第13話[ドラゴンゼブロス]
ドラゴンゼブロスの前に天使が舞い降りる。
歳を取り力が衰えたゼブロスの前に、天使は果実を四つ差し出した。
「女神様からの贈り物です」
「女神様からの?」
「はい、精霊から話しを聞いた勇者達は必ずあなたの所に来るでしょう」
「その際、勇者達に試練を与え、それを乗り越える事が出来たのなら、この実を勇者達に渡して下さい」
「分かりました」
「渡しましょう」
「それではよろしくお願いしますね」
飛び去って行く天使を見送り、ゼブロスは考える。
かつては勇者達に力を授ける事が出来た。
だが、最近になって、体の老化が進み、飛ぶ事さえ満足に出来なくなってしまった。
そんな私が試練を与える事なんて本当に出来るのだろうか?
「もう千年以上は生きている」
老い先短い私が出来る事……。
しばらく考え、ある事を思い付く。
「そうだ、それぞれの幻影と戦わせよう」
実力は互角。
自らの幻影を打ち倒したのなら、実力は幻影を作り出した時より上がっている筈。
どれだけ時間がかかるか分からないが、今の私が出来るのはこの程度だろう。
何、女神様から貰った果実がある。
それを食べれば実力は鰻登りの筈だ。
「それにしても精霊の奴、今の私の現状も理解せんと人を送り込みおって、今度会った時に注意してやらねば……」
そもそも昔から、いけ好かない奴だった。
私の事を男だと決めつけ彼と呼ぶし、勝手に推薦状を書き、人を寄越す。
極め付けは……。
「あの、あなたが戦の神、ドラゴンゼブロスさんですか?」
「えっ、何の事でしょう?」
私を戦の神だと言って、勇者達に話して回っていた事だ。
私が何時、戦の神を名乗った。
神の僕である私が神を名乗る訳があるまいに。
つか、私は教えるのが上手いだけで力はてんで強くない。
それなのに一部勇者達からパーティーの誘いを受けるし、本当に困っている。
「まあ、こんな生活ももう終わりだ」
この件が終わったら、女神様に頼み込んで、のんびりと隠居生活でもしようかの……。
そうだ、久しぶりにドラゴン族の里に帰るのも良いな。
ゆっくり飛んで、のんびり向かう事にしよう。
こうしてドラゴンゼブロスは日菜達が来るまで、老後の生活を妄想しながら、のんびり待つのだった。
第13話 完




