワを寄せた。
「何て酷い事を……」
緑のその叫びに、奥からフードを深く被った魔法使いの様な見た目の魔物が姿を現した。
「酷い?」
「違う」
「カミガオウは願っていたんだ」
「こうする事を、お前達を殺す事を……」
時折、フードから覗かせる彼女の表情は悲しく、頬には涙が伝い落ちていた。
第30話 完