第29話[償い]
待ちにまった給食の時間、私はクラスメイトを使い、担任の先生に席を外して貰った。
深刻そうな表情で相談があると言われれば、担任も放っておけないだろう。
ましてや、イジメ問題があったばかりだ。
教室から担任を追い出すのは簡単だった。
「桜〜、私から桜にプレゼントがあるの、受け取ってくれる?」
「えっ、何?」
「嬉しい」
そう言って笑顔になる桜。
そんな桜の前で彼女はミルワームが入った容器を取り出して、ご飯にかけた。
悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちる桜をクラスメイト達が笑う。
桜のグループの生徒達も彼女の裏切りに戸惑いを隠せないでいた。
「驚く程嬉しかったんだ」
「可愛い、食べさせてあげるね」
スプーンでミルワームの乗ったご飯を掬い、桜の口に近づける。
「いや、止めて」
スプーンを払い除け、叫ぶ桜を見て、彼女は舌打ちをする。
「チッ、食えよ」
そんな彼女の後に続き、クラスメイト達が桜に向かって手拍子して食えとコールする。
そんなクラスメイト達に圧倒されてか、桜のグループ全員が桜を裏切り、クラスメイト達と一緒になって手拍子を始めた。
完全に孤立してしまった桜。
彼女は涙を流しながら私に許しを請うた。
「もう許して下さい」
「私をイジメないでぇ」
「イジメられていると自覚があったのね」
「私は只、あなたがして来た事と同じ事をしただけよ」
「お願いします」
「何でも言う事を聞くから私を許してよ」
人の話しをちゃんと聞く事も出来ない訳?
まあ仕方ないか、仲間に裏切らちゃったんだから、そうなるよね。
「いいわ、許してあげる」
「但し、此処から飛び降りる事が出来たらだけど……」
「えっ、此処は三階……」
「だから何?」
「何って、死んじゃう……」
「そうね、打ち所が悪ければ死んじゃうかもしれないわね、でもそれが何だと言うの?」
「あなたは今まで色んな人をイジメてきたのでしょ?」
「なら、その罪を償わないとね」
桜の頬に手を当てる。
彼女の涙が私の手を濡らす中、私は人生の中で一番の興奮を得ていた。
あの桜が私を恐れている。
そう考えただけで心が踊る。
もうこのクラスで私に逆らう人間は居ないだろう。
そう思っていた。
「やり過ぎだよ」
そう言って華が桜の肩を抱きしめる。
クラスメイト達が華の悪口を言う中、私は彼女から視線を逸らす事が出来ないでいた。
「何あれ、光さんに助けて貰っておいてあの態度とか可笑しくない?」
「だからイジメられるのよ」
「光さん、気にしないでね」
そう話しかけて来るクラスメイトを無視して、私は桜に手を差し伸べた。
「そうね、確かにやり過ぎたわ」
「ごめんなさいね、桜さん」
桜は私の手を握り許してくれた。
正直こんな終わり方、納得何てしていないけれど、華が動いてしまったからには仕方がない。
私は彼女をイジメる事が出来ないのだから。
彼女をイジメてしまえば小学生の頃の自分を思い出してしまう。
あの頃の情け無い自分を……。
この一件から十年以上の時が経ち、私は華と再会してしまう。
私が容疑者で華が警察官という立場で……。
第29話 完




