第30話[バンジー]
「やっぱり光さんが犯人だったんですね」
彼女に追い詰められ、私は父が所有するマンションの屋上に立っていた。
久しぶりに会い、話しがあると言われ、自宅に案内したが……。
まさか、警察官になっていたとは、驚いたわ。
「こんな所に連れて来て、私を殺す気ですか?」
「随分な言われようね」
「私があなたを傷つけた事がある?」
私はそう言って、屋上の柵を触りながら意味も無く周りを歩いて行く。
「光さん、こんな事、本当はいけないんですが……、自首してくれませんか?」
「嫌よ」
私はこれまで多くの人間を殺してきた。
自首した所で死刑は免れないだろう。
だったら……。
「華さん、確かあなたは私に借りがあった筈よね」
「見逃せ……、という事ですか?」
「違うわ、私を殺して欲しいの」
「えっ……」
訳の分からない人間に罪を決められて、会った事もない人間に死刑執行の判を押される。
そして私は首を吊り、死ぬ事に……。
そんなの考えただけで、気分悪い。
奴らは正しい行いを日々しているのかしら?
少なからず、何かの悪行をしているのでは?
そんな奴等に殺される位なら……。
「私はあなたに殺されたいの」
桜を庇ったあなたに。
あの時、あのクラスで、あなたは唯一の正義だった。
体が震えて恐い筈なのに……。
自分をイジメた桜が憎い筈なのに……。
あなたは私にたった一人で立ち向かって来た。
そんなあなただからこそ、私は殺されても良いと思ったのだ。
だが、彼女はそれを断ってしまう。
無理もない、私を殺せばあなたも犯罪者になってしまうものね。
私は柵を越え、そして彼女を見つめる。
「残念ね、あなたに殺して貰えないのであれば、私が私自身を殺すしかないわね」
私はそのまま後ろに倒れていく。
そんな私を助けようと華は涙を流しながら向かって来る。
だけど間に合う筈も無く、私は屋上から地上への紐なしバンジーを楽しむのだった。
第30話 完




