第27話[すごく面倒臭い人]
とある森の中で、緑は一人泣いていた。
そしてその状況に出くわしてしまった水の国の王国騎士団員。
彼女は悩んでいた。
声をかけるべきかと。
人として声をかけるべきなのは分かっている。
だが、声をかけてしまえば、何やら面倒臭い事が待っていると、そう彼女の直感が告げている気がしていた。
今は、王様の命で森の王国に魚を届けないといけない。
うん、王命が優先的だろう。
魚を凍らせそれを維持するのにも魔力を消費してしまうからな。
ここは、先を急がせてもらいます。
そう自分に言い聞かせ、彼女が一歩進むと、緑の泣き声が更に大きくなった。
罪悪感が彼女の歩みを止める。
仕方がない。
覚悟を決めながらも彼女は溜め息を吐き、声をかける事にした。
「あの〜、どうかしましたか?」
緑は見ず知らずの人に事の経緯を話す。
それを聞いて彼女は声をかけた事を酷く後悔した。
これって、手伝わないといけないパターンなのでは?
再び溜め息を吐く。
安定した高収入、尚且つ老後、楽がしたいが為に必死に勉強し王国騎士団員の上位まで昇り詰めたというのに、仕事はというと魚を魔法で凍らせ各国に届けるという行商人まがいな仕事ばかり、その上、タダ働きで魔物退治だ何て絶対に嫌だ。
やりたくない。
そう思い、彼女は手伝わないという選択肢を選んだ。
「それは大変ですね」
「それじゃあ、私はこの辺で失礼を……」
そう言って立ち上がると、緑は再び泣き始めた。
再び罪悪感が彼女を襲う。
足に鉛でも付けられたかの様に重く、進む事が出来ない。
仕方がないと思うと同時に、少しでもと稼ぐ事を考える。
そして……。
「分かりました、手伝います」
「その代わり、雇うという形でどうですか?」
「私、これでも水の国、スプララートという国の上級騎士でして、タダ働きはちょっと……」
緑は頷き、金額交渉を始めた。
月のお給料が五百ベルの彼女に提案した金額が一万ベル。
それに目が眩み彼女は即決した。
直感を信じなくて良かった。
面倒臭い所か臨時ボーナス獲得で超ラッキーじゃん。
喜ぶ彼女だったが、緑は勇者の言葉を思い出す。
自分じゃ何一つできない。
ただでさえ、仲間に何もできていないというのに、お金まで勝手に使おうだなんて……。
緑は首を横に振り、彼女に払えないと告げる。
「えっ、て事はタダ働きという……」
頷く緑。
そんな緑を見て悩む。
彼女はどうやらお金持ちっぽい。
それによく考えれば、森の王国にも貸しができて尚且つ、彼女のお仲間さんにも恩を売れる。
だが、最悪なケースも考えられる。
それは、森の王国からも、彼女のお仲間さん達からも、ありがとうと言われ済まされるパターンだ。
うーん、どうするべきか。
一人、考える彼女の背後から何者かに声をかけられる。
「三万ベル」
「それで、私が雇ってあげるよ」
第27話 完




