第31話[新たな人生]
その後、まさか異世界のゲートが開く何てね。
結局の所、私は正義のヒーローに殺されたかったのだろう。
私が小学生の頃、イジメを庇うと次のターゲットにされてしまうと身を呈して証明してしまった様に悪もまた正義によって滅びてしまうと証明したかったのだ。
「それで、これはどういう状況なのか説明してくれるのかしら?」
地獄へ直行かと思われたが私とムーは何故か女神の所へと連れて行かれた。
「あなた達に罪を償うチャンスを与えます」
「別の世界へ転生し、凶悪な魔王の手から人々を救うのです」
「フッ、何を言うかと思えば、この私に正義の味方になれと?」
「そうよ、私達が人助け何てする筈無いじゃない」
「第一、私は魔王の娘なのよ、そんな私によくそんな事を頼めたわね」
私と魔王の娘の言葉を聞いて、女神は拳を握る。
表情から彼女の怒りを感じ取る事が出来た。
「まあ、あなた達ならそう言うと思っていました」
「ですが、彼女がどうしてもと言うので、仕方なくあなた達にこの話しを持ちかけたのです」
そう言うと女神は見知らぬ少女を呼び出した。
「あんた誰よ」
「私だ」
「だから誰よ」
何コイツ。
話しが通じないんじゃない?
見知らぬ少女に戸惑う私を見て、女神はクスリと笑った。
「彼……、いや彼女はあなたが殺した魔王です」
「勇者達の頼みで生き返る筈だったのですが、それを断り、人助けがしたいと私に申し出たのです」
「この姿は転生先の人間の姿、あなた達も今とは別の姿になります」
そう、そういう事なのね。
だから私達は地獄へ行かず、此処に連れて来られたという訳。
それにしても、魔王も変わった奴だ。
自分だけじゃ無く、幹部達や人間達を殺した私と世界を救いたい何て普通じゃない。
私の事を憎んでいる筈なのに、どうしてそんな事が出来るか不思議だわ。
私なら絶対にそんな奴と旅何てしたくないもの。
だから私は断った。
だが、彼女はそんな私に手を差し伸べて来る。
「それは本心か?」
「当たり前でしょ、今更人助け何て出来る訳無いでしょ」
「出来るさ、正義のヒーローに憧れていた君ならね」
魔王の言葉を聞いて、私は女神を睨んだ。
奴に私の過去を見せたのか。
「そう、私の過去を知ったのね」
「なら分かるでしょ、私がどういう人間か」
「分からないよ、私は魔物だからね」
そう言って魔王は私の手を握った。
「くっ、あなたは私が憎くないの?」
「私の憎しみは勇者達が晴らしてくれた」
「だからもう、君を憎んじゃいない」
「そんな……」
そう簡単に許せる様な事はしていない。
なのに私を許すと言うの。
「どうか力を貸してくれないかい?」
ほんの少し私の心が揺らいでしまう。
小学生の頃の夢だったヒーローになれるのだから。
だけどムーを見て、私は考えを改める。
この子は絶対に人を助けたりはしない。
彼女が私について来てくれた様に私も彼女について行かなきゃね。
そう思い、断ろうとした時だった。
ムーが私の手を握る。
「影様が行くのであれば私は何処へでもついて行きます」
「なっ、分かっているの?」
「もう人を苦しめちゃ駄目なのよ」
「これからは人の為になる事をしなくちゃいけないの」
「それをあなたは出来るの?」
「正直、人助け何てしたくないです」
「オマケにコイツもついて来るんですよね」
そう言うとムーは魔王を睨んだ。
「それでも、影様と一緒に居たいのです」
「私を退屈な世界から救い、力を与えてくれたあなたの側に……」
「どうやら決まった様ですね」
女神はそう言うと私達を別の世界へ飛ばす準備をする。
体が光を纏い、徐々に消えていく中、私はムーの手を強く握った。
今度は絶対に間違えない。
だって私には頼もしい仲間達が居るもの……。
不意に私の前に小学生の頃の私が立っていた。
「頑張れ」
そう言ってエールを送ってくれる私に私は笑顔を向けこう言った。
「ええ、頑張るわ」
新たな世界で私は果たせなかった夢を果たす。
今度こそ、私はヒーローになるんだ。
そう強く思い、私は姿形が変わった魔王とムーと一緒に新たな旅を始めるのだった。
第31話 完




