第7話[必殺技]
折れた大剣を構え、黒騎士は緑を警戒している。
風が吹き、緑の髪が揺れ、日菜は固唾を飲み込んだ。
緑が刀を握りしめると同時に姿を消す。
そして、無数の閃光が黒騎士を襲った。
あまりの速さに緑を捉える事が出来ない。
「これで最後だぁ」
緑の強烈な一撃を喰らい、黒騎士の体は数メートル先へ吹き飛ぶ。
「フフフ、これが私の実力です」
決め台詞と共に、緑は刀を鞘へ納め、ドヤ顔をする。
「すごい……、凄すぎるよ緑ちゃん」
日菜は歓喜した。
これ程までに強い相手が仲間に加わるのだから。
だが、喜びは束の間で、日菜はすぐに絶望する事となる。
「全然効かないわよ」
あれ程までに凄い攻撃を受けながらも、黒騎士はピンピンしていたのだ。
現実を受け止めきれない日菜に気づいた緑が日菜を安心させようと、声をかける。
「大丈夫です」
「私のステータスは、魔王をも遥かに超えていますから」
それを聞き日菜は元気を取り戻すのだが……。
「本当、じゃあ、さっきの凄い攻撃は本気じゃ無かったって事?」
緑は首を横に振る。
「あれは私の必殺技です」
(あれぇ、必殺技って必ず殺す技と書いて必殺技なんだよね?)
(ピンピンしてるけど……)
自信満々に答える緑に対し、日菜は混乱してしまう。
魔王より強いのに何故、黒騎士には通用しないのか?
考えられる原因は一つ。
緑が嘘を吐いているのでは?
「本当に緑ちゃん、魔王より強いの?」
「はい、もちろんです」
「ただ、この装備している刀の能力で与えるダメージはゼロになっちゃうだけです」
「まあ、無益な殺生はしないって奴です」
「いや、無益じゃないから」
「有益だから」
神界は何を考えているのだろうか。
ステータスが高いだけで、与えるダメージがゼロなんじゃ意味ないじゃない。
そりゃ、相手の武器を折ったのは凄いけど、相手にダメージを与えられないんじゃ倒せないじゃない。
んっ、武器は……?
「ダメージ与えられないのに、どうして武器は折れたの?」
「武器に攻撃しても、肉体的ダメージは無いですからね」
「武器を折られた事に精神的ダメージを与え、説得する」
「これが私の戦い方です」
はぁ、また変なのが仲間になったものだ。
落胆する日菜を他所に、黒騎士は緑に話しかける。
「話しは終わったのか?」
二人の会話が終わるまで待っていた黒騎士。
大剣を捨て、鉄仮面と鎧を外し拳を構える。
「フッ、まだ諦めていませんか」
「いいでしょう、諦めるまで相手になりましょう」
緑も刀を構え、二人の無駄な戦いが始まった。
第7話 完
第8話へ続く。




