第26話[冷たい勇者]
席に促され、椅子に座る緑。
別の老婆からお茶を出され、お礼を言う。
老婆が何故、お姫様がああなったのか、ベッドに横たわる老人をチラッと見て、話しを始めた。
事の始まりは、お姫様の誕生日パーティーだったそうだ。
城下町の御触れを見たのか、旅芸人の一座が現れ、お姫様に芸を披露したらしい。
その日からだ。
お姫様や王様、お城に仕える者達が豹変したのは。
「他にも、旅芸人の団はおったそうじゃが、そこに寝ている爺様の話しでは、最初に披露した旅芸人が怪しいと言うてましてな」
青いドレスを着た女性に、魔物を連れた女性、他にも二名の団員がいたそうだ。
爺様は歳でロクに物も見えず、音も聞こえにくい。
それでも王室の元世話係、王子やお姫様を喜ばせる為に芸事を習ったりもした。
だからこそ、最初に披露した旅芸人に違和感を持ったらしい。
「彼女達の芸は凄かった」
「耄碌した爺いのワシでも凄いと思った」
「じゃが、どうも彼女達からは人を楽しませようという気持ちを感じられなんだ」
そう爺様が言っていた事を緑に話した。
緑はそれを聞き、宿屋へ走る。
そして、ベッドで日菜を看病する勇者にこの事を話した。
「なるほどね」
「でっ、魔物退治に向かおうという訳か」
「そうです」
「早くこの国を救わないと」
息を荒げ、興奮する緑に勇者はこの国を救う事を拒んだ。
「どうしてですか」
そう叫ぶ緑に勇者は日菜の手を握り答える。
「緑ちゃんには日菜ちゃんが苦しんでるのが分からないの?」
「こんな状態の日菜ちゃん置いて、魔物退治に行けって?」
緑が黙って下を向く。
「それとも緑ちゃんがここに残って、私が魔物退治に行けとでも言うの?」
「自分じゃ、魔物を退治できないから?」
何も言い返す事ができない。
「話し合いを通して、相手と和解、その為に殺す事ができない様、女神様に頼んだんだよね」
「だったらそうしなよ」
「それが出来ないのなら、この国は諦めた方がいい」
「すみません」
「私、何も考えて無くて……」
緑はそう言うと宿屋から飛び出して行った。
恐らく緑は泣いていただろう。
だけど、こうまで言わないと……。
勇者が涙を流し、日菜の手を強く握る。
すると……。
「行ってあげて……」
弱々しく喋る日菜。
「でも……」
俯く勇者の手を日菜は力一杯握る。
毒のせいか、握られた日菜の力は弱く、それが返って辛く、勇者の心を締め付ける。
「大丈夫、私も力になるから、だからお願い」
「緑ちゃんを、この国を救ってあげて」
難題だ。
正直、この国はもう手遅れだろう。
それでも、日菜ちゃんに頼まれたなら、何とかしないと。
勇者は緑樹の薬を置き、緑を追いかけた。
勇者が出て行ったのを確認すると、日菜は時間をかけて起き上がり、両手で頬を叩き、気合を入れる。
「早く、毒を治さないと」
緑樹の薬を気合いで何本も飲み干す日菜。
この国を救うべく、勇者達が動いた。
第26話 完