第80話[ほらねっ]
薄暗い闇の中で私はペンダ様と会っていた。
「ペンダ様、裏切ってしまい申し訳ありませんでした」
ずっと謝りたかった。
魔王様の血を受け継いだ彼女に逆らえず裏切ってしまった事を……。
当然、そんな私をペンダ様が許す筈は無いだろう。
だってペンダ様は手に持っていた斧を私に向けて来たのだから。
覚悟は出来ている。
ペンダ様に斬られても仕方がない事を私はして来たのだから。
そう思っていた。
だが……。
「此処から先はお前が来てはいけない場所だ」
「へっ?」
「どうしても行きたいのなら、私を倒して行くんだな」
「ペンダ様、何を?」
「テメーの後ろを見てみろよ」
言われるがまま、後ろを振り返る。
するとそこにはカエンとスイ、そして僧侶が私を治療しようと回復魔法をかけている映像が映し出されていた。
「引き返すなら今の内だ」
「でも……」
「悲しむ仲間が居るんだろ」
「だったら引き返せ、それでもどうしても死にたいと言うのなら、私を倒して先に進むんだな」
「まあ、私は絶対に負けないがな」
ペンダ様の言葉に私は涙する。
「私を恨んでいるんじゃ無いんですか?」
「ケッ、馬鹿な事を言うなよな」
「私も雪花達も影にやられたんだ」
「お前の様な小物にやられたんじゃない」
「だから気にすんなよ」
「勇者にも言われただろ、生きろってよ」
ペンダ様……。
私は振り返り走った。
暗い道をただひたすら走ったのだ。
カエンやスイが映る映像めがけ、ひたすら……。
そして目を覚ます。
カエンやスイは私に抱きついて来て、勇者達も私に笑顔を向けてくれた。
「それでスタリエちゃん、その二人は?」
フウカが元気になって、日菜はスタリエに見知らぬ二体の魔物について尋ねていた。
事情を日菜達に説明するスタリエ。
日菜はそれを聞いて考え込んでいた。
(魔王の娘は幹部に裏切り者が居ると言っていた)
(スタリエちゃんの話しを聞いていて、あの雨を降らせたのはスイって子だろう)
(でもフウカの話しによると魔王の血に逆らえない筈だ)
何でだろう?
そう疑問に思った日菜はスイに何故、雨を降らす事が出来たのか尋ねてみた。
「はあ、この僧侶様が怖いからでしょうか?」
「誰が怖いって?」
「日菜の前で変な事を言わないでくれる?」
そうスタリエが文句を言う中、緑がメルヘン王国のお姫様のお陰だと言い出した。
「確かに、あのお姫様に許して貰ってから、人間を守らなきゃって思いました」
「ヒヒヒ、私もスイと同じです」
それだ。
だったらフウカも始まりの国のお姫様に許して貰えば、改心して魔王の血に逆らえる筈。
そう思い、皆んなに話す日菜だったが……。
「へぇ〜、この国のお姫様もメルヘン王国のお姫様みたいに優しいのね」
「んっ?」
スタリエの言葉に戸惑う日菜。
大丈夫だよね?
うん、大丈夫。
此処のお姫様も優しかった筈……。
そう自問自答する日菜に勇者が声をかけて来た。
「日菜ちゃん、止めて置いた方がいいんじゃない?」
「大丈夫だよ、事情を説明すれば分かってくれる筈……」
こうして日菜はフウカを連れて始まりの国のお姫様に会いに行くのだが……。
「死刑にします」
「ほらねっ」
この時の勇者のドヤ顔を日菜は忘れられなくなってしまうのだった……。
第80話 完




