第25話[標的]
担任がイジメられている生徒に本当か嘘か問う。
彼女は俯き、視線を逸らしながらも「イジメられてない」と答えた。
「ほらっ、先生、彼女もイジメられてないって言ってるし早く帰ろうよ」
「そうね、取り敢えず彼女には残って貰って詳しい話しを聞くとして、今はホームルームを続けましょうか」
そう言って教壇に戻る担任に向かって私が言う。
「コイツです」
「えっ?」
「コイツがイジメっ子です」
私の発言にクラス全体が固まった。
「はっ?」
「何言ってんの?」
「あなたが犯人だと言っているのよ」
「理解出来ていないのかしら?」
「まあ、無理も無いか、だってあなた、この学校に相応しくない格好をしているしね」
「テメェ、ふざけんな」
そう怒鳴り立ち上がるイジメっ子を担任が止める。
「桜さん、詳しい話しを聞かせてくれる?」
「光さんも……」
「良いですけど、今日は家族でディナー何です」
「遅くなると父が……」
「えっ、そうなの?」
「ならいいわ」
「お父様によろしくね」
あれから父は党の代表に守られ、更なる権力を得た。
それに加え、国民に寄り添う姿勢や日頃からやっているボランティア活動。
そのお陰で私が住む地域では父を支持する人が大勢居た。
だからなのか、教師達も私を特別扱いする。
「ホームルームは終わりにします」
「各自、気を付けて帰るのよ」
そう言われ、私は身支度を済ませて教室を出ようとする。
そんな私にすれ違い様にイジメっ子の桜さんがこう言って来た。
「覚えてろよ」
「あら、随分と小物みたいな台詞を言うのね」
「そんな事を言われたら忘れたくても忘れられないわ」
そう言って彼女を鼻で笑うと私は教室から出て行った。
そして翌日、私はイジメられる事になる。
しまって置いたノートや教科書は落書きされ、高かった靴は隠され、そして給食にはゴキブリを入れられた。
フフフ、あなたの家にはゴキブリが出るの?
ちゃんと掃除が行き届いて無いんじゃない?
そんな事を考えながら、私は隣の席の子に尋ねた。
「これを入れたのは誰か分かる?」
私を無視して給食を食べる彼女。
恐らく私と話してイジメの標的になるのが恐いのだろう。
「そう、ならあなたも同罪ね」
私は彼女を押し倒し、口の中にゴキブリを入れた。
クラス内は騒然となり、私は担任の教師に取り押さえられる事になる。
「ちょっと大丈夫、光さん最低」
桜はそう言うとゴキブリを吐き出し、涙を流す彼女の肩を抱きしめた。
クラス内からは私に対してブーイングの嵐が巻き起こる。
ただ一人を除いて……。
第25話 完




