第79話[卑怯者]
緑は魔王の娘の背中に刺さった小刀を引き抜き、魔王の娘は勇者と緑に囲まれた。
「ちょっと卑怯じゃ無い、こっちは一人なのよ」
「あれ?」
「あなたの力には幹部だけじゃ無く魔王の力の一部も入っているんでしょ?」
「なら人数的にそっちの方が多いじゃない」
「くっ……」
何を言っても言い負かされてしまう。
ならばと思い、魔王の娘は空を飛び、部下達に勇者達を襲う様に指示を出した。
「雑魚の相手は私に任せて」
そう言って魔法を唱え様とする日菜をスタリエが止める。
「ちょっと日菜、あんた何やってんのよ」
「何って雑魚を魔法で片付けようと……」
「お馬鹿、相手は空を飛んでいるのよ」
「勇者や緑じゃ届かないじゃない」
「ここは、我がパーティのエース、日菜の出番でしょ」
「スタリエちゃん……、うん、任せてよ」
張り切る日菜を見つめ、スタリエはウットリする。
流石日菜、チョロ可愛いわ。
「て事は私達は雑魚を片付ければいいんだね」
「行くよ緑ちゃん」
「はい」
勇者と緑が魔物の兵を相手にしていく中、日菜は呪文を唱えていく。
「させないわ」
魔王の娘が雪花の氷の技を使い攻撃するが、スタリエはバリアを貼り、その攻撃を防ぎ、日菜の呪文が唱え終わるのを待った。
そして……。
「我が魔力に呼ばれし蒼き炎の黒炎、今全てを焼き尽くせ」
青か黒か一体どっちなのよ。
そう心の中でツッコミ、スタリエは魔王の娘が焼かれていくのを見つめていた。
やった、これで確実に死んだわね。
そう思ったのも束の間、魔王の娘を包んでいた炎が消え、魔物の兵の一匹が突如、空を飛び、魔王の娘と勇者達に向け言葉を発したのだった。
「まだ体が馴染んでいない様ね」
「それにしても、やるじゃない私が攻めた全ての国を守る何て、想像以上だわ」
「影様……」
「撤退よ」
「はい……」
「させない」
日菜が再び魔法を唱え、放つ。
だが、影に操られた魔物の兵士はそれを打ち消し、勇者達に向け言葉を発した。
「残念だけど、この操り人形じゃ、あなた達を倒す事は出来ないわ」
「せいぜい、あと何発かの魔法を打ち消すのが限度でしょう」
「だけどそれだけすれば、逃げる時間は確実に稼げる」
「あなた達もただ操られているだけの兵士を一匹倒しても意味はないでしょ?」
「なら、無駄な体力は使わずにそこで倒れている幹部を助けたらどうなの?」
「彼女はまだ生きているわよ」
影に操られた魔物の兵士はそう言うと去って行った。
それを確認したカエンとスイはフウカの元へ走り、スタリエに回復魔法をかける様に懇願するのだった。
第79話 完




