第9話[乙女の髪]
「いた、ペガサスだ」
そう叫ぶ日菜を勇者が注意する。
「駄目だよ日菜ちゃん、びっくりして逃げちゃうから」
これからペガサスの捕獲を行う日菜達。
近場の街で手綱は購入した。
後はペガサスに跨り、それを着けるだけ。
「よし、今だ」
ペガサスがそこら辺の草を食べ始めた時、勇者は茂みから飛び出した。
ペガサスに跨り、手綱を付けようとするが、驚いたペガサスが暴れ、ロデオマシーンが如く、勇者を振り落とそうとする。
だが、上手くペガサスを乗りこなす勇者、その姿はまるで歴史の教科書に載るナポレオンの絵の様だった。
「ゴラァ、何やってんだべさ」
見知らぬおじさんが鍬を持ってやって来る。
「こんの馬泥棒が〜」
鍬を振り回し勇者を追い払うと、おじさんは愛おしそうにペガサスを撫でた。
「大丈夫だったか、怪我してないか?」
えっ、何この状況?
そう思い戸惑う日菜、取り敢えず誤解を解く為にペガサスが野生だったと思った事を話し、乗せてくれないかと頼み込む。
「モコモコ羊の毛が欲しい?」
そう聞き返して、おじさんは日菜達をジロジロと見つめた。
「怪しいだ」
「お前さんらが、あの毛を欲しがる理由がねぇ」
「それってどういう意味ですか?」
錬金術の話しはしていないから、欲しがる理由が分からないのは分かるけれど、別に私達が羊の毛を貰うのに怪しまれる謂れはない。
ちょっとムッときた日菜におじさんは衝撃的な発言をする。
「あれは、ハゲた人しか欲しがらねぇ」
「へっ?」
「モコモコ羊の毛を飲むと頭の毛が生えてくる」
「だからハゲた人しか欲しがらねぇ」
「えっ?」
「オラのペガサスを盗もうとするし、ハゲても無えのにモコモコ羊の毛を欲しがろうとするし、おめえ達、怪しすぎるだ」
不意に日菜は俯き、両手をプルプルと震わせた。
そして……。
「お父さんが重度のハゲなんです」
と嘘を吐くのだった。
「そうか……、父ちゃんの為に……、だから必死になって、オラのペガサスを捕まえようとしたんだな」
「よし、分かった」
「乗りな、オラが村まで連れて行ってやるだ」
こうして日菜達はペガサスに乗って天上の村へ向かうのだった。
そしてその道中……。
「知らなかったです」
「日菜殿の父様が薄毛で悩んでいたなんて……」
「えっ?」
「最近、日菜殿も抜けてきてましたからね……」
「でも、大丈夫です」
「モコモコ羊の毛を沢山刈りましょう」
「いや、緑ちゃん何言ってるの?」
「それに私、髪の毛抜けてきてないよね?」
何だろう、私の嘘、信じちゃったのかな?
つか、前の世界でお父さんがハゲだったとしても、今の私と関係ないよね?
転生して姿格好が違う訳だし……。
まあ、眼鏡かけている所は同じだけど……。
それにしても、さっきから何で誰も視線を合わせてくれないんだろう?
そう考える日菜に勇者とスタリエが声をかけてきた。
「大丈夫だよ日菜ちゃん、寧ろハゲたら誰も日菜ちゃんの事、狙わなくなるから私はその方が嬉しいよ」
「そうよ日菜、私も全然平気だわ」
「それに思春期だもの、髪の毛くらいゴッソリと抜けるわよ」
二人まで何言ってんの?
ホントに冗談だよね?
皆んなして、さっきから髪の毛の事ばかり言って……、私そんなに抜けてないもん。
後に村に着くや否や、日菜は村で宿を取り、お風呂に入る事に……。
皆んながああ言ったせいか、頭を洗った際に抜けた十本の髪の毛を見て、日菜は悲鳴をあげるのだった。
第9話 完




