最終章第1話[玉]
日菜達は皆んなで海の国に来ていた。
ホムンクルスに必要な材料で一番簡単に手に入りそうな道具。
それが化け物イカの◯玉。
かつて勇者が海賊達の寝ぐらに持って行き、地獄を見せた代物だ。
「海……、泳いでみたいです」
リーサの言葉に首を横に振る日菜。
そんな日菜に勇者は言う。
「泳いで来たら?」
「でもララちゃんの為に頑張らないと……」
日菜の口を慌てて塞ぐスタリエ。
そして日菜の耳に口を近づけ「あの臭いを忘れたの?」と呟いた。
「でも、勇者ばかり大変な……」
「馬鹿、勇者と緑だけ何故か平気だったじゃない」
うっ、確かに……。
「じゃあ、お任せしようかな……」
「うん、任せてよ日菜ちゃん」
「皆んなで海、楽しんでて」
勇者……。
何だかんだで優しい所、あるんだよね。
「フフフ、勇者も頑張ってね」
「うん」
この和やかなムードをスタリエの言葉が原因で壊れてしまう事に……。
「化け物イカの金◯手に入れたら、入念にお風呂に入ってよね」
「は?」
「臭いから近寄らないでって言ってるの」
「ちょっとスタリエちゃん、言い過ぎだよ」
そう日菜がスタリエに言うが、時既に遅し。
勇者は完全にキレていた。
「……ちゃる」
「はい?」
「抱きついちゃる」
「抱きついてチュッチュしちゃるわ」
そう叫ぶ勇者。
「冗談じゃ無いわよ」
「本当に止めてよ」
「いい、絶対よ」
「五月蝿い、化け物イカの◯玉を全身に擦りつけてから抱きついちゃるわ」
「そんな事をしたらどうなるか分かっているわよね?」
「フフフ、鞭で叩くの?」
「それは拙者にとってご褒美でござる」
「バッカ、一ヶ月口聞かないわよ」
「フフフ、だったら話しかけてくれる様に毎日、スタリエちゃんの使用済み靴下の匂いを嗅ぎながら、実況するね」
「この馬鹿」
そんな二人のやり取りを見て、緑が呟く。
「お二人共、本当に仲が良いですね」
何処が?
そう、その場に居る誰もが思った。
「ちょっと勇者、落ち着いて、何だか性格がいつも以上に気持ち悪くなってるよ」
流石にスタリエちゃんの靴下を本人の目の前で匂いを嗅ぎながら実況する発言には背筋がゾワゾワした。
「だって日菜ちゃん、スタリエちゃんが悪い事、言うんだもん」
「なっ、だったら日菜は抱きつかれても良い訳?」
「いや流石にそんな事、しないでしょ」
「んっ?」
えっ、何その顔?
まさかする気じゃ……。
「冗談だよ日菜ちゃん」
「流石にしないよ〜」
「ホラッ、早く水着に着替えて泳いできな」
そう言って笑顔で送り出してくれる勇者だったが、この日、化け物イカを見つける事が出来なかったのだった。
第1話 完




