第32話[願い]
遂に影を倒した。
勇者はその場で倒れ込み、魔王城の天井を見つめる。
肉体に疲労を感じながら、世界を救った達成感に喜びを感じる勇者の元へ日菜がやって来て、手を差し伸べた。
「終わったね」
「日菜ちゃん、まだ終わってないよ」
勇者は日菜の手を掴み起き上がると、恐らく天界で見ているであろう女神様に話しかけた。
「女神様、お願いです」
「魔王軍幹部と魔王を生き返らせて下さい」
そう話す勇者に答えるべく、女神様は勇者達の前に姿を現した。
「申し訳ありませんが、それは出来ません」
「お願いします」
「来世の幸せな生活も要りません」
「だから……」
勇者のその言葉を聞いて、緑が立ち上がる。
そして、勇者の隣に立つと緑は勇者同様、自分も要らないから魔王軍幹部と魔王を生き返らせる様、懇願した。
「なっ、ハァ、全く仕方ないわね」
「私も要らないから魔王軍幹部と魔王を生き返らせて頂戴」
スタリエもそう言って勇者の隣に立つ。
そして日菜は涙を流しながら自分も要らないと言って魔王軍幹部と魔王を生き返らせる様に懇願した。
「駄目とは言わせませんよ」
「私の不幸体質は死んでも治りませんでした」
「きっと来世も不幸確定です」
「そんな私が来世の幸福を手放してまで生き返らせて欲しいと願っているんです」
「絶対に叶えて下さい」
そう言って泣きながら語る日菜に続き、ララも女神様に懇願する。
「私は皆さんと違い、何の役にも立っていないのですが、勇者さん達の仲間として、お願いします」
「魔王軍幹部と魔王を生き返らせて下さい」
五人の熱い想いに胸を打たれた女神様は特別に生き返らせる事を承諾した。
そして待つ事、数十分。
女神様が再び現れて、魔王は生き返す事が出来ない事を告げた。
「どうして?」
勇者のその言葉に女神様は本人が望んでいない事を話し、そして頼まれていた伝言を伝えた。
「あの時、試練の洞窟で君と会えて良かった」
影に殺された後、魔王は未練からかアクセサリーに魂が憑依し、そして飛ばされるかの様に試練の洞窟へ吸い寄せられていた。
そして洞窟内に巡る魔王の記憶。
そこで魔王の魂は一人、嘆いていた。
「君のお陰で天に行く事が出来た」
「そして、これからは別の世界で勇者として頑張る事を決意したんだ」
そう女神様に伝えられ、勇者は「頑張ってね」と魔王に伝えてくれる様にお願いする。
そして、勇者達の望みを叶える為に力を使う女神様、眩い光が辺りを包み込むと黒騎士達が蘇った。
「ごめん黒騎士、魔王は生き返らせる事が出来なかった」
そう謝る勇者に黒騎士は暗い表情を浮かべながらも立ち上がる。
「大丈夫、あの世で別れは済ませて来た」
瞳に涙を溜めながらも、黒騎士は勇者達に生き返らせてくれた事を感謝し、お礼を言った。
「これからは人と魔物達が共存できる世界を作る為、頑張るよ」
「勿論、誰も殺さずにな」
そう笑顔で話す黒騎士に勇者は「私達も協力するよ」と言って笑顔を向ける。
「だったら、早く外に居る魔物達を止めないとな」
ペンダはそう言って、黒騎士の首に腕をかけた。
「大変、まだ皆んなが戦っているんだった」
慌てる日菜に雪花が抱きつく中、スタリエは必死になって日菜から雪花を引き離そうとする。
「馬鹿、離れなさいよ」
「嫌です」
「離れたくないです」
「私はあんたの恩人なのよ」
「少しは言う事を聞いたらどうなの」
そんな二人のやり取りを見て、ガチュミとサライヤは溜め息を吐く。
「どうするガチュミ?」
「うむ、ほっといて妾達は先に行くかの」
「あっ、でしたら私達も一緒に行きます」
雪花とスタリエに引っ張られる日菜を残し、緑はガチュミ達と一緒に外で戦っている人間と魔物を止めに向かう。
それに続き、勇者とペンダ、黒騎士も止めに走った。
残された日菜は痛みに悲鳴を上げ、雪花とスタリエに苦しめられるのであった。
第32話 完




