第20話[成功]
日菜達が魔王の娘と戦っている中、勇者達は影の前に姿を見せる。
「まさか、たった二人で私の所へ来る何てね」
「私を舐めているのか、それとも……」
そう呟くと影はゆっくりと立ち上がり、剣を手にした。
「行くよ緑ちゃん」
「はい」
武器を構える二人に緊張感が走る。
今やるべき事は吸魂の水晶でララの人格を吸い出す事、その事を影に気付かれてはいけない。
気づかれたら、影が何を仕出かすか分からないからだ。
「強くなって来たと思っていたけれど……、やはり私を舐めていたのね」
防戦一方の勇者達を見て、酷くつまらなそうな表情を浮かべる影。
手を抜いているのか、影は所々隙を見せていた。
「緑ちゃん気付いてる?」
「はい、どうやら私達の事を舐めている様子ですね」
この好機を逃すまいと二人は一斉に影に向かって攻撃を仕掛けていく。
それらの攻撃を交わしつつ、わざと体勢を崩す素振りを見せる影、勇者の攻撃が迫る中、影はララと人格を交代させた。
その手で仲間を傷つけ悲しむ姿を観察しようと思っていた影だが、何やら様子が可笑しい事に気付く。
勇者の手に剣が握られていない?
そう思った時、影の体に異変が起きた。
何かが吸い出される様な感覚に襲われ、強制的に影の人格が表に出て来る事に……。
「やったよ緑ちゃん、成功だよ」
「ええ、やりましたね勇者殿」
何が起きたの?
理解出来ずに目を丸くする影。
そんな影の前で、水晶が喋り出した。
「私の体が……、これは一体?」
「ララちゃんの魂を吸い出したんだよ」
「今のララ殿の姿はこんな風になっています」
何処からか取り出した手鏡をララに見せる緑。
そしてララの肉体を用意してある事を話した。
「て事は?」
「ララちゃんは死なずに済むんだよ」
喜び合う三人を前にし、影がボソリと呟いた。
「何それ」
「えっ、何て?」
耳に手を当て、聞き返して来る勇者を影は睨む。
あまりの顔に勇者は少し怯え、後ろへ一歩、後退った。
「ちょっと勇者殿、何を怖がっているんですか」
「いや、ちょっとあの顔が怖くて……」
まるで親を殺した敵を見る様な怨みの詰まった顔に勇者は怯んでしまったのだ。
「こんな……、こんなつまらない事、私は許さないわよ」
剣を勇者に向ける影、どうやら手加減はしてくれなさそうだ。
「その水晶を壊せばどうなるのかしらね?」
「ララは死ぬのかしら?」
「それとも私の体に戻って来てくれるのかしら?」
その言葉に不安がるララ。
「勇者さん、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ」
「それに見えるかな?」
「日菜ちゃん達も、もうすぐ来てくれるよ」
室内に映し出されたモニターをララに観せる。
そこには魔王の娘を追い詰めている日菜達の姿があった。
「成る程ね、どうやら私の想像を遥かに超え、強くなって来た様ね」
「日菜達が来る前に始末しておかなくちゃ……、フフフ、勇者と緑の首を見て、あの二人はどういった表情を私に見せてくれるのかしら、楽しみだわ」
そう言って襲って来る影を前に勇者と緑は全力で立ち向かって行くのだった。
第20話 完




