第22話[守りたいから守る]
勇者と緑の強さに圧倒される影。
肉体を液体に変え、勇者の攻撃を交わし、緑の背後に回るが、緑にそれを読まれてしまい、液体から肉体に変わる隙を突かれ、緑の短剣が影の右肩に突き刺さってしまう。
(そう……、私は此処で死ぬのね)
誰の心にも残らず、私は此処で死んで行く。
別に死ぬ事に何の恐れも感じていない。
だけど、こんなつまらない死に方、私は望んでいなかった……。
それなのに……。
(どうして笑っているのかしら?)
影の表情を見て、勇者と緑は警戒する。
完全に不利である状況で、影が笑っているのだ。
何かあるに違いないと二人は考えていた。
(そうか……、私はずっとこの状況を望んでいたのね)
一人、自分の気持ちを理解した影は勇者に問うた。
人に守る価値はあるのかと……。
「あなたが殺した人魚の女王も、元はと言えば人間が原因でしょ」
人間に愛する人を殺され無かったら、ああは成らなかった。
「それに迷いの森でスタリエから話しを聞かされたでしょ」
生贄と称し、村の少女を無意味に殺した。
村の人間達が生贄何て捧げなければ、彼女は森の魔物に食われる事は無かった。
「ブランガガルだって、昔は酷い国だったじゃない」
伝説の武器職人やその街の人間達はブランガガルに滅ぼされた。
「前の世界だってそう、人は簡単に与えた恩を……、そして想いも裏切ってしまう」
そう叫ぶ影に勇者は答える。
「価値何てどうでもいい」
「私はそんな事で戦っているんじゃない」
「私は人を守りたいから戦っているんだ」
「そう、なら私は人を殺したいから全力であなた達と戦うわ」
日菜達も駆けつけ四人が影を囲む。
スタリエが皆んなのステータスを強化していく中、影は覚悟を決めた。
「いける……、これなら影を倒せます」
水晶から聞こえて来るララの声に、日菜とスタリエは微笑んだ。
「良かった、成功したみたいね」
そう言って鞭を構えるスタリエ。
日菜も魔法を唱え、火炎柱を放つが……。
「この程度じゃ、私は殺せないわよ」
そう叫び、火炎柱から現れた影。
彼女は剣を突き出し勇者を狙う。
だが、緑が咄嗟に勇者を庇い、体を剣で貫かれる事に……。
影の服は焼け、皮膚を焦がしながらも、熱さや痛みに耐え、執念で勇者達に立ち向かって行く。
そんな影に日菜は魔法を唱え、勇者達から一旦、引き離す事に。
「緑、待ってなさい」
「今私が……」
不意に背後から攻撃され、スタリエは血を吐き倒れてしまう。
地べたに体をつけながら、振り返るスタリエ。
そこには魔王の娘が立っていた。
「スタリエちゃん」
ゆっくりと血溜まりが出来ていくのを見て、焦る日菜に勇者は回復薬を飲ませる様に指示を出した。
「緑ちゃん、ごめんね」
「私が油断したから……」
勇者の両手が緑の血で染まる。
スタリエに回復薬を飲まそうと動く日菜を止めに入る影と魔王の娘。
そんな中、勇者は剣を手に持ち、立ち上がるのだった。
第22話 完




